
農業法人インタビュー「農事組合法人ふるさと吉見」
「農業は儲からない」なんて考えはもう古い!
農業だって、やり方次第で儲かるということを実践している農業経営者が山口県にいました。
今回は、山口県宇部市の農業法人「農事組合法人ふるさと吉見」の経営をご紹介します。代表理事の河村守浩(かわむら もりひろ)さん(写真中央)、事務局理事の川本幸夫(かわもと ゆきお)さん(写真左)、販売促進部理事の上原久幸(うえはら ひさゆき)さん(写真右)にお話をお伺いしました。
農業利益創造研究所のインタビューで「農事組合法人」を取り上げるのは初めてです。「農事組合法人」は、どのような方法で利益を創造しているのでしょうか? インタビューを通じて、そのノウハウに迫ってみたいと思います!
儲かる秘密1:ドローンなどのスマート農業を積極的に導入!
ふるさと吉見の起源は6年前。高齢化により集約化が進み、一人では管理しきれない広さのほ場を受け持つようになった農家の方が三名集まって、より効率の良い管理を目指して農事組合法人ふるさと吉見を設立いたしました。
現在、ふるさと吉見の組合員数は108名と、農事組合法人としてはかなり大規模です。現在のほ場は37haで、内訳は水稲24ha、小麦10ha、その他の野菜等などが3haです。歴史ある組織ながら新たな取り組みにも挑戦しており、平成29年度全国麦作共励会表彰事例にも選ばれました。
まず初めに注目したい取り組みは、スマート農業です。ふるさと吉見では四名の組合員がドローンのオペレーター免許を取得して、組織で購入したドローンを農薬や肥料散布の分野で積極的に活用しています。さらに農業機械の稼動情報とほ場の情報を連携させるKSAS(クボタ スマートアグリシステム)を導入し、ほ場ごとの肥料の量や収量、さらには食味などのデータを収集しています。
「農業は奥深いものですから、データだけでは判断できない部分もある。たとえば天候や気温、台風が来た時期、様々な諸条件に左右されます。ただ、私のようなベテランはそう思うけれど、スマート農業は経験の浅い若い人にノウハウを伝える上で、大変役立ちます」
たとえばKSASでは、ドローンやコンバインの描いた軌跡を地図上で見ることができます。ベテランの走行を視覚的に確認することで、効率の良い農機の走行を学べます。

ふるさと吉見の方々は、スマート農業は若者のために導入している、という意識を強く持っているようです。省力化を図り収益性を上げて、若手に選んでもらえる組織にならなくてはならない、という考えも繰り返し述べられていました。
「若い人は農業なんてやりたがらない。そういう偏見があるけれど、万農塾(山口県の農業研修交流施設)には、新規就農を志す若い方が少なからず訪れます。そういう方に選んでいただけるように、農業でも十分に生計を立てられる環境を作っていきたいですね」
ふるさと吉見にも、ハウスでの観葉植物栽培とふるさと吉見での農作業を両立させ、生計を立てている新規就農者がいるそうです。ただし、もっと多くの若者に加入してもらうには、さらに収益性を上げて、その魅力で惹きつける必要があります、と上原さんは語ります。その鍵になる一つがスマート農業ではないか、そう期待しているようです。
儲かる秘密2:収益性向上のため、野菜の可能性を模索!
ふるさと吉見の利益向上の取り組みは、スマート農業だけにとどまりません。現在、新たに着目しているのが「野菜」だそうです。
日本全国の例に漏れず宇部市も地産地消を推奨していて、その流れの中でふるさと吉見も小学校・中学校の学校給食向けに、キャベツ、にんじん、大根、白菜などの露地野菜を納入しています。

「学校給食は納入量も価格も固定されていますから、安定した利益が出ます。パレットに詰めて納入するので、箱代もかからない。一般市場だと、値段が下がって箱代すら出ないこともありますから」
現在、野菜はほとんど市場には卸さず、加工用への出荷・学校給食用への納入・JA直売所での販売、の三本柱で流通させているそうです。さらに直売所での販売品は、差別化のための一工夫をしています。
以前、食育の一環として厚東川(ことうがわ)中学校の生徒たちが、ふるさと吉見の協力で野菜を育てて、販売まで自分たちで行いました。その時に生徒のアイディアで「霜降山高原キャベツ」という名前をつけ、野菜にイラスト付きラベルを貼ったところ、非常に売れ行きが好調だったそうです。
「市場価格より10円くらい高くても売れたんですよ。消費者にとって「誰が作った野菜か」は大切な情報なんですね。それで、ふるさと吉見が直売所で売る野菜にも、ふるさと吉見の野菜とわかるようにラベルを貼っているんです」

今後の課題は加工品への挑戦。「キャベツ一玉まるごとで売るよりも、カット野菜の方が便利で売れるのはわかっています。ただ、それには食品加工販売の許可を取る必要があるので、必要な設備等を整えるコストを考えると踏み切れない状況です。いずれはその許可も取って、六次産業化にもチャレンジしたいですね」
利益を還元し、地元を支えていく熱い想い
野菜のもう一つの長所は「とっても手間がかかること」です、と川本さんは語ります。手間がかかることが長所とは何故でしょうか?と重ねて聞いてみました。
「水稲や麦に比べて野菜づくりは非常に手間がかかりますから、誰かを雇う必要が出てきます。ふるさと吉見では、野菜づくりを組合員の奥様たちに手伝っていただいて、その労賃をお渡ししています。つまり、利益を組合員の家族に還元できるのです。会社なら利益は内部留保するかもしれないけれど、私たちは農事組合法人ですから、利益は全て組合員に還元したいと考えています」
野菜販売による利益が増えれば、野菜の作付面積を増やし、さらに多くの人を雇って利益を還元する、そんな好循環が生まれるでしょう、と明るい展望が語られました。
ただし、ふるさと吉見で野菜の流通経路が確立され始めたのは、ほんの最近。収益が上がっているのはどこの部分か、逆に経費がどこにかかっているのか、経営分析をしながら慎重に拡大していくつもりです、と皆様は経営者の顔を覗かせます。
現状、ふるさと吉見のほ場の半分は整備されていて、もう半分は未整備のままです。宇部市は山間地の多い土地柄で、田んぼや畑が段々になっているので、どうしても平地に比べて作業が非効率にならざるをえません。それをどうやって効率化して管理を続けていくかは永遠の課題です。

残念ながら高齢化と後継者不足によりほ場の管理先を探している農家様は多く、現在でもふるさと吉見に「うちのほ場の管理をお願いしたい」という話は引きも切らない、と河村さんは語りました。
「これまでお話したように利益向上や効率化のために地盤固めをしている最中ですから、今は規模を広げる時ではないと考えています。ただ、私たちにはこの吉見の田んぼや畑を守っていきたいという熱い気持ちがある。もっとたくさんのほ場を受け持てるようにするためにも、利益向上に向けて尽力していきます」
会社法人に比べて農事組合法人は利益追求の側面は薄い、と見られがちです。しかし、ふるさと吉見の方々は真剣に利益追求を目指し、冷静な経営分析や果敢なチャレンジを繰り返しています。それは組合員である農家のため、地元のほ場を受け継いで守っていくため、地域の農業に明るい未来を創るためなのです。
将来のためにも若者に選ばれる組織を目指したい、とお三方は繰り返し語っていました。情熱と真摯な姿勢に支えられてその目標は遠からず実現するだろう、そう感じさせられるインタビューでした。
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