
個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
農林水産省の発表では、2025年7月の緑茶の輸出額は前年同月比90%増加したと発表があり好調とのことです。ニュースでもアメリカで「抹茶ラテ」がブームになっているとか、EUでは有機抹茶への関心が高くなっている、ということを聞きます。
農林水産省は、2025年4月に「茶業及びお茶の文化の振興に関する基本方針」を発表し、茶業の主軸を「国内消費」から「輸出」へ転換し、「てん茶」や「有機栽培茶」の輸出を推進する、という方針を打ち出しました。
2025年はお茶にとって転換の年となると予想できますが、現在のお茶経営の状況を、全国のお茶農家154件のデータを基に分析してみたいと思います。
近年のお茶の情勢
農林水産省の資料によると、お茶の主要産地は、栽培面積順で、①静岡県、②鹿児島県、③三重県、④京都府、⑤福岡県です。これまで荒茶生産量は静岡県がトップでしたが、2024年に鹿児島県が統計開始以来初の日本一になったそうです。
静岡県は「せん茶」(一般的なお茶)が有名で、鹿児島県は「てん茶」の生産が全国1位ですが多様なお茶の生産も行っています。京都府は「玉露」及び「てん茶(抹茶)」の生産が有名です。抹茶ブームによる需要の高まりを受け、てん茶の生産は増加傾向にあり、この15年間で2.8倍の生産量だそうです。
農業簿記ユーザーお茶農家154件の分析
それでは、お茶の需要の高まりとともに、お茶農家の経営は良くなってきたのでしょうか。以下の表のように、2022年と2024年を比較してみました。
収入金額が172万円増えましたが、物価高の影響で経営費が100万円増加し、世帯農業所得(控除前農業所得+専従者給与)は65万円増の557万円となりました。
| 2022年 | 2024年 | 差 | |
|---|---|---|---|
| 経営体数 | 142 | 154 | 12 |
| 収入金額 | 22,328 | 24,057 | 1,728 |
| うち販売金額 | 19,682 | 22,043 | 2,361 |
| 経営費 計 | 17,405 | 18,479 | 1,073 |
| 特別控除前 農業所得 ① | 2,381 | 3,168 | 787 |
| 専従者給与 ② | 2,541 | 2,410 | -131 |
| 世帯農業所得 ①+② | 4,922 | 5,578 | 656 |
| 世帯農業所得率 | 22.0% | 23.2% | 1.1% |
※金額の単位は千円
お茶の農業所得率は23%程度ですが、これは野菜(27%)や果樹(36%)などと比べるとやや低い数字です。つまり、お茶は経費が多くかかる作物であるといえます。経営費計を100とした各費用の比率をグラフにして経費構造を見てみましょう。
お茶の3大経費は肥料費、労働費、動力光熱費、であることがわかります。お茶の生育には肥料費がこれほどかかるというのは意外でした。調べてみると、お茶の品質と生産量を高めるには、多量の窒素成分の肥料が不可欠だそうです。
また、お茶は手作業の労働力が必要ですし、お茶の加工には蒸す・乾燥するための電力や燃料のエネルギーが必要です。近年の物価高騰により、肥料費や人件費、燃料費が上昇したため、お茶経営はかなり大変な状況だったと思われます。
有名産地3府県の経営比較
次に、お茶の有名産地である静岡県と京都府と鹿児島県の経営を比較してみましょう。
すべてのお茶農家を集計したわけではありませんが、収入金額は京都府が一番高く、世帯農業所得も京都府が847万円でトップでした。
静岡県は傾斜地栽培が多いため経営規模は小さめ、京都府は手間がかかる栽培が多いため小さめ、鹿児島県は平地栽培が多いため大規模経営が多いと言われていますが、京都府の収入が多いのは意外でした。
| 静岡県 | 京都府 | 鹿児島県 | |
|---|---|---|---|
| 経営体数 | 37 | 25 | 29 |
| 収入金額 | 14,947 | 28,784 | 20,317 |
| うち販売金額 | 13,236 | 27,602 | 19,007 |
| 経営費 計 | 10,860 | 20,306 | 15,547 |
| 特別控除前 農業所得 ① | 1,187 | 5,949 | 2,914 |
| 専従者給与 ② | 2,900 | 2,529 | 1,856 |
| 世帯農業所得 ①+② | 4,087 | 8,477 | 4,770 |
| 世帯農業所得率 | 27.3% | 29.5% | 23.5% |
※金額の単位は千円
販売金額を100とした費用比率をグラフで見てみましょう。
京都府は肥料費が低いことが目立ちますが、費用が全体的に低いことがわかります。全体的に費用比率が低いということは、かけた費用に対して売上が高い(高単価で販売している)ということなのではないかと思われます。
農林水産省の資料によると、2023年のせん茶の平均単価は1,223円/Kgに対して、てん茶(抹茶)は3,141円/Kgと非常に高額です。海外での輸出に関しても、京都府の抹茶や玉露の輸出額が高くなっているということなので、京都府のお茶農家の売上が増加したのではないかと予想できます。
まとめ
抹茶は、輸出増加と外国からの観光客増加によりますます需要が高まると思われます。
生産者は、肥料費や労働費の削減に工夫することも大事ですが、どのような種類のお茶を生産するか、そして茶期による(一番茶、二番茶など)価格差を考慮した収穫を意識することで、売上が上がり所得も増えると思われます。
一方で、国内では、お茶の原料不足による価格高騰が深刻となり、お茶商品の値上がりが懸念されています。まさにこのような状況はお米と同様であり、生産者と消費者双方が喜ぶバランスが求められます。
お茶の輸出を行っている農家のインタビュー記事もご覧ください。
長崎県東彼杵町から世界へ 美味しいそのぎ茶を届ける「FORTHEES」の挑戦
関連リンク
農林水産省「茶業及びお茶の文化の振興に関する基本方針」
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、お茶の主要産地である京都、静岡、鹿児島の農家経営概況が明らかになりました。京都の農家は、収入金額、世帯農業所得、世帯農業所得率の全てが最も高く第1位でした。鹿児島は、収入金額と世帯農業所得は第2位でしたが、世帯農業所得率は最も低い値でした。
一般に、農業所得向上のためには、生産・販売規模拡大や高付加価値化が有効であることが知られています。京都は宇治茶に代表されるように高級茶のブランドが確立しており、高付加価値化により高い販売単価が期待できます。これに対して、鹿児島は、他の産地よりも平坦で大区画の茶園が可能で温暖な気候に恵まれており、生産販売規模拡大や作業効率向上が期待できます。
今回の分析結果は、お茶農家の場合には、高付加価値化を実現できる条件が揃っていれば、生産・販売規模拡大よりも、より高い農業所得が期待できることを示唆しています。
