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都道府県ランキング! 2022年野菜経営の農業所得TOP5

個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

農業所得の都道府県ランキングシリーズを昨年から発表していますが、今年も野菜経営のランキングを調べましたのでご覧ください。

※なお、このランキングはあくまでも『農業簿記』ユーザーの分析結果です。全国の農家全体のランキングとは異なっている可能性がありますので、ご了承ください。

野菜経営の前年比較

野菜農家4,281人の2021年と2022年を地域別に比較した増減率は、以下のグラフのようになりました。

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農産物の販売金額は東北と北陸が少し減少しましたが、全国的に増加しています。コロナ禍と関係あるかどうかはっきりわかりませんが、野菜の消費量が増えたのだと思われます。

しかし、世帯農業所得(農業所得+専従者給与)は全国的に減少しています。これは農業資材や燃料費の価格高騰により、経費が増加したことによる所得減少と言えるでしょう。

特に東北地域は、販売金額が減り経費が増えて、農家一戸当たり平均50万円の所得減少となりました。

収入金額 都道府県TOP5

次に、収入金額を都道府県ごとにランキング集計してみると、以下のような結果になりました。

農家一戸当たりの収入金額平均の1位は北海道(4,825万円)でした。北海道は2021年も1位、そして2位の群馬県と2,411万円の差(2倍です)があり、ダントツの1位です。

では、そんな北海道の農業の特徴は何でしょうか。北海道野菜農家で収入金額が大きいトップ30農家の主幹作物を調べたら、ほとんどがタマネギとジャガイモを生産していました。北海道は広い土地が豊富にあるという事実を合わせると、大型機械を使って効率的な大規模経営を行っているという特徴が浮かび上がってきます。

収入金額
2021年度2022年度
全国平均22,626全国平均23,120
1位 北海道48,1461位 北海道48,250
2位 群馬県25,6492位 群馬県24,138
3位 栃木県22,1163位 長野県23,655
4位 長崎県22,0524位 愛知県23,088
5位 長野県21,9935位 栃木県22,769

※金額の単位は千円。

他の県の主な作目を調べてみると、群馬県は「キャベツ、レタス、キュウリ」、長野県は「ハクサイ、レタス、キノコ」、愛知県は「トマト、イチゴ、キャベツ」、栃木県は「イチゴ、トマト、ホウレンソウ」でした。地域により得意とする野菜があるようです。

世帯農業所得 都道府県TOP5

世帯農業所得では、またもや北海道がダントツの1位であり、1,293万円は驚きの高さです。

第2位が山形県と意外な結果です。山形県といえばさくらんぼや西洋梨の果樹が有名ですが、野菜でも所得を上げている県なのです。

世帯農業所得
2021年度2022年度
全国平均6,130全国平均6,117
1位 北海道12,8081位 北海道12,932
2位 山形県7,3622位 山形県6,723
3位 栃木県6,6503位 栃木県6,493
4位 愛知県6,4394位 愛知県6,210
5位 茨城県6,3995位 千葉県6,149

※金額の単位は千円。

山形県の野菜は何が高所得なのか調べたところメロンでした。メロンは園芸分野では野菜に分類されるのですが、消費者の感覚としては果樹的なフルーツです。山形県はフルーツ王国を目指しているのであろう、ということがわかります。山形県のメロンについては、以前にも記事を掲載したので参考にしてください(記事下参照)。

また、メロンが主幹作物である農家の第2作物はミニトマトでした。この組み合わせが栽培的にやりやすいのか、もしくはやはりフルーツ的な野菜にこだわっているのでしょう。メロンほどではありませんが、トマトも高糖度のものはフルーツトマトと呼ばれるなど、フルーツに似た要素を持っています。

世帯農業所得率 都道府県TOP5

世帯農業所得率(世帯農業所得÷収入金額)を見ると、山形県がまたもや1位になりました。先ほども見た通り、山形県はフルーツ的な野菜で高所得・高効率経営を行っている農家が多いということです。

世帯農業所得率
2021年度2022年度
全国平均27.1%全国平均26.5%
1位 山形県34.8%1位 山形県32.1%
2位 鳥取県33.0%2位 岐阜県31.8%
3位 神奈川県33.0%3位 鳥取県30.2%
4位 島根県30.2%4位 千葉県29.6%
5位 栃木県30.1%5位 島根県29.1%

第2位は岐阜県です。岐阜県の野菜農家は何を作付けているか調べたところ、多い作目は「コマツナ、トマト、ホウレンソウ」でした。

しかも、ほとんどが施設栽培で生産しており、栽培サイクルが早い作目を、時期をずらしながら、付加価値を上げて販売している農家が多いのだと予想されます。 ちなみに他の県では、高所得率の農家の主な作目は、鳥取県は「スイカ」、千葉県は「サツマイモ、ダイコン」でした。

3道県の野菜農家の特徴

収入金額No.1の北海道は、世帯農業所得率のランキングTOP5に入っていません。
それでは、山形県と北海道は何が違うのか、そして岐阜県の特徴も含めて、3道県を収入金額を100とした各費用金額の比率で比較してみました。

2022年度 収入金額を100とした比率の比較
山形県岐阜県北海道全国平均
世帯農業所得32.1%31.8%26.8%26.5%
肥料費4.6%3.8%8.3%6.4%
農薬衛生費2.9%2.2%5.2%4.2%
動力光熱費4.8%4.8%2.9%5.3%
雇人費6.4%7.9%2.1%5.4%
地代賃借料1.8%3.5%8.1%4.0%
荷造運賃手数料8.1%17.6%13.3%14.6%

山形県は荷造運賃手数料が非常に低いです。詳細は不明ですが、運賃を必要とする直接販売が少ないのか、JA等への手数料が低いのか、何かしら理由があると思われます。

岐阜県は肥料と農薬の金額が低くなっています。北海道は大規模面積を農業機械で効率的に作業している関係で、雇人費が少なくなっていますが、地代賃借料が高くなっています。また肥料費の割合が全国平均よりも高くなっているので、肥料高騰の影響を受けているのではないかとも推察されます。このように地域と作目により、経営費構造に違いが出てくることがわかりました。

まとめ

野菜経営の都道府県ランキングを調べましたが、経営規模No.1の北海道と、効率性No.1の山形県は昨年と同様の結果でした。 農業は土地の条件や気象条件に影響を受けるため、簡単には規模拡大や作目の変更はできません。よって、都道府県ランキングも大きな変化はないのだと思われます。

気象と言えば、今年の台風や酷暑は各所で生活や農作物に大きな被害をもたらしました。農林水産省の資料によると、地球温暖化が進んで日本の年平均気温は2081~2100年には1.4~4.5℃上昇すると予測されています。

このままでは適地適作で作付けしている現在の農作物の地域が変わってくるかもしれません。今後も都道府県ランキングから見える農業生産の動向を注視していきましょう。

関連リンク

農林水産省「地球温暖化対策
農業利益創造研究所「山形県のメロンはすごい!? 野菜農家所得率 全国No1の実力

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、野菜作経営を対象に、地域別にみた農業収入、農業所得、農業所得率の関係に着目しました。明らかになった地域別の特徴は、作物による違いが大きく影響していることが明らかになりました。

適地適作という言葉は、地域によって気候、土壌、地形、市場環境等が異なり、栽培に最適な作物が異なることを意味しています。農場のある地域の特徴は何か、栽培に最も適した作物は何かを考えることは、農業経営者の重要な役割になります。

あるいは、どうしても栽培したい作物があるならば、その作物に最も適した地域を探し当て、その地で農業を始めるための戦略を策定することも、農業経営者の重要な役割になります。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。