
個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
2024年の農業簿記ソフトのデータが集まり、2023年よりも4,000件増えたデータの統計処理が完了しました。
2023年は肥料や飼料、動力光熱の費用の高騰がピークの年であり農業所得が大きく減少しましたが、2024年の農業経営はどのような結果となったのでしょうか。
すでに当研究所にて、「2024年の農業所得は増えたのか? 2024年の経営ベクトルで検証する」という第一報のコラムを掲載していますが、別の角度から2024年の営農類型別の経営状況はどうだったのか、分析してみたいと思います。
収入金額はどうだったのか
農産物の販売金額は、「生産量×単価」です。その年の生産量の増減により単価も変動し、販売金額が大きく変わってきます。
2024年の販売金額と雑収入を営農類型別にグラフにしてみました。
これからわかることは、「酪農は7千万円という高額の販売金額が必要である」、「果樹経営は意外と小規模である」、「補助金などの雑収入は普通作と畜産が多い」、ということです。
それでは、販売金額と雑収入の、2023年と2024年の差を下のグラフにしましたので見てください。
なんと、普通作の販売金額が500万円もアップしています。2024年のお米の作況指数は101で平年並みとのことですので、米価が上がったということになります。
2024年の夏頃から急にお米の需要が高まりお米の価格が高騰した、いわゆる「令和の米騒動」と言われる状況になり、現在もお米の値段は高いままです。資材の高騰によりコストが高い状況の中で、お米の値段が上がるのは農家にとってはありがたいことです。
他に気づくのは、酪農も販売金額が300万円ほどアップしていること。そして雑収入(補助金等)がすべての営農類型で減少している(特に酪農と工芸作物)ことです。
2023年は肥料や飼料の高騰により、それをカバーする支援金が支給されていましたが、2024年はその支援金が減ったのではないかと思われます。
それから、肉用牛の項目にも気になるところがあります。販売金額は多少の減少のように見えますが、よく調べてみると、肉用牛の販売額は減少していたのに、複合経営として稲作を行っている肉用牛農家の販売金額がアップ(お米が高く売れた)しているため、合計としてこのような結果となっていることがわかりました。
農業所得は増えたのか
一番気になるのは、農業所得が増えたのか減ったのかということです。
営農類型別に、2024年の青色申告特別控除前の農業所得と専従者給与(合わせて世帯農業所得)をグラフにしました。なんと、普通作の世帯農業所得がトップ(860万円)でした。(2023年は酪農が694万円のトップ)
2023年と2024年の差をグラフにしてみると、普通作の農業所得が339万円もアップしています。これは販売金額が500万円もアップしたことによるものです。
その他の営農類型も農業所得がアップしていますが、唯一工芸作物だけがダウンしていました。工芸作物は雑収入の減少が大きく、お茶やタバコや甜菜の収入金額の減少(約360万円)により所得が減ったものと思われます。
経費は減ったのか
次に、資材や光熱費の高騰の影響はどうだったのでしょう。
農林水産省の農業物価指数のデータを見ると、2020年の物価を100とした場合、2023年の肥料費は147.0、農薬費は112.9、飼料費は145.7、光熱動力は126.9という高さでした。それが、2024年には肥料費は137.1、飼料費は140.9であり、わずかながら下がっていました。
経営費の差のグラフを見てください。普通作と果樹は多少上がりましたが、他の営農類型は経費が下がっています。
(調べると、普通作の経費が増えたのは、経営基盤強化準備金の積み立て分が経費として増加したものであり、これは実質的な経費上昇とは言えません)
特に工芸作物は270万円も減少しました。
下のグラフのように、土地利用型営農類型の主要費用の増減を調べてみたところ、肥料費が2023年より下がっており、特に工芸作物は肥料費と農薬費と地代賃借料が減少しました。
整理すると、「資材費は下がり、動力光熱費は変化無し、雇人費も大きな増加は無い、しかし荷造運賃手数料は上昇」という結果です。
世の中の様々な物価高騰に引っ張られる形で運賃や販売手数料などの経費が上がってきたのだと思われます。
では、飼料費高騰で経営が厳しい、と特に言われていた畜産農家はどうだったのでしょうか。 下のグラフは畜産経営の主要費用の増減です。
2023年に高騰した飼料費が、2024年は大幅に減少しました。畜産農家は高い購入飼料を少なくし、自給飼料を活用することによりコストを下げたのではないかと思われます。
まとめ
営農類型別にまとめると、
〇普通作(稲作)は、販売金額(米価)が大幅増加、経費は変わらず、農業所得は大幅に増加(339万円)した
〇野菜と果樹は、販売金額が微増し、農業所得も微増した
〇酪農は、販売金額が大幅増加、しかし雑収入が大きく減少、経費は変わらず、農業所得は多少増加(90万円)した
〇肉用牛は、販売金額は変化無し、経費が減少し、農業所得は多少増加(80万円)した
〇全体的に、雑収入(補助金等)は減少した
2024年の農業経営は、農業資材物価が落ち着いてきて、農産物の単価が上がったことにより販売金額が増えて、農業所得が増えた、と言えます。
一番特徴的なのは、やはり普通作(稲作)経営のお米の単価アップによる農業所得の増加です。
稲作農家の中には2023年の秋にJAに通常価格で売ったから手取りは増えていないよ、という農家もいるかもしれませんが、データで見ると高い価格でお米を販売した農家が多くいて結果的に所得は増えた、ということになります。
お米の価格は、農家には高く、消費者にとっては安く、という形が一番良いわけですから、お米の流通に工夫が必要なのかもしれません。2024年秋の新米からのお米の値段に注目していきましょう。
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、2024年度の営農類型別の農業経営収支の概要が明らかになりました。特筆されるのは、普通作(稲作)の販売金額(米価)が大幅増加し、農業所得が大幅に増加(339万円)したことです。
新聞やTVでは、銘柄米の小売価格高騰に関する多くの関連報道がなされて、今秋の農家の米の販売価格にも注目が集まっています。一般に多くの農産物で、農家の販売価格と小売店での小売価格の間には、2~4倍程度の格差があるといわれています。
農業経営のマーケティングの観点からは、消費者、小売店、レストラン等への直接販売により販売価格を高くでき、消費者、小売店、レストランでは鮮度の良い農産物の価格を抑えて調達できるなど、双方にメリットがあります。
ただし、直接販売に伴う荷造発送や決済等の作業や経費が増加し、クレーム対応等も必要になります。こうした負担増に見合った販売価格の上昇が期待できる農家では、直接販売を含めた販路の拡大が農業所得増加に向けた重要な販売戦略になります。
