農業利益創造研究所

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気になる!? 野菜農家の世帯農業所得が高い都道府県はどこ?

個人情報を除いた2020年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家16,590人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

2019年度の分析では、都道府県別の稲作の所得ランキング「稲作農家の所得が高い都道府県はどこ?まさか米どころ新潟県が...」と所得率ランキング「全国で稲作農家の所得率が一番高い都道府県はなんと〇〇県!」をそれぞれ分析・発表いたしました。

そして今回は、気になる都道府県ランキングシリーズとして、野菜農家(野菜を主要に栽培している農家)の平均世帯農業所得(農業所得+専従者給与)の都道府県別ランキングを「露地」「施設園芸」に分けてそれぞれ発表いたします。いったいどのようなランキングになるのでしょうか?

※なお、このランキングはあくまでも『農業簿記』のユーザーである農家の分析結果です。全国の農家全体のランキングとは異なっている可能性がありますので、ご了承ください。

野菜農家の世帯農業所得ランキング 露地栽培編

順位 / 都道府県 世帯農業所得
(単位:千円)
最多主幹作目
1位 北海道 11,068 馬鈴薯
2位 山形県 7,553 メロン
3位 千葉県 7,245 にんじん
4位 茨城県 6,058 レンコン
5位 愛知県 5,617 キャベツ

まずは、露地栽培から発表いたします。北海道がダントツの一位です! 北海道は稲作の所得ランキングでも堂々の第一位を獲得していましたが、農業に有利なその土地の広さはやはりあなどれないようです。最多主幹作目は「馬鈴薯(じゃがいも)」です。北海道といえばすぐに連想される代表的な野菜ですから、納得の結果です。

二位は山形県で、最多主幹作物はメロンとなっています。ご存じの農家さんも多いかもしれませんが、メロンは園芸上では野菜に分類されるため、今回のランキングでも「野菜」として分析しています。こちらは一位の北海道に比べて、やや意外な結果だったかもしれません。

さらに、第三位の千葉県、第四位の茨城県、第五位の愛知県と野菜作りの盛んな地域が並んでいます。この三つは都市圏に近く、新鮮な野菜をすぐに届けられることも、生産上での強みかもしれません。

野菜農家の世帯農業所得ランキング 施設園芸編

順位 / 都道府県 世帯農業所得
(単位:千円)
最多主幹作目
1位 茨城県 7,564 きゅうり
2位 群馬県 7,210 いちご
3位 北海道 6,413 トマト
4位 長野県 5,187 いちご
5位 埼玉県 4,886 きゅうり

次に施設園芸のランキングです。「きゅうり」「トマト」などは栽培が簡単で収量も多く確保できる野菜として名前が上がりますが、このようなメジャーどころの作目からのランクインとなりました。茨城県・群馬県・埼玉県と五つ中三つが関東圏で、大消費地である東京に近い点も有利に働いていそうです。

第一位は茨城県! 最多主幹作目は「きゅうり」です。茨城県はきゅうりの産地としては第七位(農林水産省「作況調査(野菜) 確報 令和元年産野菜生産出荷統計」)で、決して高いわけではありません。ただし「千石きゅうり」のブランドが半世紀にわたって親しまれているなど、ブランド力には定評があります。

第二位は群馬県で、主要最多作目は「いちご」です。いちごといえばお隣の栃木県の方が有名なイメージがありますが、群馬県は他にも様々な野菜の産地として知られていますから、いちごだけではなく総合的に順位が上がったのではないでしょうか。

第三位は北海道で、主要最多作目は「トマト」です。実は、北海道を代表する野菜であるじゃがいもとトマトは、同じアンデス山脈を産地に持つ野菜です。じゃがいもが北海道で良く育つのは、北海道の気候がアンデス山脈に似ているからですが、同じ理屈で北海道はトマト栽培にも向いている土地なのです。

また、施設園芸であってもトマトを秋に出荷するのは難しいのですが、冷涼な気候の北海道では秋に出荷することが可能で、それが高値に繋がっていると推察されます。

野菜栽培では「どの野菜を栽培しているのか?」も利益創造において重要なポイントです。あくまでも『農業簿記』のデータを元にしたランキングですが、野菜栽培での利益創造において、参考にしていただければ幸いです。

関連リンク

農林水産省「作況調査(野菜) 確報 令和元年産野菜生産出荷統計

南石教授のコメント

農業所得には、家族の労働に対する報酬(自家労賃見積額)や家族が所有する農地に対する報酬(自作地代見積額)等が含まれています。このため、所有農地面積が大きい北海道の露地栽培(馬鈴薯)農家の所得が高くなる傾向があります。また、多くの労働時間を要する労働集約的な野菜は家族中心で栽培している農家の所得は高くなる傾向があります。

都市近郊の農家は大市場への流通コストを節約できますし、適地適作にて作付けると収量も多くなりますので、労働力や農地といった経営資源に加えて、立地もある意味では経営資源であり、所得に影響する重要な要因と言えます。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

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