農業利益創造研究所

コラム

稲作農家の借入金額をこっそり紹介。制度資金のじょうずな活用法とは

個人情報を除いた2019年度の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:稲作専業農家1,700人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

借金はできることならしたくはないものですが、たとえば農業機械の更新など、どうしても必要になってくる場面もあります。

今回はデータから農家の所得額と借入金額の関係を紐解いていきます。あなたの借入金額が平均と比べて多いのか?少ないのか?も、この機会にチェックしてみてはいかがでしょうか。

農家の借入金における特徴

大半を占めるのは長期借入金

こちらは世帯農業所得別に、「長期借入金」「短期借入金」の平均金額を比較したものです。「短期借入金」とは1年以内に返済期日が到来する借入金、「長期借入金」はそれ以外(返済期日が1年以上先)の借入金のことです。

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※借入金のない農家も含めて集計


すべてのグループで、残高のほとんどを「長期借入金」が占めているという特徴が、まず認められます。

また、最も借り入れ金額が多いのは、世帯農業所得が1,500~2,000万の階級グループで、合計額は約1,000万円です。全体的に所得が上がるほど借入金も増える傾向にあります。しかし、赤字経営の農家の借入金は、0~500万の農家の借入金よりも多くなっています

一般的に、経営規模が大きくなるほど投資しますから借入金額が増えていく傾向にあるのは意外性のある結果ではないかもしれません。

実際に営農の規模が大きくなると、必要な農業機械の数や購入金額が高くなり、借入金の金額も上がっていくであろうと予想されます。肝心なのは、借り入れの規模が収入に対して適切かどうか、です。

低所得の農家ほど負担大

こちらは世帯農業所得別に振り分けた各グループの、2019年度収入金額(作物の販売金額と雑収入の合計)に対し、2019年度期末時点の借入金残高が何%になるかを示したものです。

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※借入金期末残高÷(販売金額+雑収入)で算出


借入金総額ではなく比率で比べているので、各グループの負担感を比較することができます。この値が高いほど、農家にとっては借入金返済の負担が重いことになります。

グラフより明らかに、所得が低いほど収入に対する借入残高の存在感が大きいことがわかります。金額ベースで比較した時にもっとも借入金が高い1,500~2,000万のグループも借入残高は年間収入の2割程度、2,000万以上に至っては14%と、高所得グループは借入額が大きくても実際の負担感は軽いと推測されます。

一方の赤字グループは、借入金の金額自体は大きくありませんが、借入残高が年間の収入の5割弱もあることになります。利益が出ていないのに、1年の収入の半分近い金額を返していかなければならない状況なのです。

データから、赤字や低所得の農家ほど借入金による負担が大きいことがわかりました。ここ最近では新型コロナウイルスの影響で販売金額が振るわず、さらに経営が苦しくなった方もいるかもしれません。

負債整理に活用できる制度

最後に、そのような場合の負債整理に活用できる制度を紹介いたします。

負債整理関係の制度資金一覧(令和2年11月現在)

農業経営負担軽減支援資金

概要
経済環境の変化等により、負債の償還が困難となった農業者の負担軽減
利用条件
農業を営んでいること
融資限度額
営農負債の残高
取扱機関
民間金融機関

経営体育成強化資金(再建整備資金)

概要
制度資金以外の既往負債の整理を支援
利用条件
主業農業者、認定農業者
融資限度額
1,000~2,500万円(個人の場合)
取扱機関
日本政策金融公庫

経営体育成強化資金(償還円滑化資金)

概要
制度資金の負債の整理を支援
利用条件
主業農業者、認定農業者
融資限度額
経営改善計画中に支払うべき既往負債額の合計
取扱機関
日本政策金融公庫

農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)

概要
認定農業者の農業経営改善画達成を応援
利用条件
認定農業者(個人の場合、簿記記帳必須)
融資限度額
3億円(個人の場合)
取扱機関
日本政策金融公庫

※主業農業者:農業所得が総所得の過半、または農業粗収益が200万円以上
※いずれの資金も実質無利子(5年間)、実質無担保で利用可能(令和2年11月現在)
※これらの制度利用には審査を通過する必要があります。
※審査や必要書類についてはお近くの農協等の融資機関や、日本政策金融公庫支店にお問い合わせください。

【参考】
農林水産省「農業負債整理関係資金のご案内」
農林水産省「農業者向け金融支援策」
 

「制度資金」とは、国や地方公共団体が農協や日本政策金融公庫等と協力して農業経営者等へ低利または無利子で行う融資のことです。

これらの融資制度は、「もう少し償還負担が減れば、経営に明るい展望が見える」という農家のために農林水産省が設置しているものです。一つずつ簡単にご紹介します。

各種制度資金の紹介

まず、農協等の民間金融機関が取り扱っている「農業経営負担軽減支援資金」です。農業を営んでいれば個人・法人いずれも利用可能で、償還期限は10年以内(うち据置期間3年以内)です。

「農業経営負担軽減支援資金」の利用が難しい場合でも、日本政策金融公庫の「再建整備資金」を利用できる場合があります。融資限度額は「1,000~2,500万円」(個人の場合)に抑えられていますが、民間の融資と比べて長期・低利で利用できます

ただし、この「再建整備資金」は「制度資金」の負債整理には使用できないので、そこは注意が必要です。

また、すでに制度資金を利用しており、その償還が難しい場合には、「償還円滑化資金」を利用した借り換えを行うこともできます。上記3つの資金はセットで借りることもできますので、適切な利用を行ってください。

認定農業者である場合には、「農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)」の利用も可能です。この資金は融資限度額も3億円と大きく、負債整理以外にも農地取得や設備投資にも使用することができますので、規模拡大を図りたいときにも頼りになる存在です。

もちろん、借入は所得に見合った額で計画的に行うのが一番ですが、今回のコロナ禍のような不測の事態はどうしても存在します。経営が苦しくなってしまった場合には、これらの制度を積極的に活用し、経営再建に役立ててください。

南石教授のコメント

一般の産業では、金融機関から融資を受けて(借金をして)、事業を拡大して利益を上げることは、ごく普通の考えです。

サラリーマンの場合にも、住宅購入時には、融資(住宅ローン)を受けることが一般的です。

農業においても、機械や施設の新規導入時には、融資を受けることが多くあります。

重要なのは、融資によって、どのような事業展開が可能になるか、十分な所得が得られるのかを事前に慎重に検討することです。

なお、近年は、金融市場全体の資金需給の影響を受けて借入利率が低くなっており、借り換えを含めて、融資の見直しを考える時期かもしれません。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。