農業利益創造研究所

コラム

消費税インボイス制度で農業経営は何が変わるのか?

個人情報を除いた2020年度の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家16,590人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

税金を払うことは国民の義務ですが、できれば多く払いたくない、というのが本音かもしれません。今回は、消費税申告に大きな影響をもたらすインボイス制度について解説していきます。

インボイス制度とは?

みなさん、「インボイス」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか? 2023年10月から、インボイス制度(適格請求書等保存方式)がスタートします。

「インボイス制度」とは、これまでとは違う新しい様式の「記載義務を満たした請求書」によって消費税を計算し、納付しましょう、という制度です。導入後は、消費税を納める必要のある企業や個人事業主はもちろんのこと、免税事業者にも影響が出てきます。

インボイス制度導入後は、請求書やレシート等に消費税10%や8%の税額が正しく書かれていて、消費税課税業者であるという証明の登録番号が記載されているもののみ、仕入税額控除の計算に使うことができるのです。

つまり、免税業者は商品を販売した相手に事業者登録番号が記載されたインボイス(適格請求書)を発行できず、最悪は相手から取引を停止されるかもしれないというリスクがあるのです(具体的には後述します)。

インボイス制度の詳細にはここでは触れませんが、この制度がスタートしたら、農業経営者はどのような対応をすべきか、簡単に解説したいと思います。

まず、農業簿記データを集計し、農家の方々が現在消費税をどのように申告しているか調べてみました。

販売金額(※厳密には前々事業年度の課税売上)が、1,000万円以下なら免税業者、1,000~5,000万円以下なら簡易課税、5,000万円より高いならば原則課税と決まっています。

しかし、販売金額1,000万円以下でも課税業者を選択することや、簡易課税の範囲にある業者が原則課税を選択することもできます。実際に農業簿記ユーザーの申告区分別の経営体数を調べたら、そのような選択をしている農家の方も数多くいらっしゃいました。

販売金額別 経営体数 消費税申告区分別 経営体数
経営体数比率経営体数比率
1,000万円以下 7,066 47.4% 免税 5,410 35.6%
1~5,000万円 7,134 47.9% 簡易課税 7,141 46.9%
5,000万円~ 695 4.7% 原則課税 2,660 17.5%

【 免 税 】免税業者でもよい7,000の農家のうち2,000件が課税業者を選択
【原則課税】免税または簡易課税でもよい農家のうち2,000件が原則課税を選択
【簡易課税】上記の「免税を選択できる農家が簡易課税を選択する」「簡易課税を選択できる農家が原則課税を選択する」という現象によって、結局販売金額「1~5,000万円」の農家と簡易課税を選択する農家は7,000件とほぼ同数になっている

免税業者でもよい農家のうち2,000件があえて課税業者を選んでいるというのは意外でした。これがインボイス制度を見据えての変更なのかは簿記データからは調べることができませんが、興味深い結果といえるでしょう。

インボイス以外にも、たとえば高額な機械などの設備投資を行った場合には多額の消費税を払いますので、その分の消費税仕入控除(払い過ぎた消費税の還付)を受けるために課税事業者となった可能性もあります。もしくは前々年は販売金額が1,000万円を超えていたのかもしれません。

インボイス制度の何が大変なのか

インボイス制度によって免税業者が取引を失うリスクがあると、先ほど軽く触れました。なぜそうなってしまうかというと、免税事業者はインボイス(適格請求書)を発行できないため、課税事業者が免税業者からものを仕入れたり、作業を依頼したりしても、それにかかった消費税を仕入税額控除できません
 

よって、課税事業者側は仕入税額控除できる相手と取引した方が得と考えて、取引先を免税事業者から課税事業者に変える可能性があります。免税業者にとっては死活問題となってきます。

消費税申告区分ごとのインボイス対策

免税事業者の場合

免税事業者は、商品を売る時に消費税10%もしくは8%を付加して相手に請求してもよいのに、消費税の申告をしなくてよいのです。

経費には10%の消費税がかかっているとはいえ、消費税を納めていないということは、売り先からもらった消費税分の所得が増えていることになりますので、インボイス制度により免税業者が課税業者になって消費税を納めるようになれば、所得の減少につながります

免税事業者は、以下のような対応が必要となります。

販売する相手インボイス対応
原則課税業者 要求される ・課税業者になる
・免税業者のまま(取引停止の可能性あり)
簡易課税業者 要求されない ・免税業者のまま
免税業者 要求されない ・免税業者のまま
消費者(直接販売) 要求されない ・免税業者のまま
JA 要求されない ・免税業者のまま

このように、免税業者はどの相手に商品を販売するかによって対応が変わりますので、販売する相手に、「あなたは原則課税業者ですか?」と確認してから、免税業者のままでいるか、課税業者になるか判断が必要です。

ただし、JAに農産物を出荷する場合、「インボイスにおける農協特例」という制度があります。JA出荷の場合「適格請求書」を発行しなくてよいという特例ですので、JA出荷のみであれば免税業者のままで良いわけです。

農業簿記ユーザーの35%の農家は現在免税ですので、今後免税業者のままか、課税業者になるか、どちらかを選択しなければなりません。

課税業者になるには、税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、さらに2023年3月31日までに「適格請求書発行事業者」の登録申請をする必要があります。

原則課税事業者の場合

インボイスを発行するには、2023年3月31日までに「適格請求書発行事業者」の登録申請をする必要があります。原則課税事業者は、販売する相手がどこであろうと関係ありませんが、請求される相手によって対応が必要です。

請求される相手対応
原則課税・簡易課税 ・相手からインボイスを受け取る 
免税業者 ・相手に対して消費税分を請求しないよう要求 
・相手に対して適格請求書発行事業者への登録を打診 

たとえば、以下の場合は課税仕入れにならないので注意が必要です。

  • 免税業者である農家から農産物を仕入れる
  • 免税業者である育苗センターから苗を購入する
  • 免税業者である機械利用組合に作業を委託した経費や、農家から機械を借りた賃借料
  • 農事組合法人では「従事分量配当」を消費税の課税仕入れとして仕入税額控除ができますが、構成員の農家が全員課税業者で無ければ仕入税額控除することはできません

簡易課税事業者の場合

簡易課税事業者の場合は、売上に対して消費税額を計算するだけであり、仕入先が適格請求書発行事業者か否かを確認する必要はありません。よって、免税業者から請求されても関係ありませんので、今まで通りで構いません。

生産組合などの任意団体を作っている場合

任意組合がインボイスを発行するためには、構成員全員が課税事業者で、かつ業務執行組合員等の代表者が税務署に届け出しなければいけません。

しかし、一般的にこういった組合は、小さな農家が集まっているケースが多いでしょうから、消費税分を相手に請求しない、ということを選択せざるを得ないかもしれません。

まとめ

いかがでしょう、インボイス制度を理解できたでしょうか。適格請求書には登録番号や税額が正確に記載されていることがルールですので、請求書発行ソフトをお使いの場合は最新のソフトに変更する必要もあります。

いずれにせよ、この制度によりJA以外に販売している免税業者は、何らかの選択が必要となってきます。2023年10月までにはまだ時間があります。早めの対策を行っていきましょう。

関連リンク

国税庁「インボイス制度 公表サイト
国税庁「適格請求書発行事業者の登録申請手続
ソリマチ株式会社「《解説動画》10分でわかる!インボイス制度&電子インボイスのポイント
ソリマチ株式会社「農業者必見!消費税インボイス制度が農家にもたらす影響を徹底解説!

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

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