
個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
2026年2月に発表された総務省の2025年の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出額の中で食費の割合を示す「エンゲル係数」は28.6%であり、44年ぶりの高水準となりました。2024年は28.3%でしたので、2025年も米や野菜の価格高騰が家計を圧迫している状況が続いています。
(エンゲル係数とは、家計の消費支出全体に占める食料費の割合)
家計調査のコラムは昨年度も掲載しましたが、今回も家計調査結果を分析してみたいと思います。
エンゲル係数のランキング
昨年も行いましたが、主要都市のエンゲル係数のランキングを見てみましょう。
エンゲル係数が高いということは、総支出に対する食料費が高いということなので、①所得が低いために食料費の割合が高い、②所得は普通だが高価な食べ物を食べている、といった要因が考えられます。
下の表のように、エンゲル係数が高い順に大阪市、長崎市、宮崎市、と続いています。
大阪市は所得が低いとは考えられないので、「食い倒れの街」とも言われる大阪らしく、外食などに積極的に支出している可能性があります。
エンゲル係数が低い順では、名古屋市、山形市、水戸市、と続きます。
エンゲル係数が低いということは食費が少ないということですが、名古屋市は121万円ですから決して低くありません。
むしろ、消費支出額が441万円で一番高額です。食費以外の支出項目が大きいため、相対的に食費の割合が低く見えているに過ぎません。
| エンゲル係数 | 年間消費 支出金額 | 食料 支出金額 |
|
|---|---|---|---|
| 大阪市 | 33.6 | 3,487,143 | 1,171,252 |
| 長崎市 | 33.6 | 3,223,355 | 1,081,499 |
| 宮崎市 | 33.3 | 3,233,499 | 1,077,504 |
| 京都市 | 33.2 | 3,616,144 | 1,200,157 |
| 那覇市 | 33.1 | 2,883,185 | 953,247 |
| エンゲル係数 | 年間消費 支出金額 | 食料 支出金額 |
|
|---|---|---|---|
| 名古屋市 | 27.5 | 4,414,664 | 1,213,083 |
| 山形市 | 28.1 | 4,130,699 | 1,160,191 |
| 水戸市 | 28.3 | 3,881,990 | 1,097,337 |
| 広島市 | 28.3 | 4,237,397 | 1,199,586 |
| 盛岡市 | 28.3 | 3,734,288 | 1,057,632 |
名古屋市は何にお金を使っているのか調べたところ、①「外食」大阪市より年間7万円多い、②「自動車関係」大阪市より23万円多い、③「教養・娯楽」大阪市より11万円多い(特に旅行代)、④「子供への仕送り」大阪市より10万円多い、ということがわかりました。
名古屋市は自動車関連企業が集積する地域であり、比較的所得水準が高く、外食、旅行、車の購入にお金をかけていると思われます。
また、名古屋では、「娘を嫁に出す際は盛大に支度をする」といった、贈り物や祝い事を重んじる文化があり、親から子への金銭的な支援に表れているのでしょう。
家計調査を通じて、地域の特性が見られ、大変興味深い結果です。
昨年の分析コラムでも、エンゲル係数が一番高い市は神戸市、一番低い市は宇都宮市でした。
神戸市と宇都宮市を消費支出の費目別に金額を調べたところ、「自動車等関係費」が神戸市199,467円に対して、宇都宮市は572,360円と2.8倍でした。
食料費の内訳
下のグラフを見ると、パンや麺類は物価高騰で多少の支出金額の増加が見られますが、何と言っても米の急激な上昇はすさまじいです。
2025年の米の支出は2023年の2倍以上です。
1世帯当たりの食料支出の内訳と、2024年から2025年の増減率の2つをグラフにしてみました。
このグラフを見る限り、米の上昇率は高いですが、米の購入金額は年間47,739円で、食料支出金額のうち3.7%しかありません。果物と変わらない額ですから、主食である米が極端に高い水準にあるとは言えないかもしれません。
