農業利益創造研究所

コラム

高所得稲作農家の選ぶ第2作目は? 麦と大豆を徹底比較!(後編)

個人情報を除いた2019年度の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:稲作専業農家1,700人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

「高所得稲作農家の選ぶ第2作目は?  麦と大豆を徹底比較!(前編)」では、転作作物は野菜よりも「麦」や「大豆」を作付けた方が有利だという分析結果が出てきました。

そこで、次に浮上してくるのは、「麦と大豆、どちらがオススメ?」という疑問です。

もちろん、麦と大豆のどちらも作付けるのが、雑収入を上げる上では一番有利です。ですが、両方を作付けると、必要な土地や労働時間も増えますので、そのために稲作に手が回らなくなってしまっては本末転倒です。

では、どちらか一方だけに絞りたい場合、麦と大豆のどちらが有利、なのでしょうか? 簿記データから探っていきたいと思います。

転作作物を作付けた方が有利

今回は、主に稲作を行っている専業農家のうち、販売金額が1,000万円~2,500万円の農家を対象に、麦(小麦・大麦)と大豆の作付の有無でグループ分けをして、平均世帯農業所得や利益率、雑収入を比較しました。

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※販売金額が1000万円以上2500万円以下の農家のみ集計
※世帯農業所得 = 青色申告特別控除前の所得金額 + 専従者給与

「麦大豆なし」は、麦・大豆のどちらも作付けていない稲作のみの農家、「大豆作付」および「麦作付」は、一方だけを作付けており、もう一方は作付けていない農家、「両方作付」は、麦も大豆も作付けている農家を指しています。

まず、世帯農業所得や雑収入の平均金額は、「麦大豆なし」が最も低くなっていて、「両方作付」が一番高くなっています。転作作物を作付けた方が収入面で有利、という結論を裏付けする結果となりました。

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※販売金額が1000万円以上2500万円以下の農家のみ集計
※世帯農業所得 = 青色申告特別控除前の所得金額 + 専従者給与

平均雑収入を比べてみると、「両方作付」の交付金収入は、「麦作付」と「大豆作付」を足したものに近い額になっています。両方を作付けている農家は、麦と大豆両方の補助金収入を得ているので、より雑収入も高くなります。

麦と大豆の比較

それでは、「麦作付」と「大豆作付」の二つを比較してみましょう。

雑収入の平均金額は、「麦作付」が「大豆作付」より257万円高くなっています。一方、世帯農業所得の平均金額は、「麦作付」714万円、「大豆作付」680万円でほとんど変わりません。

麦を作付けた場合の雑収入の方が高いのに、最終的な所得がさほど変わらないのはなぜでしょうか。この謎を探るため、他のデータにも目を向けていきます。

こちらは、「麦大豆なし」「大豆作付」「麦作付」の所得率の比較です。

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※販売金額が1000万円以上2500万円以下の農家のみ集計
※所得率 = 世帯農業所得÷収入金額×100

所得率は「大豆作付」が一番高くなっていますが、数字の上で大きな差はありません。麦と大豆のどちらを作付けても似たような結果となっています。

肝心の「経費」はどうでしょうか。売上が上がっていたとしても、経費がかさんでしまっては最終的な利益にはなりません。

こちらは「麦大豆なし」「麦作付」「大豆作付」それぞれの販売金額・経費合計を比較したグラフです。

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「麦大豆なし」と「大豆作付」は、販売金額が経費合計を上回っていて、本業の作物販売でも利益が出ています

「大豆作付」の経費合計は、「麦大豆なし」と比べ150万円以上高くなっています。大豆を増やした分の経費が多少かかっているものの、販売金額を上回るほどの額ではありません。

一方、「麦作付」の経費合計は「麦大豆なし」と比べ440万円以上高くなっていて、経費合計が販売金額を上回っています

つまり、作物販売だけで見ると、「麦作付」は経費を回収できずに赤字になっているのです。

作物を増やすことで費用がかかるのは当たり前ですが、「大豆作付」と比べても、「麦作付」の方がより費用がかかっています。

最終的な所得の金額や率が変わらないのであれば、追加の費用が少なく済む大豆の方が良いのではないか、という考え方が導き出されます。

日本全国においての地域差

ここで、もう一つ考慮に入れていきたい要素は「地域性」です。

農作物の向き不向きには土地の特徴なども大きく関係してきますから、「麦と大豆のどちらが良いか」という議論が、日本全国の地域に一律に当てはまるとは限りません。

全国農業地域別(北海道、東北、北陸、関東・東山、東海、近畿、中国、四国、九州)に、麦を作付けている農家と大豆を作付けている農家の割合を図にしたものが下図です。

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まず北海道では、麦と大豆のどちらか一方でも作付けている農家が65.9%、両方作付けている農家が34.8%と最も多くなっています。転作作物を作る上で有利な広大な農地を持っている地域がゆえの結果だと推理できます。

近畿や九州も、麦・大豆両方を作付けている農家が多い地域です。

特に九州は麦や大豆の作付が盛んで、4麦計作付面積は北海道に次ぎ2位、大豆作付面積は北海道、東北に次ぎ3位(令和元年産作物統計(普通作物・飼料作物・工芸農作物)2表「4麦計」、3表「大豆」)です。

地域性により着目してみますと、東北と北陸、関東・東山と東海、中国と四国など、隣り合った地域は似たような作物選択になっている傾向にあります。

関東・東山と東海は麦を作付けている農家が多くなっています。逆に米どころの東北、北陸は、どちらかというと大豆を作付けている農家が多く、麦を作付けている農家は少数です。

東北や北陸は大豆の主産県が多いので、その影響もあるかもしれません(作物統計調査作況調査(水陸稲、麦類、豆類、かんしょ、飼料作物、工芸農作物))

また東北に位置する山形県では、主要な農産物である「さくらんぼ」の収穫時期が小麦と重なってしまうため、小麦をあまり作付けない傾向にあります(おいしい山形「小麦」)

そのように不利な条件があっても、地域に根差した作付戦略をとっている山形県は、2019年度の農業簿記データ上では全国有数の利益率を誇っています。稲以外の主要な農作物との両立のしやすさも、転作作物を選ぶうえで重要なポイントと言えるでしょう。

まとめ

最後に、これまでの情報と推論をまとめます。

稲作に加えて麦か大豆のどちらかを作付ける場合には、データ上からは大豆がよりオススメです。

所得額や利益率において大豆と麦の差は小さいですが、大豆の方が追加費用が少なく済み、作物販売の利益を維持したままで所得向上が望めるからです。

ただし、農作物には土地や気候による向き不向きがあるので、この結論が日本全国に一律で当てはまる、ということではありません。

山形県のように主要農作物との兼ね合いもありますので、これらの簿記データに合わせて、様々な要素を考慮に入れて転作作物を選択しましょう。

どちらを作付けるか迷った場合は、このデータ分析を、選択の手助けにしていただければ幸いです。

南石教授のコメント

麦や大豆は、水稲の裏作として栽培することもでき、土地利用率も向上しますし、野菜栽培よりも、省力的な栽培ができます。

麦や大豆は、水稲と同じ穀物に分類される作物ですので、作業も類似している面もあり、機械化にも適しています。

政策支援(交付金等)も充実しているので、圃場条件や気象条件が適していれば、麦や大豆は水稲との相性が良い作物と言えます。

経営の条件に合わせて、政策支援(交付金等)を上手に活用することも、経営者の重要な役割です。

転作作物を選択する場合にも、圃場や気象の条件にあった適地適作が基本になりますが、交付金等なども含めて総合的に考えることが求められます。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。