
第54回日本農業賞において優秀賞を受賞した長崎県東彼杵町(ひがしそのぎ)の福田新也さんは、お茶農家四人が集まって立ち上げた「株式会社FORTHEES(フォーティーズ)」の代表を務めています。福田さんは2018年の第72回全国茶品評会「蒸し製玉緑茶部門」で第一位を受賞、さらに前年の第71回全国茶品評会では、FORTHEESのメンバーである尾上和彦さん(写真右端)が第一位を受賞し、FORTHEESとして連続受賞を達成しています。
今回は福田さんへのインタビューを通じて、そのぎ茶を広めるために挑戦を続けるFORTHEESの歩みをご紹介します。
高品質の「そのぎ茶」を育てる秘訣は?
長崎県の大村湾沿いに位置する東彼杵町は一年を通じて温暖な気候で、平野部から山間部まで肥沃な農地に恵まれており、全国有数の茶葉の名産地です。東彼杵町で栽培されたお茶は「そのぎ茶」というブランド名で親しまれ、深みのある柔らかな味わいが特徴です。
全国茶品評会第1位を受賞された福田さんに、高品質のお茶を栽培する秘訣を伺いますと、「まずは土づくりですね。肥培管理には大変気を使っています」とのお返事。米ぬかや菜種などの有機肥料を中心に、できるだけ小分けにして与えるのがコツです。「大盛りのどんぶり一杯を一気に完食するより、少しずつ食べた方が食べやすいでしょう。それと同じで、少しずつ与えた方が肥料を効率よく吸収してくれるんです」

また、お茶は摘採のタイミングで大きく味が変わるため、摘採適期(摘採に一番良い時期)を見極めることも大切です。福田さんの茶畑は海の傍から山間部まで点在し標高差が激しいため、場所によって早生、中生、晩生と植え分けることで、摘採適期を上手くずらしています。
また東彼杵町では、品評会に出す一番茶のお茶摘みスタッフをボランティアで募集しており、全国から数百人の募集が毎年集まります。福田さんのふくだ園も、このボランティアさんたちの協力の下で、お茶摘みを行っています。手摘みは機械に比べて手間がかかる分、状態の良い芽が揃って高品質と言われています。そのぎ茶はこうして数多くの人々に支えられ、美味しいお茶として愛されているのです。
海外にそのぎ茶を広めるため「FORTHEES」を設立
お茶農家として順調に実績を重ねる一方で、福田さんは大きな悩みを抱えていました。それは、日本における緑茶の需要が年々減少していることです。急須でお茶を飲む習慣がない若い世代が増え、お茶の単価も下がる傾向にありました。
そんな折、海外を訪れた福田さんは、お店で売られている抹茶に殺到する海外の人々を見て、衝撃を受けました。日本といえば抹茶、そんなイメージが定着するほどに、海外では抹茶が大きな人気を博していました。
「国内だけに目を向けていては先細りだ。そのぎ茶を海外に届けよう」そう決心した福田さんは、志を同じくする三人のお茶農家、大山良貴さん、中山公輔さん、尾上和彦さんと一緒に株式会社FORTHEESを設立しました。
海外への拡販のためには、抹茶の原料である「碾茶(てんちゃ)」を製造する工場が必要です。福田さんたちは京都や福岡などの様々な碾茶工場を見学して勉強を重ね、日本政策金融公庫が提供する融資と、強い農業・担い手づくり総合支援交付金などの補助金などで資金を集めました。
「碾茶工場を建てた土地は、元は自治体のグラウンドでした。実は、グラウンドの次の用途は既に決まっていたんですが、「わっかもんががんばろうとしよってるから協力せんまね(若い人が頑張ろうとしてるから協力しないとね)」と言っていただいて、碾茶工場を建てられることになったんです」

