農業利益創造研究所

収入・所得

雇人費と専従者給与の水準と関係(1)(普通作・野菜経営)

個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

人手不足と言われている現在の日本ですが、農業も例外ではありません。規模を拡大したくても働き手が見つからないという声は、農家から最近よく聞きます。

働き手に来てもらうには、仕事の内容や教育など様々な条件を整える必要がありますが、なんといっても賃金面での条件が一番の課題でしょう。では実際、全国の農家は雇人にどのくらいのお金を支払っているのでしょうか?

そして個人事業主の大きな強みである青色専従者。しかしその給与額は労働市場とは別の基準で設定されるため、逆に専従者の実質的な労働対価(=貢献度)を見えにくくしています。実際、専従者はどのくらい働いてもらえるものなのでしょうか?

今回は、雇人と専従者の水準を各々の関係から見ていきます。

経営類型ごとの異なる雇人費の水準

青色決算書からのデータで分かるのは雇人への支給総額で、雇人の人数はわかりません。ただ、実際の雇人は時給パートが多数をしめており、労働時間も様々なので人数で把握することはあまり意味がないと思われます。

いずれにしても一人当たりの雇人費という形では分かりませんので、「何人雇っているのか」ではなく、「総額でどのくらいの金額を支払っているか」という視点でデータを読まなければなりません。

そして、雇人費は専従者の数や働きに大きく影響を受けます。ですから雇人費の水準は、専従者の数毎に見ていく必要があります。

以下は2022年の経営類型別の専従者数毎の雇人費です。全体を見て不思議なのは、専従者数が増えるに従い雇人費も増加していることです。専従者が多いということは労働力がその分多いので、雇人費は少なくなるはずです。どういうことでしょうか。

これは専従者の数を、経営規模と置き直して考えると理解できます。およそ専従者が多いということはその分規模が大きいということです。規模が大きいので雇人費も増えるのだろうと思います。

したがって経営規模ごとに雇人費を見ないと、実態が掴めません。

作物類型別の雇人費
専従者数0人1人2人3人4人以上全体平均
普通作経営2775136137181,068492
野菜経営8841,1811,3591,5442,1101,240
果樹経営6779051,2011,5472,2331,023
酪農経営1,399 1,5161,0552,2002,0501,529
肉用牛経営4535032671,036427479
花卉経営6691,3891,5852,7242,0811,506

※金額の単位は千円。

また、全体的にみると、普通作経営と肉用牛経営は雇人費がかからないなど、経営類型によっても雇人費の傾向は異なってきますので、経営類型ごとにも細かく状況を見ていく必要があります。

普通作経営

では普通作経営から見ていきます。収入金額合計を経営規模とみて、1千万円ずつの階層に分けてみます(以下同様)。

経営規模(収入金額合計)経営体数
①1千万円未満940
②1~2千万円未満856
③2~3千万円未満576
④3~4千万円未満363
⑤4~5千万円未満184
⑥5~6千万円未満97
⑦6千万円~108
合計3,124

以下が専従者数別の経営規模ごとの雇人費の平均です。普通作経営の方は、自分の経営と比較してみてください。

普通作経営は、他の耕種作物の経営より人手がかかりません。したがって全体的に雇人費は少なめです。

面白いことに、経営規模2千万円未満までは、専従者の数の違いによる雇人費の大きな違いは見られません。少しでも自分を含めた家族の仕事が楽になれば良いという感覚で、人を雇うのでしょうか。雇うというよりは、近所の人と一緒に田植え・稲刈りのイベントをやっているような感覚かもしれず、あまり費用対効果などは考えていないような印象をうけます。

ただ、収入金額合計が4千万円を超える専従者0人や1人の経営体は、大きく雇人費が増加します。つまり本格的に人手が必要になってきている規模と言えそうです。

普通作で4千万円以上の収入規模となると、機械一式とオペレータを1人増やしているとか、園芸や加工などを一定規模手掛けて複合化している可能性が高くなります。そのような経営内容の大きな変化が、普通作経営では概ね収入金額4千万円以上の規模で起きるのかもしれません。

しかし機械化が進んでいる普通作経営の多くは、田植えと稲刈り時の数日間に、ちょっと手伝いが必要というぐらいなのでしょう。

普通作経営の規模別雇人費
専従者数a
0人
b
1人
c
2人
d
3人
e
4人以上
平均
①1千万円未満61961510076
②1~2千万円未満31129917422075277
③2~3千万円未満1,02060934122549513
④3~4千万円未満1,3971,035541496583722
⑤4~5千万円未満3,5362,0598449671371,273
⑥5~6千万円未満1,4171,8669311,6291,354
⑦6千万円~13,0655,7553,1811,8842,2932,824
平均2775136137181,068492

