農業利益創造研究所

コラム

あれ?肉用牛経営って、経営規模と効率性は比例しないの?

個人情報を除いた2020年度の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家16,590人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

肉の自給率を計算する場合は、飼料の自給率も考慮に入れなくてはなりません。国内飼料自給率を反映した国内生産可能な肉牛の食料自給率はたった11%、外国からの餌の輸入がストップしたら大変なことになります。

この現状を打開するには、いったいどうしたら良いのでしょうか? まず、肉用牛経営が儲かる、ということになれば、肉用牛の新規就農者も増えるかもしれません。

まず現状を確認してみましょう。農林水産省の統計によると、肉用牛の飼養農家戸数は減少傾向で推移していますが、飼養頭数は増加傾向にあります。つまり、一戸当たり飼養頭数が増えて、大規模化が進展しているといえます。

効率的な経営を考える際に必ず出てくる「大規模化」ですが、大規模化すれば必ずしも利益に結び付くわけではない、ということは別コラムでもたびたび触れています。

今回は、肉用牛個人事業農家474件のデータを様々な角度で集計し、高所得農家の特徴を分析してみたいと思います。

肉用牛経営で有名な県の特徴

農林水産省「畜産統計」によると、2021年の都道府県別 肉用牛飼養頭数ランキングの1位は北海道で52万頭(シェア20.5%)、2位は鹿児島県34万頭(13.3%)、3位は宮崎県24万頭(9.6%)、4位は熊本県 13万頭(5.2%)、です。

肉牛と言えば北海道と九州が思い浮かびますが、特に北海道は収入金額と世帯農業所得(農業所得+専従者給与)の金額が大きくなっています。それぞれの特徴をよく見てみましょう。
※3位である宮崎県のデータ件数が少数だったため、熊本県を分析しました。

肉用牛 有名産地の経営比較
全体平均 北海道 鹿児島県 熊本県
平均額 比率 平均額 比率 平均額 比率 平均額 比率
世帯農業所得4,38813%9,94917%2,63513%4,46320%
収入金額 計33,355100%58,189100%20,773100%22,212100%
生産原価23,86572%37,43664%14,29369%14,164 64%
うち素畜費6,51120%9,98217%2,20811%2,29310%
肥料費3911%1,5383%4252%3191%
飼料費8,74126%9,06516%5,18325%4,42320%
減価償却費3,89012%6,85312%3,55917%3,84917%
雇人費6112%3791%6653%2501%
一般管理費・その他5,13615%11,41020%3,84519%3,58416%
専従者給与1,2984%3,4606%3822%1,3056%
借入金 計15,32046%13,42323%12,39660%17,64879%

※1 経営体数は全体が474件、北海道が16件、鹿児島県が119件、熊本県が17件
※2 比率は収入金額合計を100とした場合
※3 金額の単位は千円

北海道の特徴は、収入金額が5,800万円と大規模経営で、素畜費が多少高く、飼料費が低く、借入金が少ないことです。素畜費とは、子牛などの購入にかかった経費を指します。

肉用牛は子牛から成牛になるまで約40か月と長いため、回転資金との関係でなるべく早く出荷できるよう、大規模経営では外部で繁殖させた子牛を購入して肥育することが多いです。つまり、繁殖事業と肥育事業に分業化されているケースが大半です。

しかし、自分で繁殖まで行う一貫経営だとコストは下がりますし、生まれてからずっと同じところで育てる方が、子牛にとって環境変化によるストレスが無いというメリットもあります。

さらに飼料費が低いということは、放牧による飼育なのかもしれません。放牧は、飼料生産のコスト低減、適度な運動による繁殖成績向上などのメリットがあります。

鹿児島県や熊本県を見ると、収入金額と世帯農業所得が少なく、素畜費が少なく、飼料費が多く、減価償却費と借入金が大きいです。北海道とは逆で、子牛を自分で繁殖して、飼料を外部購入して、効率性を高めるための設備投資をしている、と推測できます

所得率の高い農家と低い農家の特徴

次に、全国の肉用牛農家の中で世帯農業所得率が高い農家(所得率30~35%)と、低い農家(10~15%)の経営構造を比較してみました。

表を見ると、所得率が低い方の収入金額は4,000万円という高額なのに世帯農業所得は500万円、所得率が高い方は所得が800万円もあるのに収入金額は2,700万円です。

つまり、収入金額(経営規模)が大きい経営の方が効率性が低い、という驚きの結果が導き出されました。

しかし、収入金額に差がある(経営規模が違う)ため、収入金額を100とした比率でも分析しています。

世帯農業所得率が高い農家と低い農家の特徴
全体平均 所得率10~15% 所得率30~35%
平均額 比率 平均額 比率 平均額 比率
世帯農業所得4,38813%5,16513%8,85633%
収入金額合計33,355100%40,879100%27,234100%
雑収入5,69617%7,08617%6,71825%
生産原価23,86572%29,97373%13,91251%
うち素畜費6,51120%8,15220%1,7496%
肥料費3911%3641%3841%
飼料費8,74126%11,60828%5,82021%
減価償却費3,89012%4,50011%3,66113%
雇人費6112%7332%2281%
一般管理費・その他経費5,13615%5,82514%4,46716%
専従者給与1,2984%1,8194%1,5186%
借入金 計15,32046%15,81339%9,23534%