工場が無事に完成してからも、試行錯誤の連続です。FORTHEESの碾茶工場は西九州初だったため、「相談できる相手がいなくて大変だった」と福田さんは当時を振り返ります。
幸い、この一年前に福田さんが全国青年団の団長を務めた際、碾茶工場の知識がある京都の青年団の方と知り合っていました。どうしてもわからないことはその方に電話で尋ねたり、全国からサンプルを取り寄せて自社製品と見比べたりと、たゆまぬ努力を続けました。ようやく納得がいくものが作れたのは、工場稼働から3~4年後だそうです。
コロナ禍に見舞われながらも粘り強く拡販
工場が稼働したばかりの令和元年、自社製品を持ってアメリカの展示会に参加すると、さっそく問い合わせが来て取引につながりました。確かな手ごたえを感じていた矢先、タイミング悪くコロナ禍が訪れます。
「海外での拡販がぴたっと止まってしまい、大変でした。安売りはしたくなかったので、碾茶の製造量を前年の七割に抑えて、代わりに玉緑茶を増やしましたが……」
幸い、コロナ禍が収まった現在では、FORTHEESの海外での拡販は順調です。特に、初めての展示会で決まった取引先とは現在も続いており、最初は数十キロだった受注量が数トンにまで拡大しました。「まるで宝くじに当たったような幸運です。とても良い出会いができました」
海外だけでなく地元でも、FORTHEESは積極的に自社の碾茶(抹茶)を広めています。「飛び込みでお店に行って、「これ使ってくれませんか」って、いきなり交渉していました。「それなら使ってみようか」って言ってくださる方もいるんですよね」

そんな地道な努力が実り、今では、FORTHEESのお茶を使っている県内外のお店や会社は100以上にも上るそうです。
「西九州初の碾茶工場という話題性があったので、取材はかなり来ました。認知度を上げるために、どんなに忙しくてもメディア出演は断らないように気を付けていました。そうやって名前を広めることが、うちの抹茶を広めることにもつながったと思っています」
そのぎ茶を地元で味わえる場所を増やしたい!
今年の2月から、FORTHEESは工場に隣接した抹茶カフェ「ちゃいむ」を始めました。抹茶ラテやジェラート、白玉抹茶ぜんざいなどのスイーツを提供し、土日のみの営業ですが、いつも多くのお客様でにぎわっています。
「東彼杵町は昔ながらのお茶の産地ですが、カフェのようにお茶を飲める場所が少ないんです。地元の方はもちろん、観光で訪れる方にも、気軽にそのぎ茶を楽しめる場所を提供したい。そんな気持ちでカフェを開設しました」
FORTHEESは、地元のお店と共同で商品開発を行ってきた経験があり、そのノウハウも生きています。「どんなお茶が抹茶ラテに合うのか、開発の過程で色々試したんですが、最終的に「一番美味しいお茶が抹茶ラテにしても美味しい」という当たり前の結論になりました(笑)」

観光に力を入れて、そのぎ茶を届けたい
邁進を続けるFORTHEESは観光業にも乗り出しています。東彼杵町では、緑茶(グリーンティー)と観光(ツーリズム)を組み合わせた体験型観光「グリーンティーリズム」を展開しており、FORTHEESもその流れを支える団体の一つです。
「工場見学とかお茶摘み体験とか、様々な計画があります。あと、「お茶の入れ方教室を開いてほしい」という要望も多くて、それにも今後チャレンジしていきたいですね」
FORTHEESでは「そのぎ茶を軸としたツーリズムの立ち上げ」に参画するスタッフを地域おこし協力隊として、今年の初めに募集しました。採用した方は今夏からFORTHEESに入る予定で、観光業にますます熱が入ります。
農業利益創造研究所でインタビューさせていただく農家の方々は、「地域を盛り上げたい」という熱意を抱いている方々が非常に多い印象です。福田さんも例外ではなく、そのぎ茶の魅力を多くの方に伝えたい、それによって東彼杵町を盛り上げたい、という強い情熱を持っていました。
最後に、福田さんに改めて今後の目標を尋ねてみると、「楽しくやること」という意外な返事が返ってきました。「朝から晩までお茶にどっぷりなんですけど、毎日を楽しく過ごす、それが一番大切にしていることですね」
福田さんの息子さんは来年から就農予定で、将来は後を継ぐという話も決まっているそうです。様々なアイディアで溢れている福田さんは、様々な方と力を合わせて、次々に夢を形にしている方という印象でした。

「実は、温泉を作りたいという夢もあるんですけど、FORTHEESの他三人にはなぜか止められてるんですよ(笑)」と冗談めかして語っていた福田さんは、インタビューの間も終始楽しそうで、「毎日楽しく過ごす」という目標を、まさに体現されている方でした。
福田さんはお茶の将来を憂いながらも行動を続け、FORTHEESの仲間たちと一緒に碾茶工場を立ち上げ、海外進出にも乗り出し、さらなる挑戦を続けています。今後の東彼杵町からもそのぎ茶からも目が離せません。九州を訪れる機会があれば、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。
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