農業利益創造研究所

収入・所得

米価が上がって米農家の財務と税務はどうなったか

個人情報を除いた2025年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家20,292人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

周知のとおり、2025年は米価が大きく上がった年です。農水省が発表している9月の全国全銘柄平均の相対取引価格は36,895円/60㎏で、2年前の15,291円/60㎏を大きく上回りました。

このように高騰した米価により、2025年の普通作(稲作)経営は大きな増益だったのですが、それにより普通作経営の財務と納税額はどう変化したのでしょうか。今回は米価高騰による普通作経営の財務と所得税の変化を見てみます。

キャッシュの積み上げが進む

以下は3ヵ年の普通作経営(米、麦、大豆などを一番多く作っている経営)の概要です。値は平均値です。このように2025年の世帯農業所得は、大きく伸びた2024年の8,597千円をさらに上回り14,285千円になりました。

2023年2024年2025年
経営体数(数)3,0974,3496,180
収入金額合計22,04025,72631,803
世帯農業所得5,2088,59714,285
世帯農業所得率23.6%33.4%44.9%

※金額の単位は千円。

次に3ヵ年の主な財務項目の、各年の期首と期末の変化を見ます(年間比較は、2025年の件数が大きく増加したので、今回は行いません)。2023年は農機具等が2,050千円増加(10,750-8,700)していますが、借入金も1,986千円増加(11,359-9,373)しています。これは、借入をして設備投資をするといった、従来からよくみられる動きとも言えます。

2024年になると増益の影響で、現金・預金が3,142千円増加(14,102-10,960)しています。しかしそのほかは、一時的な税金の繰り延べ効果のある基盤強化準備金が45%増加(608÷420)したぐらいで、大きな変化はありません。

2025年になると現金・預金はさらに6,171千円も増加(18,575-12,404)した一方で、農機具等も1,189千円の増加(9,328-8,139)をしています。これは、2024年の増益により、大きな借入を起こさずに農機具等の設備投資を進めたとも読めます。ただし、それでも農機具等の残高の増加は、現金・預金の増加と比べると全く及びません。つまり、米価高騰で所得を大きく伸ばしたものの、その所得の多くは投資に回らず、概ね現金・預金で持つといった、保守的な運用をしているように考えられます。これは2023年の動きと比べても顕著な傾向です。

米の販売代金が入ってから期末までの期間は短いので、もしかしたら本格的な運用は2026年に始まるのかもしれません。しかし2025年は早い時期から高値が予想されていたので、「節税」に熱心な農家は早々に減価償却資産を購入すると思われていたため、この結果はかなり意外な印象を受けました。理由は色々考えられますが、普通作農家の多くは2025年の高値を一時的なものと考えていて、投資よりも財務基盤(キャッシュ量)の強化を優先した、というのが実情かもしれません。

なお、2025年の基盤強化準備金も42.3%の増加(703÷494)となりました。

2023年2024年2025年
期首期末期首期末期首期末
件数2,0812,0812,8992,8994,1744,174
現金・預金11,16711,82910,96014,10212,40418,575
建物・構築物5,7445,6705,7965,8485,1965,393
農機具等8,70010,7508,5949,0688,1399,328
土地16,68416,82815,60815,75811,64311,768
経営保険積立金2,2202,2492,2322,2951,5331,566
買掛金210233259249258291
借入金9,37311,3599,1129,2927,3617,621
基盤強化準備金452506420608494703

※金額の単位は千円。

どの階層でも基盤強化準備金の利用が進む

以下は、2025年の主なBS科目の、期首から期末の割合を販売金額ごとに表したものです(所得率は2025年の実績値)。

販売金額が大きくなるにつれて、きれいに所得率と現金・預金の増加率が高くなっています。大規模になるほど米価の高騰による増益効果が上がることと、現金・預金の保有が進むのは、2025年の普通作経営の傾向と思われます。

なお、基盤強化準備金の増加率は、すべての層で現金・預金に次いで高いか、それ以上の増加率を示しており、税金対策を行った形跡が見られます。特に販売額10,000千円~20,000千円の層は際立って大きくなっていますが、これは今まであまり所得税が発生しなかった経営体が、米価高騰により課税所得が大幅に上がったため、2025年に“慌てて”対応した、ということなのかもしれません。

