農業利益創造研究所

コラム

経営分析の基本と本質(後編)「分析目的により数値化する」

個人情報を除いた2020年度の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家16,590人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

前回は、経営分析におけるデータ整備の重要性を、生産や販売の視点から説明しました。そして分析は「分析目的」を定め、対象を「分割」して「比較」することが基本で、それをしっかり行えれば、専門用語や数式を知らなくても分析は可能だということです。

そして今回は、分析のための会計データの整理の仕方から説明します。

会計データの整理

会計記帳は税務申告のためにやるものだと思っている農業者は結構います。こういう人は多分、税務申告が無ければ会計記帳もやらないのだろうと思われます(笑)。

でもこれは話が逆で、まず経営の実態を正確に掴むという目的があったから会計が生まれたのであって、税金はその記録をいわば利用して徴収されているだけです。会計は本来そのような目的のためにつくられていますから、経営分析の資料そのものとも言えます。

会計データを使って経営分析を行うのであるならば、金額はもちろん、勘定科目や計上時期なども正確に記帳することが大前提です。当たり前のようなことですが、実はなかなかここがやれていない人も多いようです。

例えば、同じような出荷資材をその時々の感覚で諸材料費に計上したり、荷造り運賃手数料に計上したりしてはいないでしょうか? 様々な資材費が含まれている業者からの請求を、勘定科目ごとに分けるのが面倒だからと言って、諸材料費や雑費など特定の費用科目にまとめて計上してしまってはないでしょうか?

あまり細かすぎる記帳も徒労になりますが、分析をするのであるならば一定程度の正確さや一貫性は常に心掛けてください。

そのうえでここで強調したいのは、勘定科目や補助科目の設定です。青色申告書の勘定科目に沿った経理をするのはもちろんですが、実は経営分析をするうえで青色申告書の勘定科目はやや粗いので、別途、勘定科目や補助科目を設定して内訳をつくる必要があります。

例えば「販売金額」という科目で全ての農作物の売上を記帳しても、税務申告上は問題ありませんが、分析となると販売金額の内訳が解らないので大いに問題です。

そもそも前述した『販売状況のデータ整理』も、作物ごとの販売金額は会計データから転記するのが最も合理的でしょうから、「販売金額」の内訳として「米売上」とか「野菜売上」という科目を別途作って記帳をすることが好ましいです。こうすれば、販売品目ごとの売上金額を正確に掴むことができ、販売データの整備のためにあらためて出荷伝票をひっくり返す手間も省けます。

青色申告書科目勘定科目補助科目
販売金額米売上
麦売上
野菜売上大根
かぶ
人参
・・・

このように販売金額の内訳を勘定科目で分けておくと、青色申告書の2ページ目の【収入金額の内訳】を作る時もかなり楽になります。

もちろん作付面積や収穫量なども一年の総括という意味でしっかり入力しておけば、この青色申告書だけで多くの経営内容を確認したり取引先や金融機関に説明したりすることができます(なお、農業利益創造研究所の統計データは、この【収入金額の内訳】のデータも活用しているので、ソリマチの会計ソフト『農業簿記』ユーザーの方は是非正確な入力をお願いします)。

引用:国税庁「令和3年分 青色申告決算書(農業所得用)の書き方」※1

「雑収入」なども補助金や米の精算金、作業受託料など様々な取引が含まれているので、何らかの分類を作って内訳科目を作ったほうがよいでしょう。

次に費用ですが、費用においては「諸材料費」や「荷造り運賃手数料」、「動力光熱費」などの科目に内訳科目が必要だと思われます。それ以外の費用科目でも作物や経営形態によって必要な内訳があるでしょうから、そこは経営者として“何を知りたいのか”という「分析目的」に従って科目を設けてください。

青色申告書科目勘定科目
動力光熱費ガソリン
軽油
重油
灯油
潤滑油
電気
水道
ガス

以上の通り、勘定科目や補助科目をより細かく設定して内訳を作り、それに基づいた経理をしていけばその流れの中で会計データの「分割」ができ、より精緻な経営分析が可能になります。

そのうえで会計データも、前述した『生産データ』や『販売データ』のように、年度ごとや月ごと、計画値などと整理してExcelなどに一覧にすれば、経営の推移や変化がわかる立派な分析資料になります(Excelに転記しなくてもソリマチ農業簿記をはじめ、ほとんどの会計システムならこれらの集計表示は基本機能として持っていると思われます)。

分析は記録から始まる

経営分析は経営者の「分析目的」に従って行うので、分析対象は今まで述べた生産や販売の分野に限りませんし、会計データには含まれない事象も対象になる場合があります。

例えば、従業員の作業効率を知りたいとか、圃場ごとの生産性などを確認したい等のような場合です。この場合、従業員の作業時間や、圃場ごとに投下した資材量などのデータをあらためて取らなければなりません。

本来、分析にはデータの取得作業、換言すると対象の「数値化」というものが不可欠であり、初めてのパターンの分析をする場合は、その「分析目的」を満たすためにまずどんなデータが必要かを考えるとこから始めなければなりません。

このことは逆に、どんなに知りたい「分析目的」があっても、実際に手に入るデータの範囲でしか分析は出来ないという事でもあります。

以上のように分析は、「分析目的」によっては「数値化」作業から始めなければならないのですが、そうなるとデータ取得だけで一定の期間がかかってしまう場合があります。そのため、実務的には必要と思われるデータを前もって記録しておくことが行われています。いわゆる「作業日報」です。

実は「作業日報」をつけるというのは、この「数値化」の一環であったりもします。農業の場合「作業日報」は、農薬散布などの栽培履歴を振り返る目的で作成されることが多いかもしれませんが、同時に作業時間や資材の散布量などの数値を記録しておけば、一定期間後、様々な分析の基礎データとして活用できます。

もちろんこの場合も、やみくもにデータを記録するだけでは単なる徒労になりますので、どのような「分析目的」のために、どのような形で最終集計をするか(分析表のイメージ)を事前に考えてから、記録項目を考えてください。

このことから、分析データの取得を目的とした日報は、一般的な様式では充分でない場合があり、各経営体独自に考えて作るのが良いでしょう。ある意味、日報の様式は、その経営体の分析ノウハウの一つでもあります。

ココ一番大事なところ

冒頭に申し上げた通り、経営分析に大切なのは知識ではなく、しっかり整備したデータなのですが、もう一つ絶対不可欠なことがあります。それは「自分の頭で考えること」です「考える」というのは、整理されたデータ間の関連性や因果関係を推論し、仮説を導くことです

どんなにデータを整備しても、それを見て経営者が考えなければ何も生まれません。誤解されたイメージがあるようですが、経営分析とは、コンピューターや数式など自分以外の存在が『あなたは○○だから××をすべきだ!』というメッセージを直接与えてくれるものではなく、整理されたデータを元に人が自分の頭で情報を読み解いて、自分でメッセージを作り出す思考作業です(もちろんメッセージを出してくれるシステムもありますが、まだまだ人間の頭で考える事以上のことが言えるレベルではありません)。

経営分析の一番大変なところは実はこの「考える」ということで、知識もシステムも、そして整備されたデータさえも、その思考作業のための材料でしかありません。

最初は大変に思えるかもしれませんが、「考える」ということも出来るところから継続していけば、徐々に“勘どころ”が解ってくるものです。

関連リンク

※1…国税庁「令和3年分 青色申告決算書(農業所得用)の書き方

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所