
「農業王2022」受賞者インタビュー 青森県西津軽郡の木村 優仁さん
ソリマチ株式会社と農業利益創造研究所は、日本農業に無くてはならない個人事業農家を応援するために、優れた経営内容で持続可能な優良経営を実践している農業者を表彰する「農業王 アグリエーション・アワード 2022」を実施しました。
応募者の青色申告決算書をもとに経営の収益性・安定性を審査して全国108人を選考し、その経営者へのヒアリング調査により経営力や持続可能性についてさらに選考を行い、北海道から九州までの9ブロックの中で、普通作(米+麦・大豆)部門、野菜部門、果樹部門、畜産部門ごとに計16人の「農業王」を選出しました。
今回は、青森県西津軽郡鰺ヶ沢町の果樹部門の農業王である木村優仁(ゆうじ)さんからお話をお聞きし、優良経営の極意をご紹介します。
パートさんが働きやすい環境づくりを
日本全国の約50%のリンゴを生産している青森県。その西津軽郡に位置する木村果樹園は、350aのほ場で八つの品種のりんごを生産しています。収穫の早い順から、恋空、ジェネバ、ひろさきふじ、紅玉、千雪、シナノゴールド、王林、サンふじ。一番早い恋空は8月15日頃の収穫、一番遅いのはサンふじで、11月23日頃まで収穫しているそうです。
収穫を長く行うのは、パートさんの仕事を確保するためでもある、と木村さんは語ります。木村果樹園には専従者はなく、7名(現在)のパートさんを雇用していて、シニア層の女性の方が中心です。「忙しい時期だけ手伝ってもらう形だと人が集まりませんから、仕事を長く頼めるように考えています」とのこと。
さらに木村さんは働きやすい職場を目指して、自前でほ場に休憩所と仮設トイレを設置しました。「毎日雨具などを持ってくるのは大変ですし、物を置いておける場所があれば便利でしょう。それに女性ですから、トイレが傍にあれば便利ですよね」

費用については、後述する市役所の退職金でまかないました、と笑顔で語っていました。他にも(現在はコロナ禍で休止しているそうですが)ストレスを溜めないように思っていることを話せる場として、月一の食事会を開いているそうです。
果樹は機械化が難しい分野のため、人手の確保が重要な課題の一つです。働きやすい職場環境を作るにはどうしたらいいか、その視点に基づいて具体的に行動されているのは見事の一言です。
各品種を分析して利益の最大化へ
木村果樹園の出荷先は、津軽りんご市場が9割、残りの1割が加工業者や知人などへの直接販売で、JAには卸していないそうです。市場に出すと、自分のりんごにどれくらいの値がついたかわかるので、経営改善に大変役立つと木村さんは言います。
「同じ品種でも、この畑はあちらの畑に比べて値がつかない。十分に着色していないからかもしれない、来年は着色作業を長くやってみよう。そんな風に改善策が立てられます」
果樹農家の全国平均所得率34.9%に比べて、木村果樹園は40.4%とかなり高くなっています。これについては化学肥料をほとんど使わず肥料費が抑えられているから、という工夫も手伝っていますが、緻密な分析による利益の最大化が上手くいっている、という点も大きいでしょう。木村さんは品種内で比較するだけではなく、品種ごとの平均単価も算出し、戦略を立てています。

「単価が一番高い品種はサンふじです。ただ、サンふじは非常に手間がかかりますから、その人件費を考えると、本当に高い利益が得られているかはわかりません。逆に、黄色いシナノゴールドは着色作業が要らないので手がかからない。そこまで考えると、シナノゴールドの方が効率が良いと言えるかもしれません」
実際に、木村果樹園ではシナノゴールドを増やし、サンふじを縮小していく計画のようです。サンふじについては、さらに単価を上げるため、個数そのものは減らし、その分一つ一つに手をかけて良品を作っていくつもりです、と木村さんは語っていました。
市役所勤めから専業農家への転身
実は木村さんは次男で、お兄さんが農家の後継者になる予定でした。しかし、高校教師だったお兄さんが、「先生を続けたい」と言い出したため、急遽木村さんが継ぐことになりました。
当時、木村さんは五所川原市役所に勤められていて、しばらくは兼業農家を続けていましたが、お父様が大病を患って農作業を続けられなくなったため、思い切って市役所を辞めて専業農家になりました。
「子供の頃から畑が大好きでしたから、継ぐのは全く嫌ではありませんでした。市役所勤めは向いていないかもしれない、と感じることもあったので、ちょうどよかったのだと思います」
木村果樹園には、カシスのほ場も20aほど広がっています。このカシスとの出会いは市役所時代で、県の戦略会議で「あおもりカシスの会」の会長さんに会い、その時に飲ませてもらったカシスシェイクの美味しさに感激したそうです。
「自分でも作ろうと思って、すぐに苗木を買ってきました。最初は枯らすこともありましたが、試行錯誤のうちに、99%増やせる方法を見つけたんです。でも、今度は増えすぎちゃった(笑)。収穫が間に合わなくて地面に実が落ちてしまって、もったいなかったですね」
カシスの美味しさに目覚めた木村さんは、自前でカシスジャムの作り方を研究しました。甘さが邪魔にならないように糖度は控えめにするのがコツだそうです。現在は加工団体にジャムの製造をお願いして、市役所時代に知り合ったパン屋さんに置いてもらって、販売しているそうです。

「ラベルや瓶にコストがかかってしまうので、利益はほとんど出ていないんですよ。でも、カシスの美味しさをみんなに知ってもらいたいし、手掛ける加工品を増やしていきたい気持ちもある。収穫作業がない冬の間はカットりんごやカシスジャムを製造する体制になれば、パートさんは冬も働けますから」
障害のある方へ働く場所を提供したい
木村さんが加工品の製造にこだわるのは、もう一つ理由がありました。木村さんの息子さんは、自閉スペクトラム症と診断されています。「先生たちも理解をしてくださって、小学校に通う分には何も問題がありません。だけれど、将来的に理解のある職場でないと働くのは難しくなる可能性がある、と感じています」
木村さんの息子さんは、毎週土曜日に、木村果樹園のほ場の近くにある養護学校に併設された福祉施設へ通っています。その施設へ息子さんを送り届けるうちに、「もしも、この生徒さんたちに働く場所を提供できたら」と木村さんは考えるようになりました。
「私の息子は農家を継がないかもしれないので、考えのしっかりした方がいれば、継いでもらいたいと考えています。そのためにも、法人化を視野に入れています。そして将来的には食品加工設備を備え付け、りんごやカシスの収穫、加工作業を福祉施設に委託していきたい。息子のように障害を持った方やその親御さんに安心してもらえる場所を作りたい、そう考えています」

利益につながる緻密な経営術と、社会貢献につながる素晴らしいビジョン。この二つを併せ持つ木村さんは、まさに「農業王」の名にふさわしい立派な農業経営者でした。
農業王の受賞、おめでとうございました。
関連リンク
ソリマチ株式会社「「農業王2022」 受賞者決定!」
青森県鰺ヶ沢町観光ポータルサイト「あじ行く?」
コメントを投稿するにはログインしてください。