
個人情報を除いた2019年度の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:稲作専業農家1,700人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
2020年の農業センサスのデータによると稲作を専業としている農家は全国で55.5%であり多くの農家が水稲を作付けしています。
農林水産省の統計データによると、都道府県別の水稲作付面積の順位では、第一位が新潟県、二位が北海道、三位が秋田県であり、一経営体当たり経営耕地は都府県では2ha、北海道は30haとなっていて北海道の経営規模が大きいことがわかります。
さて、作付面積が多ければ多いほどスケールメリットが出て固定費が分散され、作業も効率化できてコストは下がるといわれています。でも果たして本当でしょうか?
ズバリ! コスト率が低くなる作付面積には2つの谷がある!
統計データを分析すると稲作耕地面積ごとのコスト率(経費合計÷稲作の販売金額)はこのようになりました。(北海道は除きます)
※以下のグラフに示す〇ha~●haのカテゴリーは、〇ha以上●ha未満の集計です。
赤い折れ線グラフがコスト率であり、100%を下回ると売上に対してコストが低い(つまり利益が出ている)、100%を上回ると赤字です。(販売金額に雑収入は含まない)
えっ! 15~20haと、25~30haのあたりのコスト率が谷になっています。規模が大きくなるほどコスト率は下がるだろうと予想していましたが、20haからコストが増えていき、25haあたりでコストが下がり、30ha以上の超大規模農家はコストが上がっていて二つの谷ができています。これはどういうことなのでしょう?
考察
稲作にはトラクター、田植え機、コンバインが必要です。もしかしたら、10haまでは機械は一台ですむが、それ以上になると二台購入することになり、そうすると規模に対するコスト面(減価償却費)で採算が合わなくなる、ということが原因なのかもしれません。
北海道の場合は以下のようになりました。2つの谷ではなく規模が大きくなるごとに全体的にコストは下がっていきますが、25~30haのところで1つの山ができています。(100%以下なので利益は出ていますが)
作付規模別のコンバインの所有台数を分析してみると確かにコスト率が上がる20~25haは台数が1.53台、30~35haは1.83台ということで増えています。
※2010年1月1日以降に取得したコンバインのみ集計。
コスト率が規模によって山にならないようにすることが利益を出すためのコツなのかもしれません。
南石教授のコメント
トラクター、田植え機、コンバインなどの農業機械一台で作業できる水稲栽培面積には限界があります。
耕起、田植え、収穫できる面積は、圃場の立地、区画、団地化の程度や、作業の方法などでも変わってきます。
1台の作業限界面積は、多くの地域(北海道除く)で概ね20ha~30haと考えられています。
この面積規模では、農業機械の稼働率が最大になるのでコスト率が低下します。
経営規模の拡大は売上向上には重要ですが、利益創造には適正規模で付加価値の向上を目指すのも、重要な戦略です。