農業利益創造研究所

収入・所得

節税だってりっぱな利益創造です! 知って得する節税対策

個人情報を除いた2020年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家16,590人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

確定申告の季節が来ると、面倒で憂鬱だ……という農家さんもいらっしゃるかもしれません。ですが、確定申告を賢く利用すれば節税に繋がり、お金が手元に残るということはすなわち利益創造にも繋がります。

たとえば、青色申告特別控除、という制度があります。青色申告を行う際に複式簿記で記帳すると、通常所得から55万円控除され、電子申告または電子帳簿保存を行うと65万円が控除されます。現金主義や簡易簿記の場合は、10万円の控除です。たとえば所得から65万円控除された場合、税率が20%なら支払う税金を13万円節税できます。

実は55万円に減額された控除額が電子申告等で65万円控除になるという制度がスタートしたのは、2020年からです。農家のみなさんは、このお得な制度を選択したのでしょうか? 簿記データから探ってみましょう。

青色申告特別控除65万円利用者の割合

電子申告と電子帳簿保存どちらを選択したかはデータからわかりませんでしたが、以下のように65万:55万:10万の割合が、6:3:1となり、65万円控除を利用している方が多いという結果がわかりました。意外に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、こちらは「農業簿記」のユーザーデータですから、会計ソフトを利用している方は、節税になる制度にも敏感にアンテナを張っている方が多いのかもしれません。

青色申告特別控除額別の農家数と比率
65万円 55万円 10万円
農家数 9,773 4,802 2,017 16,592
比率 58.9% 28.9% 12.2% 100%

作目別に集計すると、65万円控除の利用者は施設園芸栽培や土地利用型農業の農家が多く、逆に畜産農家が低いことがわかりました。酪農・肉用牛・豚・鶏全てにおいて低い数字が出ているので、これは偶然ではなく全体的な傾向だと考えられます。

あくまでもこれは推測ですが、畜産農家は確定申告を税理士に委託している人が多いので、農業簿記データとしては55万円控除という設定にしているが、税理士側で電子申告をする際に65万円控除に修正して申告しているケースもあるかもしれません。

営農類型別 特別控除額の比率
営農類型 65万円 55万円 10万円
普通作 55.3% 34.0% 10.6%
果樹 59.0% 34.5% 6.5%
野菜 54.4% 34.0% 11.6%
特殊施設 65.7% 28.4% 5.9%
酪農 38.3% 43.9% 17.8%
肉用牛 46.4% 40.7% 12.9%
40.0% 43.3% 16.7%
35.0% 60.0% 5.0%
その他・未記入 70.9% 11.6% 17.5%

また、都道府県別に集計し、トップ3と下位3つを調べると以下の通りです。高知県、神奈川県、愛知県においては、4人に3人が65万円特別控除を利用している、という素晴らしい結果です。これはおそらく自治体やJAが電子申告や電子帳簿保存の推進活動を積極的に行ったかどうか、という差ではないかと推測されます。

都道府県別の65万円控除 ランキング
順位 都道府県 65万円 55万円 10万円
1位 高知県 76.1% 20.1% 3.9%
2位 神奈川県 76.0% 14.8% 9.2%
3位 愛知県 75.4% 21.4% 3.2%
45位 青森県 51.2% 32.7% 16.0%
46位 栃木県 45.9% 39.0% 15.1%
47位 北海道 44.5% 27.9% 27.6%

農家の青色専従者給与はどれくらい?

また、青色申告を行っていると、家族が農作業を行って専従者となった場合は専従者給与を必要経費に算入できますから、さらなる節税が可能になります。

2020年度のデータを集計してみると、1農家当り平均200万円の専従者給与額です。人手を必要とするイメージの強い酪農が、専従者給与額が一番高くなっています。しかし、肉牛は専業者給与が低いという意外な結果です。

簿記データの集計では青色専従者の平均人数は1.1人でした。事業主の奥様を専従者にしてるケースが一番多いと思いますが、その専従者への給与額は平均200万円ということになります。あまり額を高くすると税務署に認められないケースがありますので注意が必要ですが、事業全体としての所得が高いと税率も上がりますので、専従者給与を多くして所得を下げて税率も下げるという節税方法もあります。

営農類型別 専従者給与の1農家当り平均額 (単位:千円)
普通作 1,539
稲作単一 2,200
果樹作 1,565
野菜作 2,322
施設園芸 1,719
酪農 3,417
肉用牛 1,298
平均 2,009

農業経営基盤強化準備金の現状は?

認定農業者等が青色申告を行う場合に活用できる「農業経営基盤強化準備金」も、農地等を取得する予定がある場合は節税となります。

ちなみに農業経営基盤強化準備金とは、農林水産省から受けた交付金を、農用地の取得や農業機械・設備への投資のために積み立てて、その積立金を必要経費に算入し課税対象から外すことが出来るという制度です。年間250万円の交付金をもらった場合、通常であれば雑収入となって税金がかかるところです。しかし、この制度によって250万円を積み立てることにより、経費として計上できますので税金がかかりません。

それでは、この制度を活用している農家はどれくらいいるのでしょうか?

集計してみると、297人という割と少ない数となりました。交付金を受ける農家は稲作+麦大豆などの普通作経営で、認定農業者であることが条件(販売金額が1,000万円以上農家を認定農業者と推測)ですので、母数は1,600人と仮定されます。つまり、その中の18.3%しか制度を利用していない、ということになります。

農業経営基盤強化準備金の制度を利用している農家数
青色申告個人農家全体(A) 16,592 件
うち 普通作農家(B) 3,523 件
販売金額1000万円以上(C) 1,621 件
準備金繰入1円以上(D) 297 件
割合(D/C) 18.3 %

認定農業者になるなどの必要手続きが面倒、そもそも必要性を感じていない、などの理由があるのかもしれませんが、この制度も賢く利用すれば節税になります。この制度を利用可能な方は、ぜひ一度検討してみてください。

インボイス制度について

2023年から導入されるインボイス制度をご存知でしょうか。事業者が商品の仕入れや販売をする際に取引先が発行する「適格請求書」がないと、消費税の仕入税額控除ができなくなる仕組みです。

販売金額1,000万円未満の事業者は消費税免税事業者になることができますが、免税事業者は適格請求書を発行できないので、インボイス制度の導入後は、免税業者から仕入れた分は仕入税額控除ができません。

インボイス制度の細かな説明はここでは省略しますが、農業者もインボイス制度に影響を受ける可能性がありますので、今から情報を収集しておく必要があるかもしれません。

このように、様々な税制制度を理解して実践するかどうかで、税金を多く払うか少なくなるかが左右されます。上手く情報に耳を傾けて実践し、資金を留保して経営発展のための投資にお使いください。

南石教授のコメント

農業界では、作物の栽培や家畜の飼養の技術力が注目される傾向があります。

もちろん、こうした技術力は重要ですが、経営発展のためには財務面、経営管理面の工夫や技術も大切です。税制上認められた会計処理により、結果的に節税となり、その分を投資へ回して生産性を向上させたり、労働環境の改善に役立てることは、持続可能な農業経営の実現に重要です。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。