農業利益創造研究所

作目

お茶農家は儲かるの? 伝統文化であるお茶の経営内容を探る

個人情報を除いた2021年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家13,300人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

みなさん、お茶は好きですか?
お茶文化の発祥は中国で、日本への伝来は飛鳥時代の遣唐使の派遣により広まったと言われています。そして、室町時代には茶道となり、庶民から将軍様まで様々な人に愛されてきました。

現在では、お茶は急須で入れることは少なくなり、ペットボトルでの消費が増えてきており、伝統あるお茶は時代とともに変化してきたと言えます。そんなお茶を生産している農業簿記ユーザーのお茶農家200件のデータを分析し、経営の特徴を探ってみたいと思います。

お茶の現状

総務省家計調査によると、2007年と2021年のお茶の一世帯当たりの年間支出額は、緑茶5,200円→3,500円、茶飲料が5,800円→7,800円と、急須で入れるお茶が減り、ペットボトルのお茶が増えています

お茶全体の支出額としてはここ17年間減少しておらず、むしろここ3年間は微増しています。理由は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、家にいる時間が増えたり家で食事する機会が増えてお茶を飲むようになった、とのことです。お茶は健康に良いという評判も、その傾向に拍車をかけたようです。

しかし、農林水産省の資料によると、お茶農家も高齢化の流れの中で経営体数が減少し、作付面積も以下の表のように減っています。救いなのは、茶農家1戸当たりの栽培面積は増えており、規模拡大化が進んでいることです。

全国のお茶の作付面積と経営体数の変化
作付面積
(千ha)
経営体数
2005年4937,617件
2020年3812,325件

お茶農家の経営の特徴

お茶農家の所得はどれくらいなのか、工芸作物と野菜の農家の平均とそれぞれ比べてみました。以下の表のように、収入金額も世帯農業所得(控除前農業所得+専従者給与)もほぼ同じ金額となりました。

お茶・工芸作物・野菜農家の比較
お茶工芸作物野菜
収入金額21,24822,87922,626
世帯農業所得6,7086,8426,130
世帯農業所得率31.6%29.9%27.1%
固定資産額7,9538,64510,133
借入金額5,4065,6716,057

※金額の単位は千円

しかし、世帯農業所得率(世帯農業所得÷収入金額)はお茶農家が一番良くて収益性が高く、固定資産額も借入金額も低く、安全性も高いです。この結果を見ると、お茶農家は安定的に儲かる作目であると言えます

所得が高いお茶農家の経営は

次に世帯農業所得別にはどのような経営の特徴があるか、調べてみました。

お茶農家の世帯農業所得別 経営内容
300~
500万円
500~
1,000万円
1,000~
1,500万円
1,500万円
以上
収入金額15,16722,34830,20158,587
減価償却費 比率7.9%7.0%5.2%11.8%
雇人費 比率3.0%3.4%4.5%7.1%
世帯農業所得3,9457,32312,18917,634
世帯農業所得率26.0%32.8%43.3%32.3%

※比率とは収入金額を100とした費用金額の比率
※金額の単位は千円

収入金額が増加すると所得も多くなる傾向が見られます。収入金額を100とした各費用金額の比率を計算したところ、大きな違いが出てきたのが減価償却費と雇人費です。世帯農業所得1,500万円以上という高額所得農家は減価償却費も雇人費も高くなっていて、大規模経営のお茶農家であると推測できます。

お茶摘みは手作業で行うというイメージがありますが、実際は大規模な茶園を持ち、機械による作業を行っている農家が高所得ということになります。

ただ、世帯農業所得率は所得1,000万から1,500万円(収入金額3,000万円)が43.3%と一番高いので、所得率から見ると一番効率が良い経営は、大規模過ぎない経営であるということもわかりました。

