農業利益創造研究所

作目

激減する葉タバコ農家 その経営状態は?

個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

近年、コロナや資材の高騰そして猛暑など、農業経営にとって厳しい話題が尽きませんが、そんな中でも最も厳しい状況にある作物があります。葉タバコ経営です。

全国たばこ耕作組合中央会によると、葉タバコの生産は2002年の段階で生産量は5万8千トン、販売金額は1,092億円ありましたが、2022年には生産量は9千トン、販売高は172億円となっています。つまり20年で約85%も減少しており、産業としてはほぼ壊滅状態と言えます。言うまでもなくこの理由は、人々の健康意識の高まりと、それに応じた様々な社会規制による需要の減少です。

私、個人も喫煙はしないので、タバコは正直言って好きではありません(笑)。税金が上がろうが、喫煙場所がどんどん限られようが、個人的には全く問題がない、いやどちらかというと歓迎しています。但し、仕事の観点からタバコを考えると、そう簡単に割り切って考えられないことに気づきました。いみじくも農業に携わる仕事をしている身ですから、葉タバコ農家の生活や、それによって支えられている地域経済などの状況を想像してしまうわけです。

では実際、現在の葉タバコ農家の経営状態はどうなっているのでしょうか。非常に興味がわいたので、今回は葉タバコ農家の経営をデータから見ていきます。

安定して一定の所得を上げている葉タバコ経営

以下は、2022年と2021年の葉タバコ農家の経営概要です。2022年の79件平均の世帯農業所得は5,083千円、所得率は29.2%です。この年の青色申告者全体の農業所得は5,548千円で所得率は24.4%ですから、それと比べるとそんなに悪い状況とは言えません。葉タバコ農家の数は減っているものの、現存している個々の経営体は専業でも充分生活はできる水準を保っているようです。

2022年2021年
経営体数7987-8
収入金額合計17,40217,119283
 うち販売金額13,96613,91056
  内 タバコ11,44311,248195
 うち雑収入3,3063,090216
農業経営費12,31811,989330
世帯農業所得5,0835,130-47
世帯農業所得率29.2%30.0%-0.8%

※金額の単位は千円。

しかしここでそれ以上に目を引いたのは安定性です。2021年から、経営数値にほとんど変化がありません。年々喫煙者が減っているわけですから、普通に考えると葉タバコ農家の販売高なども何らかの変化がありそうですが、実際は販売金額が1.7%微増しているだけです。しかしこの安定性こそが、葉タバコ農家の特徴なのでしょう。

葉タバコは、耕作組合等を通じてJT(日本たばこ産業株式会社)が全量買い取る仕組みになっています。単価もJTとの契約で決まるので、時々の相場で左右されることはありません。似たような仕組みは、お茶にもありますが、お茶は買い手が純粋な民間企業であるに対し、タバコは昔専売公社であった巨大なJTが買い手なので、“安定度”が全く違うのでしょう。

もちろん安定しているとはいっても、市場規模が大きく減少しているので、廃業する葉タバコ農家も多いのですが、その場合でも“廃作”助成金を出すなど他の作物には見られない支援をしており、できるだけ“軟着陸”させようとしています。今でさえこうなのですから、昭和の昔はもっと手厚い支援があったのでしょう。

以下は主要費用の構成比(各費用÷収入金額合計×100)です。

ここで特徴的なのは、葉タバコ経営は荷作運賃手数料の割合が2.1と非常に低いということです。野菜経営などは14.6と高く、低い普通作経営でも4.1なので、葉タバコ経営の低さが際立ちます。

2022年2021年
⑨種苗費1.61.8-0.2
⑪肥料費7.57.00.5
⑭農薬・衛生費5.65.8-0.2
⑮諸材料費5.15.5-0.4
⑯修繕費5.25.7-0.6
⑰動力光熱費7.16.11.0
⑳減価償却費10.39.60.7
㉑荷造運賃手数料2.12.3-0.2
㉒雇人費3.73.9-0.2
㉔地代・賃借料5.14.70.3

野菜の市場出荷などは、原則的に出荷にかかる運賃や包装資材などは農家持ちです。ですから消費地の遠い産地の農家は、これらの費用が高くなる傾向にあります。しかし葉タバコはどこの産地であってもJTが運賃や出荷資材を負担してくれます。そう、ここでもJTです。したがって葉タバコ経営は、これらの経費が著しく少なくなるのでしょう。

