農業利益創造研究所

コラム

ポスト減反、米一本より戦略作物を組み合わせると高所得になる

個人情報を除いた2019年度の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:稲作専業農家1,700人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

ご存知の通り2018年にいわゆる「減反政策」は廃止されました。
しかし廃止されたと言っても国からの生産目標が示されなくなっただけで、実質的に生産調整のカギを握っている戦略作物への補助金は健在です。

したがってコメ農家としては今後、自己の責任で暴落の恐れのある主食用米を拡大するか、または安定した収入が見込まれる戦略作物を作り続けるかといった、難しい経営判断に迫られることになります。

そこで、その経営判断の一助になればと、ソリマチ農業簿記から得られた2019年のデータの結果をお伝えしたいと思います。

戦略作物を組み合わせた方が好結果

データ数 販売金額 雑収入 / 割合 世帯農業所得 / 所得率
主食用米のみ 895 14,978,813 2,870,983 / 16.5% 4,955,534 / 28.0%
主食用米+飼料・加工用米 89 15,263,895 5,474,205 / 26.8% 5,065,530 / 23.8%
麦作付 200 18,959,739 7,723,489 / 32.3% 7,160,723 / 26.6%
大豆作付 190 17,338,094 5,571,958 / 26.1% 6,791,625 / 29.5%
麦・大豆作付 300 18,722,479 9,206,644 / 42.0% 8,177,950 / 28.4%
主食用米のみ
飼料用米、加工米、麦、大豆のいずれも作っていない
主食用米+飼料・加工用米
飼料用米、加工米を作っている。麦、大豆は作っていない
麦作付
稲の種類は不問。麦を作っており、大豆は作っていない
大豆作付
稲の種類は不問。大豆を作っており、麦は作っていない
麦・大豆作付
稲の種類は不問。大豆と麦の両方を作っている

※いずれも「野菜」等普通作以外を含むデータも含まれます。

これによると、稲作を中心に作付けを行っている全国の専業農家1674戸の平均として、米の他に麦と大豆を作っている農家が所得金額(青色申告特別控除前所得+専従者給与)で好成績、米と大豆を作っている農家が所得率で好成績、という結果がでました。

すなわち2019年は、米の生産に特化するより戦略作物をうまく組み合わせて補助金を得た方が経営結果は良かったということです。

ちなみに、この年の主食用米の作付面積は137.9万ha(農林水産省「米に関するマンスリーレポート 令和2年10月」)で前年より0.7万ha減少しましたが、それにもかかわらず米価が15,720円/60㎏(前年15,688円/60㎏)(農林水産省「令和元年産米の相対取引価格・数量(令和2年8月)」)と伸び悩みました。
これらのことが、米の生産に特化した農家の経営成績を低迷させる大きな原因と考えられます。

北海道とその他地域の違い

尚、地域ごとに見ると北海道とそれ以外の都府県では若干異なる結果が出たので、合わせてお伝えします。

北海道

データ数 販売金額 雑収入 / 割合 世帯農業所得 / 所得率
主食用米のみ 144 20,093,123 3,769,399 / 16.5% 7,089,410 / 30.7%
主食用米+飼料・加工用米 12 19,080,793 5,134,447 / 20.1% 7,704,805 / 33.4%
麦作付 98 22,525,595 8,289,574 / 28.9% 8,617,237 / 27.4%
大豆作付 44 22,005,067 5,864,032 / 21.4% 9,433,342 / 32.9%
麦・大豆作付 159 20,373,825 9,984,824 / 42.8% 9,100,259 / 27.7%

都道府県(北海道以外)

データ数 販売金額 雑収入 / 割合 世帯農業所得 / 所得率
主食用米のみ 751 13,983,784 2,698,997 / 16.5% 4,546,734 / 27.3%
主食用米+飼料・加工用米 77 14,711,449 5,528,566 / 28.3% 4,688,491 / 21.9%
麦作付 102 15,501,941 7,138,321 / 36.3% 5,719,224 / 25.7%
大豆作付 146 15,971,338 5,483,706 / 28.0% 5,987,624 / 28.3%
麦・大豆作付 141 16,814,257 8,470,528 / 40.9% 7,101,922 / 29.1%

北海道はやはり規模の大きい農家のスケールメリットなのか、所得額だけでなく所得率も総じて高くなりました。また戦略作物の作付けウェイトが高くこれが今回の高所得といった結果につながったとも考えられます。

対して、都府県は主食用米に特化した経営が目立ちます。これは、基礎データに新潟県等の米どころのデータが多いことなどが理由に挙げられますが、もしかしたら今後は米どころの農家であっても、主食用米にこだわらない柔軟な対応が必要になるのかもしれません。

いずれにしても今回は2019年のデータだけの結果ですので、今後も共通する一般傾向とは言えません。

しかし冒頭申し上げた通り、この先コメ農家は主食用米の暴落というリスクと背中合わせで経営をしていくこととなりますので、このようなデータの重要性は今後ますます高まると思われます。

そんな中我々も、できる限り継続的にこのようなデータを開示していくことで、少しでも農家経営のお役に立ちたいと考えます。

南石教授のコメント

農業は気象の影響を受け易いので、いつくかの作物を組合わせて栽培することで、売上を安定化できます。

農繁期が異なる作物の組合せなら、労働ピークの解消や汎用的な農機の稼働率の向上にもなります。

販売価格の変動も作物毎に異なるので、組合せ方によっては、売上の変動リスク回避になります。

これは、複合経営のメリットといわれています。

何をどう組み合わせるかは、価格の動向、補助金の額、その地域にあった適地適作の作物によっても異なってきます。

個々の農家の腕の見せ所ですね。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。