
個人情報を除いた2021年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家13,300人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
近年物価が高騰し、農作物の生産コストが増加傾向にあります。生産コストが上がっている中で農業所得を下げないようにするには、経費がかからず利益率の高い効率の良い品目を作付けることも選択肢の一つです。
たとえば、利益率が良い野菜とは何なのでしょうか? 農業簿記ユーザーの野菜農家4,539件のデータを分析して、高所得率の儲かり野菜を探ってみます。
日本の品目別野菜の産出額ランキング
農林水産省の資料によると、2020年の野菜の産出額は2兆2,520億円となっており、下記のグラフのようにトマト、いちご等の10品目で全体の約6割を占めています。また、野菜の生産量でみると、キャベツ、たまねぎ、だいこんの3品目で国内生産量の約4割を占めています。
何の野菜を生産するかという選択の際に、消費量が高いもの、栽培しやすいもの、周りの野菜農家がつくっているもの、JAが推薦するもの、などの判断で選ぶことが一般的なのでしょう。
隠れた儲かり野菜は?
トマトやイチゴ農家は確かにたくさんの農家が栽培し、高い販売金額で高所得を得ています。しかし中には、販売金額は多くなくてもコストをかけずに高い所得を得ている野菜農家がいます。その農家は、必ずしも上記グラフ内の生産量上位の野菜を作っているわけではありません。
高所得率上位の野菜農家がつくっているのは以下の表の通りで、ワサビ、レンコン、カブ、サツマイモです。野菜農家の所得率の全国平均が27.1%に対していずれも35%以上の高所得率であり、ワサビは43.5%という高い所得率を誇っています。
品目 | 所得率 |
---|---|
全国平均 | 27.1% |
ワサビ | 43.5% |
レンコン | 37.7% |
カブ | 36.0% |
サツマイモ | 35.0% |
それでは、ワサビやレンコンが高所得率となる理由は何でしょう。以下の収入金額を100とした経費比率のグラフを見ると、ワサビは全国平均と比べて種苗費は高いものの肥料や農薬はほとんどかかっていません。経費そのものの比率も、全国平均に比べて非常に低くなっています。
きれいな水が流れるところに生育するワサビは、栽培方法が他の野菜とはまるで違い、肥料も農薬もさほど使われません。また、ワサビの植え付けも収穫も手作業であり、高価な農業機械が必要無いこともコスト減の要因と思われます。
一方のレンコンは、肥料費はかかっていますが、種苗費と農薬費がかなり少なくなっています。ワサビもレンコンも手間のかかる作物ですが、物財費や設備投資が少なくても高収益を得られる品目であるということがデータから読み取れます。
建物や農機具の固定資産額について調べてみたところ、全国平均1,000万円に対して、ワサビ農家は760万円、借入金額は全国平均600万円に対してワサビ農家は210万円と、経営の安全性も抜群であることがわかります。
まとめ
農業資材が高騰している中で、昔ながらの自然農法や有機物活用による農業が注目されており、これからは低コスト農業にシフトしていくのではないかと思われます。
ただ、野菜は需要と供給のバランスで価格が決まりますので、効率的な品目だからといってみんなが生産して供給過剰になると価格が下がってしまうというのも悩ましい所です。
その点、高所得率のワサビやレンコンは、栽培できる地域が限定されており生産量が一定で価格も安定しているから儲かる、という要因もあるかと思います。実際、ワサビは長野県、静岡県、岩手県でほとんど生産されており、レンコンは茨城県のシェアが高く、国内生産量の約半分を担っています 。
所得率が高いからといってどこでも目当ての作目を作れるわけでは無いですが、新規就農で農業を始める場合は地域も品目も選べるわけですから一つの選択肢になると思います。
やはり農業経営は、地域と土壌と気候に合った作物をつくることが一番大事なことです。高利益の作目も調べた上で、自分の地域や状況に合う作物は何かを慎重に判断して決めていきましょう。
関連リンク
農林水産省「野菜をめぐる情勢(令和4年10月)」
南石教授のコメント
今回の分析では、ワサビやレンコンが高所得率であることが明らかになりました。では、日本全国どこの都道府県、地域でも、これらの作物が栽培できるかと言えば、それは難しそうです。
両作物とも、その栽培には、「水」が大変重要な経営資源となっています。質、量ともに優れた水資源に恵まれたほ場でないと、残念ながらワサビやレンコンの栽培は困難です。
天の恵みを如何に活かすかが、やはり農業の基本ということを改めて再確認できます。