前年と比較すると、動力光熱費が若干増加した以外、ほとんど変化がないと言えそうです。ここにも葉タバコ経営の安定性が見えます。

稲作との兼営がほとんどをしめる

このように葉タバコ経営はその安定性から、かつては全国各地で作られていました。特に、消費地から遠い中山間地などでは、数少ない安定して収入をもたらす作物として非常に重宝されていたようです。現在、葉タバコ農家が多いのは東北と九州です。以下は葉タバコ経営のデータ多い県別の経営概要です。

これによると、熊本県の葉タバコ農家が、経営規模も所得額(率)も最も高くなっています。熊本県の特徴は、葉タバコの販売高の割合が53.3%と低いことです(葉タバコ販売高÷収入金額合計×100)。つまり熊本県の葉タバコ農家は、分散型の経営をしているようです。

では、第二品目は何かというと、19件中16件が米を作っています。したがってこれに伴うかたちで、経営所得安定対策等の交付金や作業受託収入等で雑収入も多くなっています。

青森県岩手県熊本県
経営体数121019
収入金額合計11,77810,40927,245
 うち販売金額10,1158,685 19,211
  内 葉タバコ8,6548,10814,573
 うち雑収入1,5821,6417,797
農業経営費8,2867,99418,011
世帯農業所得3,4922,4149,234
世帯農業所得率29.6%23.2%33.9%

※金額の単位は千円。

但し、葉タバコ農家が稲作と兼営しているのは、特に熊本に限った話ではなく、全国的な傾向です。データの中でも79件の葉タバコ農家のうち、第二品目以降に米(加工米、飼料米含む)を作っている農家は76件確認でき、規模の違いはあれ、ほとんどの葉タバコ農家は米を作っていると言えます。葉タバコと米は、収穫時期も異なるので作物の組み合わせとして相性がいいのでしょう。そして冬場しっかり休めるというのも同じなので、逆にそれに慣れた葉タバコ農家は、野菜など米以外の作物は作りにくいのかもしれません。

世界では需要が伸びているタバコ

冒頭に述べた通り、国内では非常に速いペースで生産の縮小が進む葉タバコですが、世界に目を向けるとちょっと変わった景色が見えます。あるデータによると、途上国での喫煙者が増えていることなどから、世界の喫煙人口は増えているようです。したがって、葉タバコの生産量も増加しており、特に途上国の中でも中国やインドといった新興国と言われる国々で生産が盛んです。

また先進国でも近年は嗜好の分化が進み、有機栽培や自然栽培のタバコ葉に対する需要も高まっているようです。これも健康志向の高まりの影響なのでしょう(笑)。

その現状に対応するように、実はJTの販売高のうち、国内タバコの販売高は28%なのに対し、海外タバコの販売高は59%となっています(それ以外の販売は医薬品や食料品)。日本産の葉タバコは、品質が良いとの評価もあることから、タバコは世界に目を向ければまだまだ可能性はある分野なのかもしれません。

人とタバコの歴史は古く、「タバコは文化である」とも言われ、さらには「文化は悪徳が高い分、深い」と続ける人もいます。吸わない私には、にわかに理解し難いのですが、酒も同じようなものだと考えると、酒好きの私としては、受け入れざるを得ない気持ちです(笑)。

健康と文化と、そしてそれに携わる人々の生活(経済)と、いろんな観点から物事は見なければならないということなのかもしれません。

南石名誉教授のコメント

今回の分析対象の葉たばこは、古くから作物生産から加工、販売までバリューチェーンがしっかり構築されています。こうした観点からみれば、ぶどうの生産から醸造、販売というバリューチェーンが構築されているワイン産業と似ている面もあります。

ワインもタバコもし好品という共通点がありますが、日本国内のタバコ生産については、歴史的には政府の管理下でバリューチェーンが構築され、現在の日本たばこ産業株式会社(旧・日本専売公社)に引き継がれています。こうした経緯もあり、葉たばこ買取りの量や価格は、葉たばこ審議会に諮問される仕組みとなっており、他の農作物に比較すると安定しています。

これは、かつて、米の買取価格が農林水産省の米価審議会に諮問されていたことを思い出させます。国内の葉たばこ生産全体が縮小していても、このことは必ずしも、経営を継続している葉たばこ農家の経営悪化を意味するわけではありません。

国内市場の需要や農家数が減少する一方で、経営継続する農家は規模拡大を行い所得の維持・拡大を行うことは、米などの他の作物でも同様です。経営環境の変化をチャンスととらえる発想が、他の産業と同様に農業でも求められる時代になっています。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所