
個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
全国的に農家数が減少していて、キノコ栽培農家も減少しています。しかし、小規模で始めることができ、コストがさほどかからず、高齢者や女性が働きやすい「キノコ栽培」は新規事業として注目されています。それでは、キノコ栽培経営はどれくらいの農業所得があるのか、農業簿記データを分析してみました。
キノコの生産量は
まず、全国のキノコの生産量の推移を見てみましょう。農林水産省の資料によると、2022年の食用きのこ類の生産量は46万トンで、前年に比べ1,131トン(0.2%)減少したそうです。
下のグラフのように、生産量No.1のえのきたけは12万6,321tで前年から2.5%減、しいたけも減少していますが、ぶなしめじは12万2,840tで2.8%増、まいたけも増加しています。
えのき、ぶなしめじ、まいたけなどは菌床栽培(オガクズなどに栄養源を混ぜた人工の培地で栽培する方法)が主流であり、大手企業で量産されることが多く、長野県のホクト株式会社や新潟県の株式会社雪国まいたけ、が有名です。そして、シイタケ、ナメコ、マツタケは個人農家で栽培されることが多いとのことです。
キノコ農家の経営内容は
2022年農業簿記ユーザーのキノコ農家53件のデータを分析し、全国の野菜農家平均と比べてみました。
キノコ農家の世帯農業所得の平均は289万円でした。野菜農家平均は611万円ですからキノコ農家は意外と所得が低い、ということがわかりました。
しかし、中には所得1,000万円の農家が数件ありましたので、方法次第では高所得が得られることは確かです。ちなみにこの高所得経営が栽培しているキノコは、ナメコやブナシメジでした。
| 野菜農家平均 | キノコ農家平均 | |
|---|---|---|
| 経営体数 | 4,452 | 53 |
| 収入金額 | 23,113 | 22,337 |
| うち雑収入 | 3,297 | 2,417 |
| 経営費計 | 16,999 | 19,448 |
| 種苗費 | 903 | 2,002 |
| 肥料費 | 1,469 | 304 |
| 諸材料費 | 1,081 | 1,867 |
| 動力光熱費 | 1,235 | 2,994 |
| 減価償却費 | 1,894 | 1,891 |
| 雇人費 | 1,240 | 2,109 |
| 荷造運賃手数料 | 3,376 | 3,092 |
| 世帯農業所得 | 6,114 | 2,890 |
| 世帯農業所得率 | 26.5% | 12.9% |
| 建物・農機具 固定資産額 | 10,065 | 9,733 |
| 借入金 | 6,170 | 4,492 |
※金額の単位は千円。
もう少し内容を掘り下げて見てみると、収入金額は2,200万円で、種苗費(キノコの場合は菌床だと思われる)がかなり高額で、他に諸材料費、動力光熱費、雇人費の経費が高いです。
近年の燃料費の高騰により動力光熱費が高くなっていると思われますし、キノコの収穫には人手が多くかかるのでしょう。
(ちなみに2022年の動力光熱費は2021年より64万円アップし、世帯農業所得は57万円減少していました)
固定資産額と借入金額は野菜農家平均とさほど変わりありません。この経営内容を見る限り、キノコ栽培は新規就農に適した作目である、と断言できないかもしれません。
高所得率農家の経営内容は
次にキノコ農家平均と、所得率26%以上の高所得率農家の、各費用科目を収入金額で割った費用比率を調べてグラフにしました。高所得率農家は、種苗費と雇人費と荷造運賃手数料が非常に低く、諸材料費は高くなっています。動力光熱費と減価償却費はほぼ同じです。
高所得率の農家の所得は570万円と高額でありながら、収入金額平均は1,700万円と低くどちらかと言うと小規模経営です。そして、栽培しているキノコは、シイタケ、ナメコ、ブナシメジ、エノキであり、特にシイタケ農家が多いことがわかりました。
この分析結果だけで高所得キノコ経営は、小規模なシイタケ栽培経営である、と断定することはできませんが、ぜひ参考にしてみてください。
まとめ
今回の分析ではキノコ経営の農業所得は低めであるという結果でした。しかし、小規模経営であれば工夫次第でそれなりの所得を得ることはできます。
近年、日本の企業では働き方改革により「副業解禁」という動きが広まっています。副業としてキノコ栽培をするのはどうでしょう。
インターネットで「キノコ栽培キット」を検索すると色々な種類のキノコのキットがありますので、それなりの量を栽培して、メルカリで販売するというのもおもしろいです。これからは、大企業から小規模経営、そして家庭まで、多様な形態のキノコ栽培があっても良いかもしれません。
関連リンク
農林水産省「特用林産物生産統計調査」
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、高所得率のキノコ農家は、収入金額平均がキノコ農家の平均より低いにも関わらず所得は高いことが明らかになりました。
これは、栽培方法と販売単価の違いが関係しているかもしれません。例えば、シイタケ栽培には、原木栽培と菌床栽培があります。原木栽培は、原木の切り出しから始まり、多くの手間をかけて、自然に近い環境でシイタケを栽培します。このため、品質の良いシイタケを収穫するするには相当の技術を要しますが、熟練農家ではそれに見合った付加価値が評価され高値での販売が可能になります。
一方、菌床栽培は環境制御のできる室内で計画的な栽培ができますが、原木栽培のような付加価値をつけるのは難しい面があります。このため、室内環境の制御のために光熱水道料を要するにも関わらず、販売価格が原木栽培よりも低くなる傾向があります。
