農業利益創造研究所

コラム

2020年、コロナ禍の中で農業経営はどうなった?

個人情報を除いた2020年度の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家16,590人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

昨年、東京の渋谷のど真ん中のビルの屋上に「まいったな2020」という看板ができて、ちょっとした話題になりました。この看板を出したのはアパレルメーカーらしいですが、2020年は新型コロナの影響で全国的に大きな経済損失が生じたので、確かに多くの人にとっては「参った・・・」とボヤきたくなる年だったのだと思います。

こんな2020年でしたが、農業経営への影響はどうだったのでしょうか?

飲食店が大きなダメージを受けたので、その“上流”にある農業もそれなりの影響を受けただろうことは容易に想像できます。では実際はどうだったのか、早速農家の経営データを見て確認していきたいと思います。

以下の表は、2020年と2019年の損益平均(単位千円)を比較したものです。
※経営体数の差はデータ調査サンプル数の差です

区分 2019年 2020年
(2019→2020)
経営体数 8,762 14,895 6,133
世帯農業所得 4,874 4,937 63
収入金額合計 20,001 20,128 127

販売金額 16,367 16,245 -121
雑収入 3,505 3,718 213
農業経営費 15,127 15,191 64
世帯農業所得率 24.4 24.5 0.2

これによると、世帯農業所得は63千円、所得率0.2ポイント各々増加しており、損失どころか逆に微増していることが解ります。

もちろん販売高は121千円落ち込みましたが(0.7%減)、新型コロナ対策の給付金の影響でしょうか、雑収入が213千円増加して結果的に所得が微増しました。いずれにしても、被害も給付効果も限定的で、総じて2020年度の農業経営には新型コロナの影響はほとんどなかったと言えそうです。

これはどういうことなのでしょうか。今回のコロナ禍で多くの農作物を扱う外食産業は休業を余儀なくされました。だからと言って人が食べることを止めたわけでは当然なく、今まで外で食べられていたものが、家の中で食べられるようになったということなのでしょう。

つまり、農作物の総需要自体は変わらなかったので、“上流”にいる農家の経営には影響が無かったということなのだと思います。

もっとも農家の中には外食産業と直接取引をしているところもあり、そういう農家を個別で見れば新型コロナの影響は深刻だったと思われます。

しかし市場を通じて出荷をしている農家は、自分の作った作物の買い手が固定しているわけではないので、外食産業の受けたダメージがそのまま農家の経営に及ぶことは無かったといえます。そしてそのような市場出荷をしている農家の方が、まだまだ圧倒的多数だということが、今回の全体結果に表れたのでしょう。

まとめ

近年、農家はより多くの利益を得るために、市場を介さず加工業者や小売店などと直接取引することを推奨するような議論が様々なところでされています。確かに中間手数料が取られる市場出荷よりも、直接取引をしたほうが農家の手取りも多くなるのは間違いありません。

しかし今回、コロナ禍という急激な環境変化に直面すると、そのような進歩的な試みには非常にもろい面があることがわかり、一方で“オワコン”のようにさえ思われていた市場には、その調整機能が緩衝材となって結果的に農家の所得を守ることができたとも言えます。

経営にはリスクを分散するという考え方があります。仮に有利な作物や販売方法があっても不測の事態に備えて特定のものに集中することを避けて、多少の不効率があっても複数の経営資源や手法を維持しておくというのもその考えの一つです。

今回のコロナ禍は、目先の経営効率だけにとらわれず、より大きな視点で農業経営を考える重要性にあらためて気づかせてくれた機会なのかもしれません。

南石教授のコメント

今回の結果を見ると、2020年と2019年の所得や販売金額の差が1%程度と小さいので、常識的には、両年の所得も販売金額もほぼ同じといえそうです。

このデータを見る限り、調査対象の農家については、新型コロナウイルス感染拡大の影響は、ほとんど見られないようです。新型コロナウイルス感染拡大により、社会全体では飲食店での農産物の消費は減少しますが、その一方で、家庭で食べる分が増えたということでしょう。

なお、統計学的には、2020年と2019年の2つの農家群の所得や販売金額の平均値に有意差があるか否かの検定(平均値の差の検定)を行うことができます。ただし、差が1%程度と小さいので、仮に、平均値の差に統計学的有意差があっても、現実的な意味はほとんど無さそうです。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。