※金額の単位は千円。

次の表は、上記の表から専従者の数によって雇人費がどれだけ変化するかを表したものです(横の差)。これは専従者に雇人の基準で支払った場合の給与額、つまり専従者1人当たりの労働貢献額といってよいでしょう。

これをみると、ほとんどが実際の専従者給与額より下回っています(普通作の専従者一人当たりの給与額平均は1,677千円)。つまり専従者給与は労働実態より高く設定している傾向があると思われます。それどころか、マイナス表示の箇所は専従者がいることが逆効果になっているとも読めます。

これは “戦力”になっていない労働力=名目だけの専従者がいるということでしょう。まあここら辺は、変に突っ込むと税務署が飛んでくるかもしれないので、ここまでにしておきます(笑)。

ようやく収入金額合計4~5千万円未満の規模で百万円以上の差(実質的な専従者効果)が出ています。つまり、この規模の専従者数1名の経営体は、専従者が1名いることで雇人費が1,477千円の雇人費が削減できた(専従者の実質賃金)ということになります。

普通作経営の専従者数の違いによる雇人費の差
専従者の貢献額※11人目
(a-b)
2人目
(b-c)
3人目
(c-d)
4人目
(d-e)
①1千万円未満-35-55
②1~2千万円未満12125-46145
③2~3千万円未満410268117176
④3~4千万円未満36249445-87
⑤4~5千万円未満1,4771,215-123830
⑥5~6千万円未満-449934-698
⑦6千万円~7,3102,5741,297-408

※1)a〜eは専従者数がa=0人、b=1人、c=2人、d=3人、e=4人以上のグループを表す。
※2)金額の単位は千円。

野菜経営

次は野菜経営(4,452件)の雇人費を見てみます。

経営規模(収入金額合計)経営体数
①1千万円未満1,333
②1~2千万円未満1,329
③2~3千万円未満720
④3~4千万円未満364
⑤4~5千万円未満237
⑥5~6千万円未満149
⑦6~7千万円未満104
⑧7~8千万円未満67
⑨8千万円~149
合計4,452

以下の表を見ると、野菜経営は普通作と比べるとより小さい規模から多くの雇人費が発生していることがわかります。やはり園芸作物は人手がかかるのですね。

専従者0人の経営体は、収益規模が2~3千万円になると雇人費が3,368千円と大きくなります。さらに3~4千万円になると雇人費は6,752千円とさらに跳ね上がります。

この規模になると雇人も常時雇用に近い形となり、そのような人材を確保するためには、もしかすると個人経営でも健康保険や年金などの社会保険の負担が発生している可能性もあります。それがこの規模での人件費急増の一因かもしれません。

尚、農水省の「経営形態別経営統計(R3)」によると、農業法人の常時雇用の給与は2,102千円だそうです(常時雇用者への賃金総額16,539千円÷常時雇用者数7.87人)。

野菜経営の規模別雇人費
専従者数a
0人
b
1人
c
2人
d
3人
e
4人以上
平均
①1千万円未満226197951860202
②1~2千万円未満1,318682501426742731
③2~3千万円未満3,3681,9741,2008619091,584
④3~4千万円未満6,7523,4621,8661,4191,4982,274
⑤4~5千万円未満7,6773,8992,4721,9962,2902,754
⑥5~6千万円未満9,5964,4583,2662,7643,3063,517
⑦6~7千万円未満7,1714,7923,2192,5089433,131
⑧7~8千万円未満10,1893,5823,3702,1842,4532,904
⑨8千万円~06,4303,2493,4995,6454,142
平均8841,1811,3591,5442,1101,240

※金額の単位は千円。

上記のデータを元に、専従者数の差による雇人費の差(横の差)を以下の通り算出しました。これは専従者1人分を雇人で賄う時の賃金額と言えます。例えば、専従者0人の経営体が3~4千万円の規模になると、雇人に3,290千円程度の雇人費を支払わなければ、専従者1人目並みの働きを期待できないということです。

これを逆に考えると、3,290千円が野菜経営の専従者(≒常時雇用者)1人の労働貢献度とも言えます。野菜経営全体の一人当たりの平均専従者給与額は1,857千円ですので、収入金額合計3千万円以上から専従者1人目の労働貢献は非常に大きくなると推測できます。

なぜなら他人(雇人)なら300万円以上払わなければならないものが、家族なら200万円弱で済んでいるということだからです。やはり家族ってありがたいですね(笑)。

また、専従者の数が多くなるにつれ、雇人費の差が小さくなっています(表の右に行くほど数値が小さくなる)。つまり、専従者は数が多くなるにつれ労働貢献度が低減していくということで、普通作経営にもみられた現象です。歳をとったおじいちゃん、おばあちゃんに、それほど働くことは期待できないということでしょう。当然ですね。

