農業利益創造研究所

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ドローンは人手不足の救世主となるか? 所持率は低いが可能性は大

個人情報を除いた2020年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家16,590人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

世の中にドローン活用の事例がどんどん増えていく中、農業現場でもその傾向が見られます。高齢化や後継者不足が課題となっている農業において、農薬・肥料散布などの作業にドローンを活用することで、農作業を大きく効率化できる可能性を秘めています。

農林⽔産省農産局の「令和3年度農業分野におけるドローンの活用状況」によると、農業における利用分野は、農薬散布、肥料散布、播種、受粉、農産物等運搬、ほ場センシング、⿃獣被害対策、情報収集・発信、などです。

特に農薬散布においては、平成30年度の全国の散布面積は31,020haでしたが、令和2年度には119,500haと約4倍にまで拡大しました。

しかし、ドローンを導入する上で課題があることも事実です。

価格負担

農薬散布ができるパワーを持つドローンは、1台約200~400万円ほどします。

バッテリー

飛行時間が短く、大区画散布時にはバッテリーを何個も用意しなくてはなりません。

農薬

空中散布用の特殊な農薬を使用しなければなりません。

操作技術

操作には技術習得が必要です。また国土交通大臣へ無人航空機の所有者情報や機体情報等の登録申請が必要です。

このような課題があってもなお、大規模区画をあっというまに農薬散布してしまうドローンは魅力的です。それでは農家における、実際のドローンの導入率はどれくらいなのでしょう?

農業簿記ユーザーのドローン導入状況

個人事業16,590経営体の減価償却資産データの中で、ドローンを所持している農家を集計してみました。

営農類型別ドローン所持農家数
営農類型 所有農家数 / 1年以内の購入 所有率
普通作(稲作・大豆・麦) 204 / 124 7.4%
野菜 45 / 19 0.9%
施設園芸 6 / 3 0.8%
果樹 3 / 1 0.3%
畜産(酪農・肉用牛) 4 / 1 0.5%
その他 53 / 23 0.9%
全農家(16,590経営体) 315 / 171 1.9%

※所有率は各営農類型の(所持数÷全データ数)の率

ドローンを所持している農家は全体の2%であり、営農類型別に見ると6割強が普通作農家で、その次に多いのが野菜農家です。農業現場でのドローンの活用は、ほとんどが農薬と肥料の散布ですから、それで土地利用型農業での利用が多いのだと考えられます。

また、所持している農家の半分が1年以内の取得ですから、コロナ禍での経営継続補助金などで購入した可能性もあります。

都道府県別ドローン所持割合ランキング
順位 都道府県 所有農家数 所有割合
1位 秋田県 31 5.4%
2位 福井県 8 4.7%
3位 富山県 7 4.0%
4位 北海道 94 3.8%
5位 新潟県 21 3.0%

※所有割合は都道府県内全農家の中で所持している農家の割合

都道府県別に見ても、1位から5位まで、土地利用型農業が盛んで大規模区画の農地がありそうなところばかりです。

農林水産省の「農業生産基盤の整備状況について」を見ても北海道、秋田県、新潟県は、30a~50a、50a以上の区画整備済面積が大きくなっています。

全体の2%というのはまだまだ少ないですが、メリットが高ければ今後普及してくると思われます。

それでは、ドローンには本当に効果があるのでしょうか?

ドローンを活用している農家へのインタビュー

ドローンの実態を探るべく、実際にドローンを活用している農家にインタビューしました。群馬県高崎市で稲作27ha、大豆6.5ha、飼料稲2ha、麦33haを作付けしている紋谷巌さんです。

Q 今年はどれくらいの面積をドローンで散布しましたか?
A 稲の除草剤散布28ha、稲の追肥20ha、稲のいもち病防除20ha、麦の赤カビ防除33ha、大豆の防除6.5haを行いました。総面積約100haで、作付面積のほとんどでドローンを使っています。

