農業利益創造研究所

コラム

給料上げてくれ! なんと節税につながるお得なお話し

個人情報を除いた2020年度の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家16,590人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

青色申告最高の節税手段とは?

今回は青色申告者の節税のお話しです。決して労働運動の話ではありませんから事業主の方は安心してください(笑)。

さて、青色申告最大の節税手段をご存知でしょうか?

「青色申告特別控除」? これは最も活用されている青色申告の特典ですが、最大控除額が65万円なので節税効果は限定的です。

「過年度の損失の繰り越し控除」? 場合によっては高額の節税手段になりますが、そのためには過去に大きな赤字を計上している必要があるので、積極的に活用できるものではありません。

「経営基盤強化準備金」を活用すると節税ができると勘違いされている方が結構いますが、これは税負担を繰り延べる効果があるだけで、ほとんどの場合節税効果はありません(経営基盤強化準備金によって農地を購入した場合は節税効果があります)。

では、最大の節税手段は何か? それは「専従者給与」です。

専従者給与とは言わずと知れた同一生計親族への給与です。専従者給与を支払うことで、事業主だけでなく専従者にも所得税の納税義務が生じますが、実際は世帯内で所得を移動させて税負担を分散させているにすぎません。

一方、所得税は累進課税です。累進課税とは所得金額に応じて税率が上がる仕組みで、所得が高い人はそれだけ高い税率が課されます。この専従者給与と所得税の特徴をうまく利用すると、特に高所得世帯には大きな節税効果をもたらします。

というのは、専従者給与をうまく支払うことで世帯内の所得を平準化することができ、そうすることで世帯内に高い税率を課される人がいなくなるので、結果的に世帯単位で節税が図れるからです。

例えば、1,000の所得に10%の税率がかかれば、納税額は100です。しかし同じ1,000の所得を500と500に分け、各々8%の税率にすることができれば、40+40で世帯の納税額は80になるということです。

実際にはこの効果に加え納税者ごとに基礎控除がつくことや、専従者に給与所得控除がつくことなどで、上記の例以上に節税効果が見込めます。いずれにしても一家の大黒柱であっても、一人に所得が集中してしまうのは税務上極めて不利であることはご理解ください。

実際の専従者給与と所得税負担とは

さて、前置きが長くなりました。では実際の農家は自らの所得と比較してどのくらいの専従者給与を払ってどのくらい税金をはらっているのか、2020年のデータから見てみたいと思います。

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こちらのグラフは、世帯農業所得ごとの事業主所得(青色申告特別控除前所得)と専従者給与の支払い状況です。こう見ると世帯農業所得が上がるにつれて専従者給与も上がってはいるものの、事業主所得の上昇に比べると上がりが鈍いと言えます。

この状況が納税額にどのように反映するか、以下のように試算してみました。

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これによると事業主は所得が上がるにつれ“着実に”税率が上がって、世帯農業所得が2,000万円~3,000万円の層では2,350千円の税負担となっています。これに対して専従者は、ほとんどの層が5%に留まっており、グラフの折れ線も平らのように見えます。世帯農業所得が2,000万円~3,000万円の層でようやく10%になっていますが、それでも99千円しか税負担がなく、事業主の約24分の1です。

このように、現状は同一生計内の税負担には極端な不均衡があり、このことが世帯全体の(特に高所得世帯の)過大な税負担に結びついていると考えられます。

専従者給与を工夫すると、どれくらい節税ができる?

では、専従者給与の支払い方によってどの程度節税が図れるのでしょうか。専従者給与を使って所得平準化をした場合とそうでない場合の世帯の税額を比較してみましょう。

以下は世帯農業所得2,000万円~3,000万円の層の、現状の給与実績に基づいた場合(平準化前)と、専従者給与を上げて所得を世帯内で平準化した場合の所得税額と、その比較です(専従者は2名で試算)。

事業主(単位:千円)
平準化前 平準化後
世帯農業所得 23,700 23,700
専従者給与※1 7,416 16,000
事業主所得 16,284 7,700
青色特別控除 650 650
事業所得 15,634 7,050
社会保険控除 1,113 1,113
生命保険控除 77 77
地震保険控除 25 25
扶養控除 682 682
基礎控除 480 480
課税所得 13,257 4,673
税率 33%-1,536 20%-427.5
所得税※2 2,839 507

※1)2名分の専従者給与 ※2)2,332千円の減

専従者(単位:千円)
平準化前 平準化後
給与収入※1 3,708 8,000
給与所得控除 1,182 1,900
生命保険控除 79 79
基礎控除 480 480
課税所得 1,967 5,541
税率 10%-97.5 20%-427.5
所得税 99 681
所得税(2名分)※2 198 1,361

※1)一人当たりの専従者給与 ※2)1,163千円の増

平準化前 平準化後 節税額
事業主所得税 2,839 507 2,332
専従者所得税(2名) 198 1,361 -1,163
世帯合計所得税 3,037 1,869 1,169

このとおり、一人当たりの専従者給与を3,708千円から8,000千円に上げて所得を世帯内で平準化させると、事業主33%、専従者10%だった税率が、共に20%になりました。

これにより専従者の税額は上がりましたが(2名分:198千円→1,361千円)、事業主の税額は大きく落ち込むので(2,839千円→507千円)、結果的に世帯合計で1,169千円の所得税が減ったことになります。非常に大きな節税効果です。

まとめ

農業者の中には「専従者の給与は103万円以上にすると税金がかかるから駄目だ」と“固定的”に考えている人が少なくないためか、または給与を支払った後の家計負担の調整が面倒と感じているからなのか、世帯農業所得が上がってもなかなか専従者給与を上げようとしない方が多いようです。

しかしそれが過剰な税負担を招いているなら、やはりここは経営改善の一環として早々に見直しを検討するべきではないでしょうか。(ただ、あまり仕事をしてないのに高額な給与額を支払うと税務署から調査を受けた時に指摘される場合もあるようですから、注意は必要です)

そしてまた世帯農業所得が高くなるという事は、専従者の貢献も大きかったわけでしょうから、専従者の方も、自分の役割や仕事の成果にもっと自信を持ち、上記の世帯全体の節税効果の観点と併せ、堂々と事業主に訴えていくべきなのだと思います。「給料上げてくれ!」と(笑)。

南石教授のコメント

会社においても、従業員の給与や経営者の役員報酬を幾らにするかは、経営上の重要事項です。会社の知名度や理念・ビジョンだけでなく、年収や月収は、優秀な従業員を雇用し、従業員のやる気を最大限引き出すためには、とても重要な雇用条件です。個人経営でも、事業主の所得と専従者の給与のバランスは節税のため以外でもとても重要なことです。事業主所得が増加しているのに、専従者の貢献に見合った報酬を支給しない経営は、持続的な発展は期待できないでしょう。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。