
個人情報を除いた2019年度の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:稲作専業農家1,700人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
「自分だけでは畑や田んぼを維持できない」という農家が増えてきた現在、農業機械を持たない農家から農作業を請け負う「作業受託」が数多く実施されています。委託側は、高額な農業機械を購入しなくてよいというメリットがあり、受託側は農閑期や余っている農機を活かせるというメリットがあります。
では、作業受託は、全体の所得にどのような影響を与えているのでしょうか? 2019年度の統計分析によって、意外な結果が見えてきました。
受託作業の規模と費用・収益の比較
こちらは、作業受託の金額が全体の20%を超えている農家と、それと同程度規模の農家を比較したものです。
※作業受託の金額が収入金額の20%を超えている農家で集約
※比較のため、作業受託金額20%越えの農家と同規模の農家を使用
作業受託の多い農家では、地代・賃借料・材料費を抑えられていますが、減価償却費・労務費の割合がそれ以上に高く、所得(控除前所得+専従者給与)の割合が低くなっています。
減価償却費が高いので、自身の農地に見合わない農機を所有している可能性があります。作業受託は使っていない農機を活用したい、という動機から行われることも多いので、この推察は信ぴょう性が高いと言えます。ただし、最終的な所得を全体と比較すると、農機への過剰投資による損失を、作業受託では補い切れていないという結論が導き出せます。
収入面では、自身の作物の販売金額(特に稲作以外)や交付金が低くなっているという特徴があります。
作業受託20%超 | 同規模全体 | |
---|---|---|
件数割合 | 2.7% | 100% |
世帯農業所得 | ¥3,048,934 | ¥3,421,415 |
収入金額対世帯農業所得比率 | 21% | 25% |
稲作付面積 | 780.05a | 715.4a |
販売金額 | ¥9,121,267 | ¥10,529,176 |
収入金額 | ¥14,454,354 | ¥13,522,744 |
雑収入 | ¥5,095,315 | ¥2,794,026 |
こちらの比較でも、受託作業が多い農家は所得が低い、という同様の結果が出ています。
同規模全体の平均と比べて、稲作作付面積が大きいのに販売金額は逆転して少なくなっているので、野菜などのその他の作物の販売額が少ないことも考えられますが、単位面積当たりの収量(販売金額)も関係している可能性があります。また、雑収入が高い代わりに交付金関連が少ないので、ここに経営改善のヒントが隠れていそうです。
まとめ
まとめると、2019年度の分析では、作業受託を多く行っている農家は所得が少ない、という結果が出てしまいました。
しかし、農業の高齢化や耕作放棄地の拡大に伴って作業受託の重要度は増していますし、「ご近所づきあい」として必要だ、という側面もありますので、それならば作業受託をすっぱりとやめてしまおう、という結論は乱暴すぎるでしょう。
経営改善の方法としては、単位面接当たりの収量(販売金額)の増加を目指す、交付金申請のための転作作物の作付、などがあります。農業機械を揃えすぎると経営を圧迫するので、余分な農機があるなら思い切って売却するという対処も必要かもしれません。
また、作業受託を受けている農地を、借地による請負耕作に切り替えていく、という対策も有効です。地代を払う代わりに自分で生産・販売を行えば、利益も増えてくるはずです。
この機会に費用や収益の構成を見直し、作業受託は経営の利益になっているか?を今一度チェックするのも、有益かもしれませんよ。
南石教授のコメント
農産物の収量や価格は、天候など予測できない条件に大きな影響を受けます。
作業受託による収入は、一般に収量や価格の変動による影響を受けないので、経営の安定に役立つ面があります。
問題は、作業受託の収益性の水準です。
地域や圃場条件によっては、圃場の作業条件が悪く、作業コストが高くなります。
作業受託料金がコストに見合わない場合には、農作業受託は、農産物の生産・販売よりも、収益性が低くなります。
今回の分析結果は、農作業受託が低リスク・低収益の農家が多いことを示しています。