
個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
おしべとめしべの受粉により果実が実ることは皆さん知っていることと思いますが、その受粉は風に任せて行われるだけでなく、むしろ業者から花粉を仕入れて手作業による人口受粉をする場合が多いです。
その花粉の多くは中国から輸入されているのですが、ある病気の発生が中国で確認され、2023年8月に農林水産省は中国産の花粉を輸入禁止としました。
この状況に対応するため、国産の花粉を増産するか、もしくはミツバチによる受粉を推進していかなければならなくなりました。
このニュースを見て、花の受粉を助けてくれたり、蜂蜜を生産してくれるミツバチを飼育している養蜂農家の経営を分析したいと考えました。
農業簿記ユーザーの養蜂農家は10件にも満たないくらい少ないのですが、養蜂農家の経営をのぞいて見ましょう。
養蜂農家の動向
養蜂は畜産として分類されており、日本の畜産農家は減少しているのに対して、農林水産省の資料では、養蜂農家数は下のグラフのように増加しています。
グラフの折れ線グラフは「蜂群数」であり、養蜂における「群」とは、1匹の女王蜂、数百のオス蜂、数万の働き蜂で構成された群れの単位です。
土地利用型農業の経営規模をはかる尺度は作付け面積ですが、養蜂農家の経営規模はこの群数で把握できます。
2023年の一戸当りの蜂群数は20程度と徐々に減っていますので、規模が小さい養蜂農家が増えている、ということになります。
ミツバチは働き者
ここで働き者のミツバチについて勉強しましょう。ミツバチは、女王蜂を中心とした群の中で、蜂それぞれが明確な役割を持ち集団生活しています。
・女王蜂は、卵を産み子孫を増やす役割で、1日2,000個ほど産卵し続けて2~3年生きます。
・働き蜂は、生まれて20日後に巣の掃除や巣作りの内勤を20日間、その後門番や採蜜の外勤を20日間やって、約60日間で死んでしまいます。
・オス蜂は、普段は何もせず女王蜂と交尾するのが仕事ですが、交尾後はすぐ死んでしまうという生涯です。
ミツバチは自分の役割がちゃんとわかっていて、巣箱の位置や花の咲いている場所なども正確に覚えているのですから、本当に賢くて優れた能力をもっているのです。
ミツバチには大きく2つの仕事がありますが、まず一つ目は蜂蜜を作ることです。農林水産省の資料では、2022年の国内の蜂蜜生産量は2,527トン、輸入量は47,276トンであり、国産蜂蜜は全体の5%しかありません。
お米や野菜経営は決められた農地から農産物を生産し、酪農も自分の土地で飼育しますが、蜂は花が咲いている所に自由に行って蜜を集めますから、生産の場を移動することができるということが特徴です。
また、同じエリアの花に対して複数の養蜂農家がバッティングすることが無いように、ミツバチを飼育する際は、法律に基づき「蜜蜂飼育届」の提出が必要だそうです。
新規就農する場合や、花を求めて移動する場合は、いわゆる縄張り争いにならないよう、そのエリアに同業者がいるかどうか注意しなければなりません。
二つ目のミツバチのお仕事は、花粉の交配です。施設栽培では、外からの虫や風による受粉ができないため、人工授粉するかミツバチによる交配を行わなければなりません。
また、リンゴのような屋外で栽培する果樹でも人手による受粉は大変なので、ミツバチを使って受粉を助けてもらいます。
農林水産省の資料では、下のグラフのように花粉交配用ミツバチを使って受粉している品目トップ3は、イチゴ、メロン、スイカです。特にいちごでは、施設栽培面積の約9割で花粉交配用ミツバチを使用しているとのことです。ネットで探すと、2万円から4万円程度で花粉交配用ミツバチが販売されています。
つまり、養蜂農家はこの二つの仕事を活かしていることになります。一戸の養蜂農家が、蜜の生産と花粉交配用ミツバチの販売と2つとも行うケースもありますし、どちらかのみという場合もあるとのことです。
養蜂農家の経営は
次に、農業簿記ユーザの養蜂農家の経営を見てみましょう。データ件数が少ないので参考程度となりますが、傾向はわかるかと思います。
