
個人情報を除いた2020年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家16,590人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
2020年度の野菜農家の世帯農業所得率の都道府県別ランキングは、コラム「都道府県別に野菜農家の所得率ランキングを発表!」として既にお伝えしました。
このコラムで発表された露地野菜の農業所得率第1位は、山形県で44.2%です。野菜農家の農業所得率の全国平均は26.8%、第2位は埼玉県の39.9%なので、いかに山形県が高いかわかります。
皆さんに、山形県の野菜が儲かっている、というイメージはありますか? 一般的に言って、そのイメージはあまりないのではないでしょうか。
東北農政局「野菜の収穫量」によると、山形県の代表的な農産物は、果樹なら西洋梨やさくらんぼ、野菜なら、すいか、枝豆、トマト、メロンだそうです。
山形県のメロン栽培
データを調べてみると、山形県内の野菜農家の中でメロン農家の世帯農業所得は970万円、所得率が46.4%と高く、メロン農家が儲かっているという状況が見えてきました。
こちらも少し意外な結果と言えるのではないでしょうか。メロンと言えば北海道の夕張メロンや、茨城県や熊本県が有名です。山形県はメロン生産量では全国4位ですが、メロン農家の平均所得は高くなっています。
山形県 | 北海道 | 熊本県 | |
---|---|---|---|
世帯農業所得 | 9,699 | 8,321 | 9,414 |
収入金額 | 20,891 | 26,818 | 21,765 |
世帯農業所得率 | 46.4% | 31.0% | 43.3% |
金額単位:千円
山形県のメロンと言えば庄内砂丘地域が有名です。この地域は砂地で水はけが良く、さらに鳥海山からの豊富な水資源があります。メロンは水分が多いと水を吸収して糖度が上がらなくなってしまうので、砂丘地はメロン栽培に非常に適しています。
庄内砂丘メロンの歴史は古く、栽培が始まったのは大正7年で、甘くて高品質なメロンとしてブランディングも確立しています。さらに気候がメロン作りに合っており、施設を使わず露地栽培ができるため、コスト削減が可能です。
山形県は、このようにメロン栽培にとっての好条件をいくつも備えています。ブランドは、非常に有名な「アンデスメロン」だけではなく、オリジナルブランドで青肉の「鶴姫」と赤肉の「鶴姫レッド」も人気だそうです。
メロン農家の世帯農業所得率別経費構造
それでは、山形県のメロン栽培の特徴を、簿記データから具体的に探ってみましょう。
北海道・熊本県・山形県のメロン農家の収入金額や経費を比較してみると、山形県の経費が低いこと、とりわけ荷作運賃手数料が異常に低いことが浮き彫りになってきました。北海道が15.5%、熊本県が16.5%であるのに対し、山形県は0.5%ですから、明らかに有意性がある数字です。
山形県 | 北海道 | 熊本県 | |
---|---|---|---|
収入金額 | 20,891 | 26,818 | 21,765 |
生産原価 | 6,982 | 11,225 | 7,285 |
販売費管理費 | 4,209 | 7,272 | 5,066 |
荷造運賃手数料 | 110 | 4,162 | 3,599 |
生産原価 対 収入金額 率 | 33.4% | 41.9% | 33.5% |
販売費管理費 対 収入金額 率 | 20.1% | 27.1% | 23.3% |
荷造運賃手数料 対 収入金額 率 | 0.5% | 15.5% | 16.5% |
金額単位:千円
この荷造運賃手数料が低いことをどのように分析できるでしょう。運賃が少ないから通販などの直接販売をしていないとも考えられます。
また、JA共販の場合はJA手数料の他に輸送費として運賃をとられますので、JAに出荷していないから運賃がかからず荷造運賃手数料が低くなっている、という可能性もあります。
直接販売が多いからか、少ないからなのか、簿記データからは判断できませんが、事実として荷造運賃手数料が低いのは興味深いところです。
経費の問題を深掘りするため、世帯農業所得率別に、世帯農業所得と動力光熱費と荷造運賃手数料をグラフにしてみました。こうして見ると、所得率が高い農家は、動力光熱費も荷造運賃手数料も低いことがわかります。
動力光熱費は主にハウス栽培にかかる費用ですから、「庄内砂丘では露地でメロンが栽培できてコスト削減になる」という特徴とも見事に一致しています。この2つの経費を上手く抑えることが、山形県のメロン農家が利益創造に成功している理由の一つなのかもしれません。
メロン+何の作目が儲かる?
メロンと他の作目を生産している一つの経営体で分析してみると、メロンの販売金額が経営全体の5割くらいの場合は世帯農業所得率が41%、メロン販売が9割の場合は27%という結果が出ました。つまり、メロンでの単独経営よりも、他の作目と一緒に複合経営した方が儲かる農家が多いということになります。
それでは、メロン+何の作目が一番儲かっているのでしょうか?
花き | ミニトマト | トマト | |
---|---|---|---|
世帯農業所得 | 10,059 | 9,270 | 5,023 |
世帯農業所得率 | 47.0% | 43.6% | 40.1% |
金額単位:千円
世帯農業所得率上位3位の第2作目は、こちらの表の通りとなっています。
日本全国で栽培されているトマト・ミニトマトも強いですが、より上位に来たのは「花き」です。花き栽培といえばハウスのイメージが強いですが、山形県の砂丘地域では雨が少ないという特性を生かし、露地栽培も盛んです。
メロンも雨が少ない土地が向いていますから、似た気候が向いていることから、花きはメロン農家の第2作目として選ばれているのではないでしょうか。花き・ミニトマトを栽培しているメロン農家の平均所得は約1,000万円、所得面から見ても見事な数字です。
まとめ
山形県のメロン農家の所得率は驚きの高さですが、栽培に適した立地、気候を活かして、産地をブランド化しながら運賃手数料を少なくして、効率的に生産しているのだとわかりました。また、ハウスを有効利用しながら第2作目を工夫すると、さらに高所得が見込めます。
メロンは高級品であり付加価値が高い農産物、水の管理が難しく栽培には技術が必要ですが、今はIT化による温室自動制御なども進んでいます。工夫しながら経営すれば所得1,000万円が現実となる作目と言えるでしょう。
関連リンク
東北農政局「野菜の収穫量」
山形県「砂丘、日照、地下水、恵まれた環境で育つ「メロン」」
山形県「山形県花き振興計画」
南石教授のコメント
適地適作や複合経営は農業では常識ですが、これを上手に実践するには、今回のように実際のデータに基づく具体的な分析が必要です。
分析結果をみると、改めて適地適作や複合経営の重要性が理解できます。ある意味コロンブスの卵ですが、実際のデータから得られた興味深い結果です。土壌、水資源、気候風土といった地域資源に適した作目は何か? 農繁期と農閑期を平準化でき、機械や施設が供用できる作目は何か? 市場価格・需要動向からみて将来性のある作目は何か? どのような販路で誰に売れば、手取り所得が多くなるのか? 複雑なパズルの答えを見つけることが、儲かる農家への王道ということが再確認されました。