Q ドローンのメーカーや購入価格を教えてもらえませんか
A 実は自分で購入したわけではなくて、業者に委託してるんですよ。もともとはドローンによる空撮をやっていて、最近農薬散布も始めた業者です。メーカーは確かNTTのものです。
最初は自分で購入するつもりで自動運転できるドローンの研修を受けたのですが、なかなか難しい。万が一ドローンが通行人にぶつかったら大変なことになるし、いっそ委託した方が良いのではないか、と考えました。

Q 委託費用はどれくらいですか
A 料金は約1,800円/10aで100haを頼んでいるので、多少まけてもらって180万円弱です。コストはかかりますが、作業者の労働時間がかなり節約できるので、他の作目に手をかけたりと、ゆとりある仕事ができます。ドローン自体が300~400万円かかるし、維持修繕費もばかにならないので、委託してよかったと思っています。

Q ドローンの作業時間はどれくらいですか
A 1haの散布はだいたい8分で終わっちゃいます。これはすごいですよね。自分で操作したらこんな素早くできないし、農薬の量が分量通りなのもすごい。ドローンなら10a当り農薬500ccを、きっちり量を守って散布できるんです。手作業より農薬のロスも少なく、効率的ですね。

Q ドローンは効果的ですか
A 先ほど説明したように、農薬のロスが少なくなるので、その面ではコストが下がります。委託コストはかかりますが、労働時間が浮いた分を使って、他の作業や他の作目栽培に手をかけて売上アップを図ることができます。

Q 課題はありますか
A ドローンでは空中散布用の農薬を使うわけですが、病虫害を見て的確に薬を決めて、的確な時期に散布する判断がまだ難しいですね。今後慣れていけば大丈夫だとは思います。
それから、ドローンを飛ばすと近所の人が見に来るんですよね、人が近くにいると作業をストップしないといけないし、落ちる危険性がゼロでは無いので、そこが心配ですね。
でも、今ではドローンが無くてはならないものになっていますから、周りの農家の人にも勧めています。

まとめ

土地利用型農業の生産性を上げるには、面積拡大が必要であることは明白です。大規模化すると労働力が不足するため、その時にドローンの活用は有効であり、今後一層導入が促進されると思われます。

ただ、「これからはスマート農業でコスト削減だ!」と、採算性を考えずに高額なドローンを購入して、逆にコストがかかったら本末転倒です。

ドローンを自分で購入するのか、仲間で共同購入・共同利用するのか、JA等の所有物をレンタルするのか、運用方法は様々です。ドローン作業を外部に委託する「農業支援サービス事業者」を活用する方法(農林水産省が推進)もあります。状況に合わせて、何が一番有効であるか、経営者としての判断が必要かと思われます。

関連リンク

農林⽔産省農産局「令和3年度農業分野におけるドローンの活用状況
農林水産省「農業生産基盤の整備状況について
農林水産省「農業支援サービス関係情報
国土交通省「無人航空機登録ポータルサイト」※2022年6月以降無人航空機の登録が義務化されます

南石教授のコメント

ドローンの農業利用が最初に話題になったころは、一回の飛行時間が15~20分程度と短いこと、大規模な面積の作業には多数の交換用バッテリーが必要なこと、積算重量が少ないこと、専用の資材が必要なこと等のため、営農現場での普及は難しいとの意見もありました。

しかし、最近では、大規模経営でも使い方の工夫次第で、従来の農薬や肥料の散布作業に比較して役立つ面があるという意見を多く聞きます。例えば、コストの高い専用肥料でなく、色々な工夫をして通常の窒素肥料をドローンで何十haも散布している稲作経営もあります。ドローンも農機具の一つと考えれば、要は使い方次第で役にも立つし、使えないこともあるということのようです。

最後は、従来の農薬散布や施肥の方法と比較して、どのようなメリットやデメリットがあるのか、導入費用を賄えるだけの効果があるのかということになります。今回の分析で使ったデータをさらに詳しく分析すれば、ドローンの導入と生産コストや規模拡大の関係など、多くの皆さんが関心をもっていることも明らかになりそうです。スマート農業の可能性と課題を考える上でも、今後の分析が大変楽しみです。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。