農業利益創造研究所

収入・所得

データで分かった! 所得1,000万円を目指すならこんな経営

個人情報を除いた2020年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家16,590人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

人生はお金ではない、という考えの方も少なくないと思いますが、たくさんお金を稼いで経済的に豊かな暮らしを目指すのもまた一つの生き方です。「高年収を目指すにはどうしたら?」は、あらゆる方の関心ごとでしょう。

なお、今回は収入から経費を除いた「所得」にフォーカスして、分析を行っています。そのため、より実際の利益に近い形となっています。

厚生労働省「2019年国民生活基礎調査の概況」によると、世帯所得の平均は552万3千円。所得1,000~1,200万円の世帯割合は全体の5%です。

農業事業者が、この全体の5%に入るには?が今回のテーマです。その所得実現のためには売上がこれくらい必要、そのためには何の作目をどれくらい作っていくらで売る、など綿密な計画を立てて、個人事業でも所得1,000万になるような経営を実践する必要があります。

農業法人化して従業員を雇い、大規模農業を行って所得をあげる方法も一つのやり方ですし、個人事業の方が従業員を雇うという責任や、大きな借金の不安が無く、伸び伸び経営できる側面はあるでしょう。

それでは実際に、所得1,000万円の経営を行っている個人事業農家はどれくらいいるのでしょうか?

所得1,000万円の農家はどんな経営?

簿記データを分析してみると、北海道の世帯農業所得(控除前所得+専従者給与)の平均は1,000万円です。また、全農家の約1割が所得約1,000万円であるという結果が出ています。

世帯農業所得が1,000~1,500万円の経営体数と割合
経営類型普通作露地野菜施設園芸果樹酪農肉用牛
経営体数30856841768142
その作目全件を100とした割合11.2%10.8%5.2%6.5%20.7%8.9%

所得1,000万円の農家の経営は、農産物の売上、コスト、現金預金、固定資産、借入金額がどれくらいなのか、データから分析してみました。なお、分析には所得1,000万円~1,500万円の農家の平均値データを使用しています。そのため、所得の平均値は1,200万円となっています。

世帯農業所得 約1,000万円の平均的経営内容(金額単位:万円)
普通作露地野菜施設園芸果樹酪農肉用牛
世帯農業所得1,2001,2001,2001,2001,2001,200
世帯農業所得率33%30.3%36.5%42.8%16.8%20.4%
収入金額3,6004,0003,2002,8007,1005,800
  うち雑収入(1,000)(800)(280)(170)(730)(890)
生産原価1,7001,8001,2008904,6003,700
うち素畜費(3)(11)(11)(11)(200)(1,300)
うち肥料費(240)(260)(100)(80)(97)(60)
うち飼料費(5)(6)(3)(1)(2,600)(1,300)
うち農薬衛生費(190)(190)(70)(130)(230)(150)
うち雇人費(66)(170)(110)(160)(150)(140)
うち減価償却費(400)(290)(180)(160)(860)(480)
うち地代賃借料(250)(220)(53)(32)(200)(120)
販売管理費8001,0008607001,200850
専従者給与400510530440400250
専従者数 (人) 2.02.32.42.31.91.5
現金預金2,0002,4001,5001,3001,6002,500
土地3,1002,2004,5005001,1001,000
建物・構築物1,0001,1003906001,2001,000
農機具等1,2001,2005403101,200730
借入金1,8001,4001603501,6002,400

例えば、普通作の所得1,200万円の経営体は、収入が3,600万円、うち雑収入が1,000万円ですから、農産物の販売金額は2,600万円という計算になります。

水稲経営のみと仮定した場合、米1俵1万円、10a当り10俵の収穫だとすると、この売上を達成するには水稲を26ha作付けなければなりません。個人事業にとって26haとはかなりの規模であり、利益を出すにはある程度の大規模化が必要なようです。

専従者は2人ですから、事業主+妻+後継者、もしくは事業主+父+母+妻、という構成でしょうか。雇人費が66万円ですから、非正規で人を雇っているケースが多いと考えられます。

固定資産は5,000万円、借入金は1,800万円ですが、現金預金が2,000万円のため、経営の安全性は高いと言えます。

みなさんも、ご自分と同じ経営類型のところを見て、ご自身の金額と比べてみてください。

ちなみに、所得の高い、1,500万円以上の経営の収入金額はどれくらいなのでしょうか。

営農類型別 世帯農業所得1,500万円以上の収入金額(単位:万円)
世帯農業所得1500~2000万円未満2000~3000万円未満3000万円以上
普通作4,5005,5007,600
露地野菜5,3006,5008,900
施設園芸4,0005,100
果樹3,5004,600
酪農9,00011,70028,000
肉用牛7,90011,70016,400

たとえば畜産経営の場合、所得が1,500万円以上の農家では収入は1億円近くになります。個人事業としては、非常に大きな金額です。所得が3,000万円くらいになると、個人事業として事業所得税がかなりかかりますので、法人化も視野に入れた方が良いかもしれません。

まとめ

個人事業農家で所得1,000万円を目指す方は、1,000万円経営のイメージをつかむ参考になったでしょうか。

経営を継続していくには、必ず利益(所得)が必要です。利益とは自分や家族、お客様、世の中を幸せにした結果であり、1,000万円の利益が出るということは、それだけ世の中にたくさん貢献したことを意味します。

成功とはお金が儲かったという一瞬のものではなく、周りの人を継続的に豊かにしていく「過程」であると考えると良いかもしれないですね。

関連リンク

厚生労働省「2019年国民生活基礎調査の概況

南石教授のコメント

都会の多くのサラリーマンと違って、農家の多くは高額な宅地購入の必要はありません。長時間の通勤もないし、自分の判断で仕事が進められる自由もあります。生活の質や豊かさという視点が重視され、都会生まれの人からも農家が注目されています。

今回の分析は、経済面でも都会の高収入のサラリーマン並みの所得を得ている裕福な農家の一端を示しています。営農類型によって農業所得率には2倍以上の開きがありますが、概ね収入の2~4割が所得になることが分かります。営農類型によって、農作業の内容も農作物の販売の仕方も全く異なりますが、高所得農家を目指す人には参考になります。

農業所得率が最も高い果樹と最も低い酪農は、働き方も対極的です。自分にあった仕事ができるという意味でも、高所得農家から、人生の楽園的な農家まで、農業は多様性に満ちています。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

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