農業利益創造研究所

コラム

兼業農家の実態は? パラレルワーク(二刀流)が日本農業を救う!

個人情報を除いた2020年度の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家16,590人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

専業農家と兼業農家、農家にはこの2種類あるというのは、ご存知のところでしょう。農業収入が主となる場合は専業農家、農業以外の収入が主となる場合は兼業農家です。

厳密には「主業経営体」(農業所得が主)、「準主業経営体」(農外所得が主)、「副業的経営体」(年間60日以下の労働)と分けられます。

農林水産省の「農林水産基本データ集」によると、主業経営体は22万経営体、準主業経営体は13万、副業的経営体は63万です。日本の食料の大部分は専業農家によって支えられているのは勿論ですが、兼業農家もこれだけ数が多いですから、大きな影響力を持っています。

兼業農家を分析するにあたり、今回のコラムでは2020年の簿記データから、農業の収入金額が1,000万円以下の農家を兼業農家と暫定的な定義として分析しました。

兼業農家の経営実態を探る

収入金額1,000万円以下農家の集計(2020年)
個人事業全体 普通作 野菜作 果樹作
経営体数 5,907 1,101 1,918 577
全体の中の比率 39.7% 40% 36% 49%
世帯農業所得額 3,342千円 1,783千円 2,406千円 2,741千円

収入金額1,000万円以下の農家は5,900経営体あって、全体の40%です。『農業簿記』ユーザー内の数字と考えると、意外と多い印象です。ちなみに「2020年農業センサス統計データ」では、1,000万円以下農家は全国で94万経営体あり、全体の88%です。

次に収入金額別の統計を見てみましょう。

収入金額1,000万円以下の 収入金額規模別 経営体数と経営概況
~100万円 100万円~ 200万円~ 300万円~ 500万円~ 700万円~
経営体数 970 539 548 1,155 1,068 1,627
世帯農業所得 -744 -362 -178 678 1,380 2,226
うち 専従者給与 81 99 172 304 481 747
世帯農業所得率 -274.4% -24.4% -7.1% 16.9% 22.9% 26.0%
生産原価 755 1,321 1,966 2,348 3,272 4,403
一般管理費 ほか 261 526 747 989 1,366 1,925

金額の単位:千円 ※世帯農業所得率 =(控除前農業所得+専従者給与)÷ 収入金額計

収入金額が100万円未満の農家が970経営体もあります。決して農業収入が多いとは言えない農家でも、簿記ソフトを購入して仕訳を入力し、青色申告を頑張っているようです。

残念ながら、表にみる通り赤字ですが、収入がこれだけとは考えにくいので、サラリーマンの給与や不動産経営の収入などがあって確定申告するうえで簿記ソフトが必要だということではないかと考えられます。

それから、収入金額700~1,000万円の農家は世帯農業所得の農家は世帯農業所得(控除前農業所得+専従者給与)が222万円です。しっかり所得を出して、しかも世帯農業所得率が26%とそれなりに高い値になっているようです。

ちなみに、収入金額1,000万円以上の経営体全部の世帯農業所得率の平均は22.6%です。つまり、もっと収入が多い農家と比較しても、この層は高い所得率を得ていることになります。

テレワークの広がりで、兼業農家が新しい働き方として注目

現在の兼業農家は、大きく分けてこの2種類に分けられます。
 (1)親が農業をやっていたからサラリーマンである自分が農地を引き継いで行っている
 (2)農業が忙しくない時だけ他の仕事をしている

しかし、これからは(1)でも(2)でもない第3の兼業農家が増えてくるのではないかと予想しています。 それは、メインの仕事をやりながら平行的に農業を行う「パラレルワーク」、まさに二刀流の働き方です。

そもそも「パラレルワーク」とはなんでしょうか。それは、2種類以上の仕事を同時に手がける、パラレル(平行の、並列の)の働き方です。

「副業とどう違うの?」という疑問をお持ちの方もいるかもしれませんね。「副業」とは、メインの仕事の隙間時間にサブ的に行う仕事を指しています。最近では、平日は会社で勤務している会社員が、空き時間や休日にウーバーイーツの配達員を請け負う、などがコロナ禍で注目された副業の例として挙げられます。

一方のパラレルワークでは、どちらかがメインでどちらかがサブ、ということではなく、いずれの仕事にも均等に重点を置いている点が、副業との相違です。

農業でのパラレルワークが広がると考える最も大きな理由は、同じくコロナ禍で急速に普及したテレワークです。国土交通省の「2020年度 テレワーク人口実態調査」によると、昨年度のテレワーカーの割合は、昨年度の9.8%から、19.7%と倍増しています。特に首都圏では 31.4%と高い数字となっています。

これまでは農業に興味を持っていても、都会で暮らして会社員勤めをしている場合、地方で農業を営むのが難しいという現実がありました。週末に遠方の農地に足を運ぶにしても、移動に時間がかかりますし、週に一回しか見回りや手入れができないのでは不安も残ります。

しかし、テレワークで働いていれば、話は別です。都会から地方に引っ越して、テレワークで本業の仕事をしながら、農業も行うというパラレルワークが可能となる時代が訪れたのです。

参考までに、2021年2月にこんな記事が出ています。
~働き方が多様化する時代に、「農業」も一つの選択肢に~ JAグループ北海道が農業の新しい働き方を提案する「パラレルノーカー」本格始動

農業といえば、「休みが取れなくて働きづめ」というイメージがまだありますが、時代の流れと共にこのような働き方が出てきたことは、大きな意味を持つ変化です。

インターネットのオンラインショップの知識を持っている人、デザインスキルがある人、マーケティングに強い人、経営・経理に強い人、世の中には様々な方がいて、それぞれの知識は全て農業で活かすことができます。今では、大量の農産物を生産してJA出荷するという販売形態でなくても、食べチョクなどのネット販売で少量販売が可能な時代です。

パラレルワーカーとして働いている場合、どうしても生産量は専業農家に比べて小さくならざるを得ないでしょう。しかし、こういった新しい形の農業「パラレル農家」が少しづつ増えてくれば、農業界全体の活性化にもつながるはずです。「新しい農家」の今後の広がりには、注目していきたいところです。

関連リンク

農林水産省「農林水産基本データ集」
農林水産省「2020年農業センサス統計データ
国土交通省「2020年度 テレワーク人口実態調査

南石教授のコメント

最近では「農家林家」や「半農半漁」という言葉を知っている人は少ないです。農家林家とは、林業と農業の両方を家業としいる世帯を意味しています。半農半漁は、漁業と農業を生業にしている言います。今では農民を意味すると思われている「百姓」は、「百の仕事をする人」、「いろいろな仕事をする人」という意味であったと一説ではいわれています。

昔から、農山漁村では、季節や状況に応じて色々な仕事を組合わせて暮らしていたことが分かります。現代風の「半農半X」が、昔は当たり前だったようです。このように考えると、農山漁村では、昔から「パラレルワーク」はとても普通のことであったように思います。現在進行中のデジタル革命は、新たな形態の「パラレルワーク」を可能にし、農山漁村の魅力を高めるように思います。

今回の分析結果をみると、収入が300万円以上はないと、農業から得られる世帯所得(専従者給与を含む)がプラスになりません。300万円未満だと赤字です。「パラレルワーク」であっても、「ワーク」(仕事)であるかぎり、赤字は避けたいところです。農産物の生産販売で、月あたり25万円の売上が一つの目安になります。農産物直売所やネット通販での販売を考えれば、毎日平均1万円の売上があればクリアできます。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

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