農業利益創造研究所

コラム

2020年に儲かった作物分野は? 様々な数字を徹底比較

個人情報を除いた2020年度の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家16,590人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

一言で「農業」といっても、なかなか一括りで言いにくいものです。なぜなら農業には果樹や園芸など様々な作物があり、また稲作と畜産では共通することの方が少ないのではないかと思うぐらい経営内容が違うからです。

したがって「農業ってどうよ?」と言われても、実のところ「作物によって違います」としか答えようがないものですが、「では、経営上は何がどのくらい違うのか?」「結局どの作物が儲かるのか?」と具体的に聞かれると、なかなか明確に答えられないものです。

各作物分野の損益は?

今回は、2020年でどの作物分野が一番儲かったのかということと、各分野の主な特徴などについて調べてみました。以下は、2020年の各作物分野の平均損益を一覧で表したところです(金額単位:千円)。

区分 普通作 稲作一位 果樹 野菜 施設園芸 酪農 肉用牛 平均
経営体数 2,739 1,685 1,175 5,283 790 391 474 14,895
世帯農業所得 4,458 6,473 4,315 5,367 4,145 9,306 4,388 4,937
収入金額合計 17,090 23,192 12,491 20,063 15,702 62,522 33,355 20,128
販売金額 11,919 16,669 11,292 16,348 14,225 55,696 27,491 16,245
農業経営費 12,632 16,719 8,177 14,696 11,557 53,216 28,967 15,191
世帯農業所得率 26.1% 27.9% 34.5% 26.8% 26.4% 14.9% 13.2% 24.5%

まず儲けの金額を表す世帯農業所得ですが、酪農が9,306千円と一番高くなりました。しかし酪農は同時に収入金額も62,522千円と他の分野と比べて非常に大きいので、所得金額が大きくなるのもある意味当然です。

一方、所得率から見てみると、酪農は14.9%と非常に低いので、利益効率の低さを規模でカバーしている状況が伺えます。つまり酪農は一定規模に達すればそれなりの儲けを上げることができますが、その規模に満たなければ儲けにくいと言えそうです。

世帯農業所得率が最も高いのは果樹で、34.5%もありました。収入金額は12,491千円と、専業農家とすれば必ずしも大きな規模とは言えませんが、所得金額が4,315千円というのはサラリーマンの平均給与4,364千円とほぼ同じですので、一般的な所得水準を得ていると言えます( 「令和元年分 民間給与実態統計調査(国税庁長官官房企画課)」 )。

果樹は機械化が進んでおらず、かつ多くの人手が必要なことなどから、なかなか大規模化が進めにくいという弱みがありますが、その一方で加工需要が大きく、また高級化路線を取りやすいため、作物に高い付加価値をつけることが可能になります。したがって酪農とは逆に、高い利益効率を得ることで比較的小規模でも経営が維持しやすい分野と言えるでしょう。

各作物分野の経営における特徴は?

儲けに着目すると以上のとおりですが、統計を見るとこれ以外でも作物分野ごとに際立った経営の特徴が伺えますので、以下の表(作目別の農家平均額:単位千円)を少し見てみましょう。

まず雑収入ですが、金額でみると普通作や畜産が大きく、収入金額合計との割合で見ると普通作29.0%、稲作一位27.0%と非常に大きくなります。この雑収入のほとんどは補助金関係と思われるので、普通作や稲作経営は他の分野と比べ、収入面で政策や制度に大きく依存していることが伺えます。

区分 普通作 稲作一位 果樹 野菜 施設園芸 酪農 肉用牛 平均
収入金額合計 17,090 23,192 12,491 20,063 15,702 62,522 33,355 20,128
雑収入 4,958 6,272 1,067 3,567 1,434 6,008 5,696 3,718
雑収入の割合 29.0% 27.0% 8.5% 17.8% 9.1% 9.6% 17.1% 18.5%

次に減価償却費を見てみます。これも金額で見ると酪農が際立っており、総費用額との割合でみると、ここでも普通作19.1%、稲作一位18.2%と他の分野より大きくなっています。酪農や普通作は機械化が進んでいるため、設備の生産性や設備投資のタイミング、およびそのための資金の確保などが経営上重要なウェイトを占めていると推定されます。

区分 普通作 稲作一位 果樹 野菜 施設園芸 酪農 肉用牛 平均
農業経営費 12,632 16,719 8,177 14,696 11,557 53,216 28,967 15,191
減価償却費 2,407 3,042 934 1,715 1,269 7,888 3,890 1,967
減価償却費の割合 19.1% 18.2% 11.4% 11.7% 11.0% 14.8% 13.4% 12.9%

最後に雇人費を見てみますと、金額では野菜、施設園芸、酪農が多く、総費用額との比較は、果樹10.6%と施設園芸9.5%が最も高くなっており、これらが人手を多く必要とする分野であることがよくわかります。したがってこれらの分野は人材の確保や待遇、育成などが経営上重要な課題になってくると言えそうです。

区分 普通作 稲作一位 果樹 野菜 施設園芸 酪農 肉用牛 平均
農業経営費 12,632 16,719 8,177 14,696 11,557 53,216 28,967 15,191
雇人費 353 489 869 1,049 1,097 1,299 611 911
雇人費の割合 2.8% 2.9% 10.6% 7.1% 9.5% 2.4% 2.1% 6.0%

以上のとおり、2020年度の決算結果から儲かった作物分野や、分野ごとの経営特徴などを見てきました。所得アップのためには、まずは自分の作物分野の経営特徴をしっかり理解して、そこへの対応を経営戦略の軸に据えることが必要になります。

南石教授のコメント

多くの人が、どの作目の所得が多いか気になるのは、当然です。表を見ると、酪農の所得が最も高くなっており、施設園芸の2.2倍~稲作の1.4倍もあります。しかし、その所得を得るための、労働時間が気になります。一般に、酪農では給餌や搾乳など、文字通り毎日、欠かせない作業があります。土日祝日、盆暮れ正月でも、これらの農作業を行わないと、大切な乳牛が空腹になり乳房炎等の病気になります。酪農の高い所得は、そうした日々の労働に対する報酬と考えることもできます。

一方、作目によっては、所得が低くても、労働時間も考慮した時給でみれば、高時給の作目もあります。また、労働の時間だけでなく、労働の強度・負荷、重労働・軽労働の農作業と作目によって様々ですから農業経営は多様で奥が深いです。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。