※1 経営体数は全体が474件、所得率10~15%が66件、所得率30~35%が30件
※2 比率は収入金額合計を100とした場合
※3 金額の単位は千円

所得率が高い農家は、素畜費が低く、飼料費も低くなっています。経費を抑えているので所得が得られる、という経営の基本が見て取れます。

近年は高級ブランド牛ブームにより、優良な牛の種を付けた高額な子牛を購入するために素畜費が高騰する傾向にあると言えるかもしれません。高級ブランド牛を育てたために所得が減ってしまうのでは本末転倒ですから、ブランド牛を扱う際には慎重にした方が良いでしょう。

飼料費に関しては、牧草を外部から購入していると高くなってしまいます。外国からの輸入飼料は、世界的な穀物需給の逼迫や世界的な気候変動による生産量の減少により、価格が高騰するリスクがありますので、国内生産が望ましいと言われています。

所得率が高い経営は、減価償却費も借入金も高いですが、これは効率性を高める設備投資をしているのかもしれません。

いずれにしても、経営規模が大きくない経営の方が、所得率が高いことは注目に値します。経営が大規模になっていくと、子牛を買ったり飼料を購入したりせざるを得ないため、経費がかさんで所得が減ってしまう、という傾向が読み取れます。

効率の良い適性規模はどれくらいなのか

経営規模と経営効率の相関を深掘りするため、収入金額別(経営規模別)の世帯農業所得率をグラフにしてみました。

経営規模が大きくなると所得率も高くなりますが、5,000万円~7,000万円でガクンと落ちています。そして、7,000万円で上昇し、また落ちます。これをどのように解釈したらよいのでしょうか?

もしかしたら、収入金額が5,000万円規模になると設備投資をして子牛をたくさん導入する必要が出てくるので、一時的に費用対効果が落ちてしまっているのかもしれません。

肉牛は売上につながるまで約2年かかることを考慮し、経営規模を拡大する際は自分の経営をよく分析して進める必要があります。さらなる規模拡大を目指しているなら別ですが、5,000~7,000万円の谷にとどまってしまうと、拡大したせいでかえって利益が減るという可能性もあるのです。

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まとめ

肉用牛経営は大規模よりも中規模経営の方が効率的であるという結果が、データより導き出されました。ただし、所得率は高くなくても、1億円の売上で所得率が10%なら所得は1,000万円もあるわけですから、経営のやり方次第だろうという考え方もあります。

近年、肉用牛経営にもICT等の技術を取り入れたスマート農業が徐々に導入され始めています。先端技術を活用した発情発見装置、分娩監視装置、哺乳ロボット等を導入すれば、生産性の向上が期待できます。

新しい技術を生かして効率化に肥育すれば、規模を拡大しても生産性を維持できる可能性もあります。最新技術導入の挑戦と、ち密な経営計画によって、適正な価格のおいしい牛肉を生産できるようになってほしいものですね。

関連リンク

農林水産省「畜産統計

南石教授のコメント

経営分析の基本的な手法の一つとして、損益分岐点分析があります。教科書的な説明では、横軸は操業度、縦軸は売上高、費用、利益(個人経営では所得)等の金額になります。操業度は、業種や分析目的によって異なりますが、今回の例では、収入金額(売上高)や飼養頭数を操業度の指標にできます。

入門的な損益分岐点分析では、操業度が増加すれば、売上高から費用を引いた利益が増加します。この時、操業度が増加すれば、利益率(=利益÷売上高)も増加します(個人経営では所得率が増加)。

しかし、現実には、操業度がある程度増加すると、新たな投資が必要になり固定費が増加します。このため、利益や所得が減少し、利益率や所得率が低下します。

今回の肉用牛経営の場合には、飼養頭数がある程度まで増加すると、畜舎等の施設や機械の処理能力が不足し、追加購入が必要になります。施設や機械は分割困難なため、一頭分だけ追加購入することはできません。このため、投資額が大きくなり、どうしても、さらに飼養頭数を増加させない限り、以前の利益率や所得率まで回復することはできません。

一見複雑に思える現象も、基本に立ち返ることで、見通しを良くすることができます。発展段階によっても、経営規模や売上高の拡大を追求するのか、利益や所得の増加を目指すのか、経営の目標も変わります。いずれにしても、経営を取り巻く状況を見極めて、その時々の適正な経営規模を見出すことは、経営者の重要な役割といえます。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。