~1,000
万円未満
~2,000
万円未満
~3,000
万円未満
~4,000
万円未満
~5,000
万円未満
~6,000
万円未満
6,000
万円以上
件数(数)1,186885680468352232371
所得率36.1%42.9%44.1%44.9%45.8%47.2%47.9%
現金・預金125%143%150%155%155%159%160%
建物・構築物100%100%104%103%101%106%110%
農機具等106%112%111%118%120%119%116%
土地100%100%101%101%101%101%102%
経営保険積立金95%104%102%101%103%103%102%
買掛金92%118%124%119%105%129%107%
借入金108%102%98%104%106%106%103%
基盤強化準備金159%278%158%176%137%150%116%

所得税の負担も大幅に増える

以下は、普通作経営の2年間の所得税の概況です。上記の集計とは異なり、販売金額100万円以下の小規模農家も含むため、上記のデータよりも件数は多くなっています。値は全て平均値です。

再差引所得税額とは、復興特別所得税が加算される前の所得税額ですが、2024年の642千円から2025年は1,586千円となり、約2.47倍となっています。これだけ納税額があると、期中から多くの予定納税が発生していたと考えられ、そうなると現金・預金を多めに持つことにも合理性があります。

農業所得や課税所得の上昇ほど、所得控除合計は伸びていません。税額控除は、2024年は定額減税があったことから逆に減少しています。確定申告の段階であらためて出来る節税は、限られているということかもしれません。

2024年2025年前年比
件数4,6306,303136.1%
農業所得4,4827,745172.8%
所得控除合計1,7732,035114.8%
課税所得5,1348,913173.6%
税額控除合計643961.0%
再差引所得税額6421,586246.8%

※金額の単位は千円。

次に2025年の販売金額別の所得税の概況です。売上が上がるとともに、所得税額も増加しており、これを見ると「儲けるのも楽じゃない」とは思います。特に、販売金額60,000千円以上の所得税額は10,195千円と極めて大きな金額です。ただ、この層の2025年期末の現金・預金残高は43,012千円ですから、それだけを見れば全く払えない金額ではありません。とはいえ私のような人間の感覚では、想像が全く及ばない世界です。

~1,000
万円未満
~2,000
万円未満
~3,000
万円未満
~4,000
万円未満
~5,000
万円未満
~6,000
万円未満
6,000
万円以上
件数3,1811,163699435323204298
農業所得1,3926,67211,27615,91319,75224,76434,883
所得控除合計1,8651,8282,0852,3172,5632,6703,124
課税所得2,4966,17010,01814,29117,86422,73632,550
税額控除合計4185187124160215
再差引所得税額1638451,8683,2694,4836,26310,195

※金額の単位は千円。

以上見てきた通り、普通作農家は大きく儲けましたが、設備投資はそれほど進んでいるようには見えず、税負担は非常に大きくなっています。2026年は米価が大幅に下がると言われていますが、そうなると2026年期中に納める所得税の予定納税や住民税の支払いなどで、キャッシュは厳しくなるのではないでしょうか(所得税の予定納税は減額申請が可能)。儲かることは良いことですが、あまりに乱高下が過ぎると、経営のかじ取りは一段と難しくなります。

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、納税の視点から、米価が高騰した昨年2025年の稲作農家の財務状況を明らかになり、米価は昨年の高騰と今年の暴落という大きな年次変動となりました。

これに対して、経営経費は増加傾向にありますが、毎年の年次変動はそれほど大きくなく、農家所得は、販売金額の年次変動以上に、大きな増減率となります。各種控除などを考慮すると、納税額の変動はさらに大きな増減率が想定できます。

稲作農家は、地球規模の気候変動に伴う異常気象という稲作栽培環境の年次変動に加えて、米価の高騰暴落にともなう財務的年次変動にも直面しています。不確実性が大きな時代を、好機ととらえて強気な経営を行うのか、リスクを最小化する慎重な経営を行うのか、経営者の手腕が問われているともいえます。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所)