
個人情報を除いた2025年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家20,292人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
コロナ禍で牛乳や牛肉の消費が落ち込み、ウクライナ情勢により飼料価格が高騰し、この3〜4年、畜産経営は試練の時期を迎えていました。
今までも当研究所で酪農経営と肉用牛経営の分析を行ってきましたが、2025年の簿記データ(酪農370件、肉用牛409件)を調査し、畜産経営がどう変化したかを分析しました。
農業所得が赤字経営の推移
まず、畜産経営がどれほど厳しい状況にあったか、青色申告特別控除前の農業所得が赤字である経営体数の推移から見ていきます。
赤字の酪農経営体は、2022年が最高に多く全体の30.3%でした。しかし、その後は持ち直して2025年には9.2%と減少しました。
赤字の肉用牛経営体は、2023年が41.9%と驚くべき数字となり、2025年は24%と下がりましたが、まだまだ高い数字です。
畜産経営では、経営費の約半分を飼料費が占めるため、飼料価格の上昇は経営に大きな影響を及ぼします。
農林水産省の資料によると、飼料費の価格は2022年から上昇し始め、2023年がピーク(2021年の1.5倍)となり、その後徐々に下がってきました。
酪農経営は、2022年の飼料費の高騰で経営に打撃を受けたことはもちろんですが、実は2022年はコロナ禍による外食需要の低迷や学校給食の停止などの影響が続き、在庫過剰を解消するため酪農業界全体で厳しい生乳の生産抑制(減産)が行われました。
飼料価格がピークを迎えた2023年には、国や自治体による各種の飼料高騰対策補てん金・支援金が支給されて落ち着いてきたのです。
肉用牛は、子牛を購入して育てる肥育経営と、子牛を販売する繁殖経営があります。そしてその2つを同時に行っている経営もあります。
肉用牛は、2022年後半から子牛の取引価格が歴史的な暴落を記録し、さらに2023年は飼料価格がピークの年でしたので、肉用牛経営が大打撃を受けました。
2025年の酪農経営はどうなったのか
酪農経営は回復傾向であることはわかりました。具体的な数字で見てみましょう。
表を見ると、収入金額は増加しています。農林水産省の資料によると、生乳の総生産量はさほど増えていませんので、牛乳販売価格が段階的に上がったからだと思われます。
飼料費がやや減少傾向に転じたことで経営費全体の増加が抑えられ、結果として農業所得が増加しました。
農業所得は平均で約1,000万円に達しており、酪農経営は安定性を取り戻してきたと言えます。
| 2023年 | 2024年 | 2025年 | 傾向 | |
|---|---|---|---|---|
| 収入金額 | 73,321 | 74,801 | 76,421 | ↑ 年々増加 |
| 経営費 | 66,305 | 66,858 | 66,532 | - 変化なし |
| 世帯農業所得 | 7,016 | 7,943 | 9,889 | ↑ 年々増加 |
| 世帯農業所得率 | 9.6% | 10.6% | 12.9% | ↑ 年々増加 |
| 収入金額対飼料費比率 | 44.6% | 43.2% | 41.5% | ↓ 年々減少 |
| 子牛や肉用牛の販売額 (2023年を100とした率) |
100.0% | 104.7% | 135.6% | ↑ 2025年上昇 |
※金額の単位は千円。
さらに分析してみると、酪農経営であっても、産んだ子牛を販売したり、乳を出さなくなった牛を肉用に販売しているのですが、その販売金額が増加しており、収入金額の増加に貢献していることがわかりました。
整理すると、
①経営難に直面した影響から、規模(頭数)を拡大するのではなく、1頭あたりの生産効率(平均乳量)を高める方向へ舵を切る農家が増えた、というデータが示されています。
②購入飼料費を減らすために牧草などの自給飼料を増やし、コスト管理に注力した。
③ 子牛や肉の副産物収入が改善したことで、売上のリスク分散のために生乳以外の売上を確保するようになった。
2022年以降の危機を乗り越える過程で、多くの酪農家が「守りの経営」から「筋肉質な経営」への転換を行ってきたのではないかと思います。
2025年の肉用牛経営はどうなったのか
次に肉用牛経営の3年間の推移を見てみましょう。
飼料費が減少しましたが、経営費はさほど大きな変化はありません。しかし、収入金額が2025年に増加したことにより、2025年の農業所得は2023年の2倍に増加しました。
ただ、増加したと言っても、2025年の農業所得は450万円ですから、酪農経営と比べて決して十分と言える所得ではありません。
| 2023年 | 2024年 | 2025年 | 傾向 | |
|---|---|---|---|---|
| 収入金額 | 32,955 | 32,510 | 35,697 | ↑ 2025年増加 |
| 経営費 | 30,780 | 29,566 | 31,193 | ー 変化無し |
| 世帯農業所得 | 2,175 | 2,944 | 4,503 | ↑ 年々増加 |
| 世帯農業所得率 | 6.6% | 9.1% | 12.6% | ↑ 年々増加 |
| 収入金額 対 飼料費 比率 | 34.9% | 32.9% | 31.3% | ↓ 年々減少 |
| 稲作の販売額 (2023年を100とした率) |
100.0% | 161.1% | 232.6% | ↑ 大きく増加 |
※金額の単位は千円。
肉用牛経営も酪農と同じように、肉以外の売上を調べてみると、稲作(米)の売上が増えていることがわかりました。
おそらく、新規に稲作を始めたということではなく、肉用牛売上が減少していく中で、昔から行っていた稲作の作付けを増やしたことと、米の値段が上がったこと、の両方により稲作の販売額が増えたのだと思われます。
それでは、肉用牛経営は今後はさらに回復していくであろうという期待が出てきますが、肉用牛経営特有の特徴から時間がかかると思われます。
なぜなら、状況が改善したからといって飼育頭数を増やしても、出荷できるまでに長い時間を要するためです。肉用牛経営は、過去の投資判断の結果が、時間を経て現れるビジネスモデルです。
酪農は、生乳の量や質が毎日把握できるので、経営の工夫がすばやく結果として見えるため経営改善にスピード感がありますが、肉用牛経営の変化は遅いのです。酪農経営は、いわゆる「短距離走型」であり、肉用牛は「マラソン型」と言えるかもしれません。
まとめ
酪農経営も肉用牛経営も生き物相手の事業ですから、外部環境の変化に素早い対応ができないことが多いです。
よって、日頃から「無駄な贅肉(不良在庫や過剰設備など)」を徹底して削ぎ落とし、コストの最適化を図って「筋肉質の経営」にし、環境変化に強い経営にしていきましょう。そして、収益性の高い体質へと変革し、次の世代の後継者へと経営を確実につないでいきましょう。
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、畜産経営の中でも代表的な大家畜である牛を飼育する酪農経営と肉用牛経営の財務的な特徴が明らかになりました。以前は、酪農は、米作と並んで収益性が高い傾向がありましたが、特にコロナ禍以降は収益性の大きな低下に直面しました。
今回の分析では、酪農に関しては、赤字経営の割合も1割未満まで低下し、世帯農業所得もかなり回復したことが明らかになりました。
その一方で、肉用牛については、赤字経営の割合が依然として1/4という高い水準であり、世帯農業所得も増加傾向にあるとはいえ、酪農経営の1/2未満に留まっていることが明らかになりました。
牛という同じ大家畜を扱う畜産経営でも、財務的な特徴は大きくことなることが確認できます。
