農業利益創造研究所

作目

新規就農するなら花き経営が良い? 高所得が得られる花は何か

個人情報を除いた2021年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家13,300人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

新型コロナウイルスの影響により葬儀や結婚式が減少し、花き業界は一時大変な状況となりましたが、現在は回復しつつあるようです。花き栽培は品目にもよりますが、栽培技術習得すれば20~30aの小面積で経営することもでき、若い新規就農者に注目されています。

それでは、花き経営は儲かるのでしょうか。その答えに迫るため、農業簿記ユーザーの中で花き個人農家600件のデータを調べてみました。

全国の花きの生産状況

日本花き卸売市場協会の調査では、2021年の取扱高金額は家庭需要が伸びて前年比9%増となり、コロナ禍前の水準にV字回復したそうです。

しかし取扱い金額は上向いても、作付面積は様子が違いました。農林水産省「作況調査(花き)」の資料によると、2021年は作付面積が1万3,280haであり、生産者の高齢化等により規模縮小等があったため2020年に比べ130ha(1%)減少しました。

作付面積の前年対比では、キク、バラ、カーネーションは減少しているにもかかわらず、宿根カスミソウは、福島県にて新規就農者が増えて作付けが増加しているそうです。このように地域全体で花のブランド化を目指しながら新規就農者を増やす取組みはとても有効だと思われます。

それでは、全国的に見て作付面積が大きな花きは何なのでしょうか。下記のグラフに見るように、切り花の作付面積のトップは「キク」、そして「ユリ」、「リンドウ」と続いています。多少減ったとはいえ、仏花需要が強いキクのシェアはまだまだ圧倒的のようです。

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高所得花き農家の費用構成の特徴

次に、高所得花き農家の特徴を探ってみましょう。上位グループ(世帯農業所得2,000~3,000万円)と、下位グループ(世帯農業所得300~500万円)それぞれの収入金額を100とした費用金額の比率を算出し、その差をグラフにしてみました。

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上位グループの収入金額平均は6,100万円、下位グループは1,500万円となっており、上位グループの方は雇人費が高いので、おそらく大規模な花き経営農家が多いと推測できます。また、動力光熱費が高いことから、ハウス栽培を積極的に行っている経営だと推察できます。

そして意外なことに上位グループは、種苗費がかなり低くなっています。花きの種苗というと、外部から種や苗や球根を購入するのが一般的でしょうが、その種苗費が低いということは、挿し木や自家採種を行っているからなのかもしれません。ただし、種苗法による制限によって、品種登録が行われている種は自家増殖できない場合もありますので注意が必要です。

花き経営において種苗費がコスト効率化に影響していると言えそうですから、新規就農者が花を選択する際に、なるべく種苗費がかからない花を選択することもポイントになると思われます。

花の種類によって所得に差があるか

農業簿記ユーザーの花き農家の中で、多く生産されている花はキク、バラ、リンドウ、ユリ、ランです。これらの花を主幹作目とする花き経営農家の所得や経費について掘り下げて分析してみました。

下記の表のように、一戸当たり農家の世帯農業所得(控除前農業所得+専従者給与)平均金額は、バラが766万円と最高金額でした。そして、世帯農業所得率が31.8%と高く経営効率が良いと思われる花はリンドウです。

キクバラリンドウユリラン
収入金額20,73529,60112,02228,64326,707
世帯農業所得5,9927,6683,8197,0846,218
世帯農業所得率28.9%25.9%31.8%24.7%23.3%

収入金額を100とした費用金額の比率を計算し、それぞれの花の差をグラフにしてみると、それぞれの特徴が見えてきます。

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全国的に多く栽培されているキクを基本形として見ると、バラはハウス栽培が多いせいか動力光熱費が高くなっており、リンドウは荷造運賃手数料が非常に高いです。

リンドウを栽培している農家の都道府県を調べたら、ほとんど岩手県でした。実はリンドウは岩手県が出荷量日本一です。岩手県から都会へ運ぶために運賃が高くなっているのかもしれません。

バラの種苗費が低いのは挿し木による増殖だからでしょうか、非常にコストを引き下げています。それに対してユリとランは種苗費が高くなっています。

どの花にも特徴や地域性があるので、一番儲かる花はこれだ、と断定することはできませんが、リンドウは所得率が高くても所得額としては低いので、やはり高所得額の花を選ぶなら、バラ、ユリ、ラン、といったところでしょうか。

まとめ

近年の燃料費の高騰でハウス栽培農家はコスト増になる可能性があります。そのような中で、花き農家を目指そうとする新規就農者は、大量に消費されるキク、ラン、ユリのような花を栽培するか、たくさんは売れないが付加価値が高いめずらしい花を選ぶか、大都会近郊等の土地の条件や気候に合わせて、戦略を練って経営していく必要がありそうです。

総務省の家計費調査によると40歳未満の花の購入額がとても低く、若い世代は花の消費の優先順位が非常に低い傾向があるそうですが、若い新規就農者がもっと増えて新しい発想により、若い人たちが花を購入する機会が増えるような社会になることを期待します。

他にも最近掲載した花き経営のコラムがありますので、参考にしてください。
「これからは花きの時代?若者や女性に人気の花き経営」

関連リンク

農林水産省「作況調査(花き)
農林水産省「花きの現状について

南石教授のコメント

一口に花きといっても、種類によって需要や消費に特徴があります。第1は、冠婚葬祭等の式典で重宝される花です。第2は、レストランや旅館、商品販売促進など業務用に重宝される花です。第3は、個人のプレゼントや自宅用に重宝される花です。 これらの用途の花は、その場にあった雰囲気を醸し出し、気分を変えてくれるといった効能があります。さらに、第4に、成分を抽出して香水等の原料にする花もあれば、第5に食べられる花(エディブルフラワー)もあります。これらは、香水や食事に付加価値をつけることができます。

どういった需要・消費を想定するのか、そこでは何が求められているか等によって、栽培する花の種類や栽培法が変わってきます。花きの可能性は、無限といえるかもしれません。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

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