データを大規模経営(群数は300、全国平均は20なのでかなり大きい)と、小規模経営を分けて経営内容を下の表にしてみました。
大規模経営は、収入金額が4,200万円、世帯農業所得は1,500万円ですから、規模が大きいと優良経営になります。小規模経営は、所得が140万円なので兼業農家だと思われます。ミツバチは毎日エサをあげる必要が無いので、副業的に行っているのでしょう。
| 大規模経営 | 小規模経営 | |
|---|---|---|
| 収入金額 | 42,100 | 7,533 |
| 経営費 計 | 29,730 | 6,112 |
| 世帯農業所得 | 14,972 | 1,421 |
| 世帯農業所得率 | 33.5% | 18.5% |
※金額の単位は千円。
次に、養蜂農家の経費構造を調べるために、販売金額を100とした費用比率を、野菜農家の費用比率と比較してみました。下のグラフを見ると、養蜂農家の特徴が見えてきます。
養蜂農家の費用は、
・種苗費用は何もない
・肥料費は何もないが、衛生費は多少必要
・動力光熱と減価償却費は野菜農家より少ないが同じくらい
・雇人費が高額である(蜂蜜の採取は人手が必要)
などの特徴があります。
養蜂農家は、ミツバチは女王蜂が生んでくれるので種苗や素畜の費用が少ないし、自分たちで探した蜜を食べるので肥料や飼料費が少ないのです。つまり初期投資の設備と最初のミツバチを用意し、働いてくれる雇人がいれば、あとは変動費がほとんどかからずに売上をあげることができます。
人件費上昇の影響は多少受けるとしても、資材や燃料費の物価高騰の影響は少ない経営と言えます。
養蜂経営は変動費が少ないので、規模が大きければ大きいほど所得は多くなる、という特徴があることがわかりました。如何にミツバチの微妙な変化に気を付けて、健康管理・巣箱の温度管理など細心の注意を払いじょうずに増やしていくかが重要です。
まとめ
養蜂農家の分析をする中で、ミツバチが人に蜂蜜を提供してくれるだけでなく、野菜や果物の受粉作業においてもひたむきに働いていることがわかり本当に頭が下がります。(人間界ならまさに残業・土日出勤の過重労働ですね)
実は、分析したデータの中に新規就農者がいました。養蜂を最初に行う場合は、巣箱や機材などを用意する初期投資費用がかかりますがそれほど高額ではないですし、その後はほとんど費用がかからないことが養蜂経営の特徴ですから、蜂の飼育技術を習得すれば新規就農しやすいのだと思います。
人口減少に伴い農業の雇用労働者も減ってきて受粉作業が大変になると思われますので、ハチへのニーズも増えて、「ハチの手も借りたい」という時代になっていくのかもしれません。
関連リンク
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、都会に暮らす人は、日ごろあまり目にすることが少ない養蜂を対象にしています。養蜂というと、花畑で蜜を集める蜂のイメージがありますが、実は銀座などの大都会の中心地にも公園や街路樹の花の蜜を集める養蜂も可能です。
一方、山林でも様々な野草や樹木の花の蜜を集める養蜂が成り立ちます。養蜂経営の多くは、管理が容易な西洋蜜蜂を飼育しています。その一方で、野生の日本蜜蜂に巣箱を提供する養蜂もあります。日本ミツバチの蜜は大変高価ですが、安定的な蜜の採取が難しい面があります。
今回の分析でも、「規模が小さい養蜂農家が増えている」傾向が明らかになりましたが、これは、養蜂を本業としてではなくて、趣味や兼業といった位置づけで行っている人が増加していることを示唆しています。その一方で、今回の分析の対象となっている青色申告を行っている養蜂農家のうち、大規模経営は収入金額4,200万円、世帯農業所得は1,500万円になっていますので、ビジネスとしても魅力的な経営といえます。小規模経営でも、所得140万円なので、兼業としては魅力的といえそうです。
青色申告の対象にならない程度の規模で行う趣味の養蜂にも、暮らしを豊かにしてくれるいろいろな魅力があります。こうした多様性が、農業の大きな魅力といえそうです。