米の価格が2年前と比べて約2倍になったことや、他の食材と違って1回の購入金額が4,000円以上と高く、そのため「米は高い」という印象が強くなっている可能性があります。
ちなみに、26年前の2000年は、食料支出金額のうち米の割合は4.1%でした。
年間支出額が増えた農産物は
2024年の年間消費額が前年比1.1倍以上になった農産物を調べてみました。
米は勿論ですが、たまねぎ、キャベツ、はくさい、ブロッコリー、などが上昇しています。野菜の価格はその年の収穫量に影響されますが、例えば玉ねぎは、2024年の淡路島の長雨や、北海道の猛暑による小玉化で収穫量が減っています。それに加えて、2024年は物流コストの上昇も影響していると思われます。
| 2023年 | 2024年 | 上昇率 | |
|---|---|---|---|
| 米 | 20,397 | 27,196 | 1.3 |
| たまねぎ | 3,704 | 4,368 | 1.2 |
| キャベツ | 2,942 | 3,240 | 1.1 |
| はくさい | 1,311 | 1,453 | 1.1 |
| ブロッコリー | 2,384 | 2,697 | 1.1 |
| じゃがいも | 2,585 | 2,870 | 1.1 |
| だいこん | 1,605 | 1,770 | 1.1 |
| キウイフルーツ | 2,043 | 2,352 | 1.2 |
支出額が増えた農産物の農家の経営はどうだったのでしょうか。
下の表は、農業簿記ユーザーの2023年と2024年の世帯農業所得の変化です。だいこん、キャベツ、はくさい、ブロッコリー、じゃがいも、は価格が上がった(家計支出額が増えた)分、農家の所得も増えています。
しかし、たまねぎは農家の所得は増えませんでした。農家の販売金額は上がらずに、物流コストの増加が価格に影響した可能性も考えられます。
| 2023年 | 2024年 | 上昇率 | |
|---|---|---|---|
| 米 | 4,879 | 8,515 | 1.7 |
| だいこん | 5,316 | 7,780 | 1.5 |
| キャベツ | 6,295 | 8,548 | 1.4 |
| はくさい | 7,659 | 9,708 | 1.3 |
| ブロッコリー | 5,185 | 5,565 | 1.1 |
| じゃがいも | 10,648 | 11,732 | 1.1 |
| たまねぎ | 18,179 | 16,943 | 0.9 |
| キウイフルーツ | 2,979 | 4,337 | 1.5 |
まとめ
農業所得の方程式は、
農業所得 = (販売単価 × 販売数量) - 生産コスト
です。
たとえ販売単価が上がっても、販売数量が減ったり、それ以上に生産コストが跳ね上がったりすると、結果として所得は増えません。
2026年4月に、原材料やエネルギー価格高騰の中、農林漁業者や食品事業者が生産コストを適正に商品価格へ転嫁(反映)し、持続的な食料供給を守るための「食料システム法」が施行されます。
「生産コストを価格に反映しやすくする」という狙いですが、「農家の持続可能性のため」という理由だけで消費者が値上げを受け入れるとは限りません。消費者の理解を得るための広報や啓発が追いつかなければ、販売数量の減少を招いたり、輸入品が増える恐れもあります。
関連リンク
総務省統計局「家計調査」
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、消費者の農産物への支出額の増減と、農産物を生産する農家の農業所得の増減の関係が明らかになりました。 小売店で消費者が支払う農産物の価格と、農家が受け取る農産物の販売価格の間には、以前から大きな格差があります。
農産物の種類によっても、時期によっても、地域によっても異なりますが、大まかには、農家の受け取る販売価格は、消費者の支払う小売り価格の1/3~1/2程度といわれています。つまり、消費者の皆さんが支払っている小売りの1/2以上は、農産物を消費者の皆さんの近くの小売店で必要な量だけ、いつでも購入できるようにするための費用ということになります。
何らかの事情で、農家の販売価格が仮に1割上昇すると、小売り価格はそれ以上に上昇する品目がしばしば見られるようです。農産物がどこでも、いつでも、必要なだけ購入できる利便性を維持するには、それに見合ったコストが必要ということかもしれません。