お茶の産地別の特徴

農林業センサスによると、2020年のお茶農家数は、静岡県は5,712件、鹿児島県は1,081件、京都府は473件で、上位3県で全国の栽培面積の約7割を占めているそうです。近年では鹿児島がどんどん生産量を増やしていて、農林水産省の2019年作物統計調査では、お茶産出額は静岡県が全国トップの地位を鹿児島県に譲ることになりました。

ただ、生産量では静岡県がトップであり、静岡県のお茶の取引価格が低いということを裏付けています。生産性に差が出る理由は、静岡県は山間部が多く機械化が難しいことと、小規模な製茶会社が多く効率が悪いことであると言われています。

静岡県と鹿児島県と京都府のお茶農家を分析してみました。伝統ある京都府が平均年齢60歳、収入金額トップは鹿児島県、世帯農業所得は静岡県は少ないですが、所得率はトップです。

主要3県のお茶農家平均
静岡県鹿児島県京都府
年齢585660
収入金額17,35926,74722,764
減価償却費1,1812,2131,300
雇人費6731,3921,946
世帯農業所得6,0167,9727,562
世帯農業所得率34.9%29.8%33.2%

※金額の単位は千円

減価償却費や固定資産額、借入金が一番多いのは鹿児島県ですから、やはり大規模化や機械化を進めていることがわかります。ちなみに、農林水産省の調査によると、2021年の乗用型摘採機の導入割合は、静岡県が75%、鹿児島県が97%、京都府が20%、だそうです。

まとめ

お茶は伝統的な飲み物ですが時代の流れとともに変化し、静岡県は急須で入れるお茶、鹿児島県は歴史が浅いので近代的な手法によって茶系飲料への供給、京都府は高級志向という方向性に分かれてきました。

最近では、若者向けにコーヒーメーカー ならぬ挽き立てのお茶を入れてくれる抹茶マシンがはやったり、お茶を飲むだけでなくスイーツに入れたり、消費者ニーズに合わせて変化しています。また、外国人にも人気が出て輸出も増えてきていて、10年前に比べて輸出額は約4倍、輸出量は2.5倍と驚異的な伸びを記録しています。

伝統的な品目であるお茶は、時代とともに変化しながらこれからも受け継がれていくのでしょう。

関連リンク

農林水産省「お茶のページ
農林水産省「茶をめぐる情勢
農林水産省「茶畑から美味しいお茶が届くまで
農林水産省「aff2022年4月号「日本茶の輸出」
農業利益創造研究所「静岡県で何が起こった? 2021年の所得大幅増加の秘密はお茶に!

南石教授のコメント

今回のお茶農家の分析では、世帯農業所得が1000~1500万円規模の世帯農業所得は1,218.9万円で1,500万円以上の所得階層に次いで2番目に高いですが、世帯農業所得率は40.4%であり全所得階層の中で最も高くなっています。一方、世帯農業所得が300~500万円規模では、世帯農業所得は394.8万円、世帯農業所得率は27.9%で、両者とも最も低くなっています。その差は、15.4ポイントもあります。

このことは、所得を増加させたい農家なら、規模を拡大して売上(収入)を増加させることが得策となることを意味しています。この場合には、機械や施設の導入と共に労働力の雇用が必須になります。これにより、減価償却費や雇人費が売上(収入)に占める割合も増加します。

その一方で、売上(収入)に対して世帯農業所得をできるだけ効率的に得るということを目指す場合には、機械や施設の導入を最小限に抑えて、家族労働力を主体にすることが必要になります。これにより、減価償却費や雇人費が売上(収入)に占める割合を低く抑えることはできます。

ただし、機械や施設には「不可分性」という性質があり、生産の規模が小さくても導入には一定の経費を要します。今回の分析から、収入金額が1,500万円や2,000万円程度の減価償却費比率が、3,000万円程度よりも増加しています。このことから、売上(収入)が3,000万円程度の時、売上(収入)の4割以上が農業所得となり、農業所得率が最も高くなることが明らかになりました。経営主が何を目指すかによって、望ましい経営規模や機械・施設導入のあり方も異なってきます。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。