
個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
ソリマチの「みんなの確定申告」が令和6年分申告用からクラウド化されたことにより、「農業簿記」ユーザーの確定申告データを、個人情報を除いた形で統計分析できるようになりました。
確定申告書には様々な情報があり、農業所得以外の収入・所得情報も多々あります。このことから、今回は個人経営農家の「兼業収入」の実態を見てみようと思います。
確定申告データの内容
まず今回使う確定申告データですが、対象データは従来の青色決算書データとほぼ同じ内容です。つまり一定経営規模以上の個人農業経営者で、比較的、経理内容に信頼性があると考えられるデータです。ただしこの確定申告データには、それらのデータに加えJA記帳代行の一部や白色申告者のデータも含まれており、その分データ件数は多くなっています。
全申告者の収入の内訳
以下は全申告データ19,415件の収入金額と割合です。ただし事業収入(一般・農業・不動産)に関しては、各決算書から算出した世帯所得(専従者給与+青色申告特別控除前所得)としています。また、譲渡所得と一時所得は除いてあります。
総収入金額6,848千円のうち5,523千円と最も多い収入が農業所得となっているのは、農業者のデータなので当然でしょうが、逆に、農外収入が19.3%もある点はやや意外です。
農外所得で多いのは公的年金収入7.3%、給与収入7.1%となり、次いで不動産所得2.5%となります。また雑・その他収入については、個人年金収入が多くを占めていると考えられます。
これらは、農業経営者に①高齢者、②勤めとの兼業者、③土地(元農地?)資産を活用している人が一定数いることを示しています。
小規模農家の収入状況
小規模農家は、どのように収入を得ているのでしょうか。以下は農業粗収入(農業青色決算書の収入金額合計)が、200万円未満(779件)、500万円未満(3,355件)、800万円未満(5,901件)の収入内訳です(基礎データとして農業粗収入100万円未満のデータは対象外としています)。
農業粗収入が低くなるに従って世帯農業所得が低くなるのは当然ですが、それに応じて他の収入が増加しており、結果的にいずれの層においても年収300万円前後が維持されています。小規模農家を支えるのは年金収入と給与収入であり、逆に言えば、これらの収入が一定量あることが、小規模農業を継続できる条件といえそうです。非常にリアリティのある結果です。また、農業粗収入200万円未満のグループは不動産所得が農業所得を上回っています。小規模農業をやるには不動産の有効活用も重要な条件になるということでしょう。
なお、農業粗収入200万円未満のグループで、第一品目として最も多いのは主食米でしたが、件数は347件と4割程度です。次いで混合106件、野菜60件という品目が特定できない経営体で、これらは直売所向けの少量多品目野菜を生産している経営体ではないかと思われます。他には柑橘類(49件)ブドウ(18件)と果樹品目が小規模農家として一定数いるのが興味深いところです。
農業粗収入500万円未満のグループになると、主食米は1,104件と3割ほどに落ち込みます。次いで混合、野菜、柑橘類、ブドウという順位は200万のグループと同じです。
以上、小規模兼業農家というと米農家を連想しましたが、実際は直売向けの野菜農家や果樹農家なども一定数いることが分かります。
公的年金受給者の収入状況
高齢者の収入状況はどうなっているでしょうか。以下は公的年金受給者7,953件の所得の内訳です。
国民生活基礎調査(厚労省)の2024年の高齢者世帯(65歳以上)の平均所得は3,148千円で、そのうち公的年金が2,000千円となっています。それと比較すると、確定申告ユーザーの公的年金受給者の収入(所得)は総額で5,995千円ですから、2倍弱ほど大きくなります。元々農業簿記ユーザのデータは、政府統計などよりも高所得者が多い傾向があるのですが、それでも高齢者の収入という観点では、自営業者が相対的に有利なことがうかがえます(もちろん高齢での肉体労働は厳しいと思いますが)。
ただし基礎年金が中心だからか、公的年金収入は1,217千円と低めであり、農業収入が途絶えると収入状況は厳しくなる可能性があります。したがって農業者においても、リタイア後の備えは、サラリーマン同様に必要となるでしょう。
尚、このグループの第一品目は、主食米がトップですが2,153件と3割を下回っています。またイチゴ農家が497件もあることが印象的でした。イチゴ農家は、高齢層も比較的多いようです。
公的年金未受給者の小規模農家の収入状況
次に公的年金を受給していない、つまり65歳未満の小規模農家の収入状況を見てみます。
公的年金収入が無い代わりに給与収入が多くなり、ここでも結果的にどのグループも年収300万円を確保しています。農業粗収入200万円未満に至っては、合計年収が3,705千円となり、給与所得の割合が他のグループより大きくなっています。ここまでなると、給与収入のある農家ではなく、農業もやっているサラリーマンといった方が良いでしょう。いずれにしても、収入総額だけ見ると“兼業も中途半端にやるのが一番良くない”ということなのかもしれません。
「専業農家」の収入構成
最後に、「いわゆる専業農家」の経営規模を確認したいと思います。農業を主な生業としている農家は、どのくらいの収益規模からを指すのでしょうか。
昔の専業農家のニュアンスに最も近い現在の公的分類として「主業農家」がありますが、その定義に「世帯所得のうち農業所得が最も大きい世帯」というものがあります。この定義に従い農業粗収入(収入金額合計)ごとに収入構成をみたところ、世帯農業所得が他の収入・所得より多くなるのは、おおよそ農業粗収入3,500千円以上4,000千円未満の規模からであることが解りました。
ただしこの規模の年収(世帯総所得)は3,112千円なので、生活を考えるとギリギリの規模です。また公的年金収入が26.7%もあるということは年齢的に高いことも想定されます。このことから主業農家の経営規模は、一般に想像される「専業農家」のイメージより、やや小さい可能性があります。
なお、以下の通り、農業所得が年収(世帯総所得)の半分以上になる規模は、おおよそ農業粗収入(収入金額合計)が6,000千円以上7,000千円未満の規模になりました。このあたりになると“専業農家”の感覚に近くなった気がしますが、それでも農業所得は1,774千円ですから、これだけで食べていくには難しい規模です。「農業主体で食っていく」ためには、やはり1千万程度の粗収入規模は必要なのかもしれません。
以上、農業所得以外の兼業収入を見てきましたが、想像以上に農外収入・所得の占める割合が大きいことが確認されました。したがって農家の経営を実務的に考えるうえでは、これらの農外収入の存在も無視できない要素といえるでしょう。
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、様々なタイプの農家の実態が財務面から明らかになりました。興味深い結果がいろいろ得られていますが、そのうちの一つは、農業粗収入(売上高等)が800万円未満の小規模農家の場合には、収入の大小に関わらず、農業所得、年金収入、給与収入等を合わせた農家世帯年収は、概ね300万円前後という結果です。
これは、全国の高齢者世帯(65歳以上)の平均所得(世帯年収)とも同程度ということで、偶然の一致とは思えない結果です。小規模農家の場合には、家庭菜園で野菜を栽培したり、お米を自給している場合も多く、持ち家のため家賃や食費を節約できますが、その一方で自動車や家の維持費などもかかります。
結果的には、小規模農家も、町に暮らす高齢者世帯も、概ね300万円前後の年収が暮らしに必要ということなのかもしれません。