野菜経営の専従者数の違いによる雇人費の差
専従者の貢献額※11人目
(a-b)
2人目
(b-c)
3人目
(c-d)
4人目
(d-e)
①1千万円未満29102-91
②1~2千万円未満63618175-315
③2~3千万円未満1,393774340-48
④3~4千万円未満3,2901,595447-79
⑤4~5千万円未満3,7781,427476-294
⑥5~6千万円未満5,1391,191502-542
⑦6~7千万円未満2,3791,5737111,565
⑧7~8千万円未満6,6072121,186-268
⑨8千万円~3,182-250-2,147

※1)a〜eは専従者数がa=0人、b=1人、c=2人、d=3人、e=4人以上のグループを表す。
※2)金額の単位は千円。

以下は、経営規模(収入金額合計)の差による雇人費の変化です(縦の差)。収入金額を高めるために必要な雇人費は、専従者の数が多いほど少なくてすむようです。

例えば専従者0人の経営体が1千万円未満から2千万円の収入金額にするためには、1,092千円程度の雇人費が追加でかかっていると推定されます。しかし専従者1人の経営体で同様に収入を増加させようとすると雇人費は485千円、2人の経営体では406千円程度の増加で済むとなっています。なぜ同じ程度の規模を拡大するのに、増加する雇人費が違ってくるでしょうか。

それはおよそ、専従者に“労働力の余剰”があって、それが労働量と雇人費の緩衝材になっているからだと思われます。つまり専従者1人の経営体は、1人目の専従者が追加で発生するはずの雇人費607千円(1,092-485)分まで働いてくれているということです。専従者が2人の経営体は1人目と2人目が686千円(1,092-406)分働いてくれているということです。

またこれは、専従者が1人以上の経営体が収入規模を増やした場合、雇人費の増加幅が概ね500~800千円程度に収まっている箇所が多いことの理由と同じように思われます。つまり規模が大きくなるにつれ、その分専従者の余剰労働力が投下されるので、雇人費が一定に抑えられているということです。

収入金額3~4千万円から4~5千万円になると(⑤-④)、雇人費の増加額が急に低くなります。これは3~4千万円の時点での雇人に余剰労働力があるからではないでしょうか。この規模になると常時雇用が入っている可能性があります。上述した専従者と同様に常時雇用になれば労働力に余裕ができ、1千万円ほどの規模拡大による増加労働量なら、その常時雇用がある程度吸収できるのではないかと思われます。この効果は7千万円未満(⑦)程度まで効いているようにも思われます。

野菜経営の規模の違いによる雇人費の差
専従者数0人1人2人3人4人以上平均
②-①1,092485406240529
③-②2,0501,293699434167853
④-③3,3841,487666558589690
⑤-④925438606577792479
⑥-⑤1,9205597947681,016764
⑦-⑥-2,425335-47-256-2,363-386
⑧-⑦3,017-1,210151-3241,510-227

※①1千万円未満 ②1~2千万円未満 ③2~3千万円未満 ④3~4千万円未満 ⑤4~5千万円未満 ⑥5~6千万円未満 ⑦6~7千万円未満 ⑧7~8千万円未満
※金額の単位は千円。

以上、普通作経営と野菜経営の雇人費と専従者給与の水準と関係を見てきました。果樹経営以降の状況は、次回のコラムで報告させていただきます。

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、個人農業経営における雇人費と専従者給与の水準と関係を分析して、いろいろと興味深い傾向が明らかになりました。

例えば、普通作経営では、「経営内容の大きな変化が、普通作経営では概ね収入金額4千万円以上の規模で起きる」という可能性が示唆されました。

また、野菜経営では、「収入金額が3~4千万円の規模になると雇人も常時雇用に近い形」となる可能性も明らかになりました。 こうした傾向は、売上高5,000万円が農業経営の会社設立(法人化)の目安(畜産を除く)だと、法人農業経営者の多くが言うことを裏付けているように思われます。

主に家族が働く個人経営の経営規模が拡大して、売上高・収入が3,0000万円、4,000万円と増加していくと、家族(専従者)だけでは労働力が不足してきます。5,000万円を超えるような規模拡大を目指す場合には、家族(専従者)でない外部人材の雇用を行う必要がさらに高まります。

外部人材の雇用を考えると、個人経営と比較して会社経営(法人経営)の方が社会的信用や働く人の安定安心といった面で採用が有利になります。今回の分析から、会社設立の目安と言われる売上高規模の背景も見えてきたようです。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所