農業利益創造研究所

収入・所得

専従者と雇人、どっちが経営的にお得?

個人情報を除いた2021年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家13,300人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

現代の農業は機械化が進んでいるとはいえ、まだまだ人手を必要としています。労働力をどれだけ確保できるかで、経営の規模や伸びも大きく変わってきます。そう考えると配偶者や親や子を労働力として“調達”できる家族経営は何かと有利に思えます。

しかし家族経営は良い面ばかりではありません。その一つは、職場が家庭の延長線上にあるので、その切り分けが難しいところだと思います。家庭の問題が仕事に波及する(もしくはその逆)ということが結構あり、一度トラブルが発生するとなかなか心休まる時もありません。

そういうこともあってか、最近は配偶者(多くは妻)がいても専従者にはせず、外から人を雇うケースもあるようです。農家本人(多くは夫)が言うには「その方が気楽」とのことです(笑)。

確かに農家によっては、外の人にお金を支払って存分に働いてもらった方が、気持ちの面で楽なこともあるかもしれません。しかし経営的にはどうなのでしょうか。今回は2021年のデータから、専従者と雇人の経営への影響を考えています。

専従者のみの経営体

まず専従者から見てみます。以下は雇人費が0円の青色申告経営体の専従者の人数ごとの経営概要です。

専従者が増えると収益だけでなく確実に所得(青色申告特別控除前所得=世帯農業所得-専従者給与)も増加することがわかります。平均すると専従者1名の増加につき、販売金額で6,433千円、収入金額で8,294千円、所得は1,102千円の増加となります。

①雇人費0円
専従者0人
②雇人費0円
専従者1人
③雇人費0円
専従者2人
④雇人費0円
専従者3人
件数1,7891,668655266
販売金額5,43412,05018,04124,732
収入金額合計7,67215,90423,68432,554
青申控除前所得1,3052,7853,5144,610
②-①③-②④-③平均
販売金額6,6165,9916,6916,433
収入金額合計8,2327,7798,8718,294
青申控除前所得1,4807301,0961,102

※金額の単位は千円。

青色申告経営体13,273件の一人当たりの平均専従者給与額は1,753千円ですので、専従者1名につきその給与額の3~4倍以上の収益を得ることができ、事業主の所得では100万円以上あがることになります。やはり家族の力は経営にも大きなプラスとなるようです。

雇人のみの経営体

次に雇人を見てみます。雇人は決算書からは正確な人数が解らないので、1人当たりの専従者給与額1,753千円から逆算して、年間雇人費1,500~2,000千円の範囲(時給1,000円、1日8時間、年間220日程度を想定)を1名として考えました。

これによると、雇人1人当たり平均の増加額は、販売金額で5,651千円、収入金額合計で6,129千円、また青色申告特別控除前所得は597千円と、いずれも専従者の増加額よりも小さくなっています。

これは雇人3人の経営体(④雇人費4,500~6,000千円)の収益と所得が低いことが大きく影響しているからでしょう。そして雇人2人の経営体(③雇人費3,000~4,000千円)は、専従者1人の経営体よりも収益はかなり伸びていますが、所得は650千円のマイナスとなっています。

雇人のみの経営体のデータは専従者のみのデータと比べると非常に少なく、また人数も推定でしかないため、このデータがどの程度実態を反映しているかには議論の余地はありますが、とりあえずこの結果をそのまま受け取ると以下のようなことが言えそうです。

それは、雇人は専従者よりも収益拡大に貢献する可能性はあるが、不作や価格が落ち込んだ年は「調整」がしにくいため、所得のマイナス要因にもなり得るということ。そして経営規模(雇人の数)が大きくなるにつれ、その収益拡大効果も薄れるということでしょうか。

①専従者0人
雇人費0円
②専従者0人
雇人費1,500
~2,000千円
③専従者0人
雇人費3,000
~4,000千円
④専従者0人
雇人費4,500~
6,000千円
件数1,7891047152
販売金額5,43412,64722,31822,386
収入金額合計7,67216,29226,70526,058
青申控除前所得1,3052,7762,1263,098
②-①③-②④-③平均
販売金額7,2139,671695,651
収入金額合計8,62010,413-6466,129
青申控除前所得1,471-650972597

※金額の単位は千円。

つまり雇人に頼る経営体は、専従者のみの家族経営に比べて、潜在力があるもののリスクも高い傾向があるということなのかもしれません。そうなると経営者は「人の有効な使い方」をより身に付けなければならず、他品目化なり多角化なりのリスクヘッジも必要となります。

経営類型ごとの1名の労働力影響

最後に経営類型ごとの、労働力プラス1人目の経営概要です。一番上が「専従者1名」の経営体で、次いで「雇人1名」の経営体となります。三段目は「専従者1名の経営体÷雇人1名の経営体」の計算結果で、“1.0”以上が専従者の経営体が大きいことになります。

専従者1名 雇人0名
販売金額収入金額合計控除前所得
普通作8,90215,4962,633
野菜9,80912,2022,579
果樹7,0237,9882,208
酪農33,29538,1723,903
肉牛25,37029,8243,579
花き7,4829,6462,205

※金額の単位は千円。

専従者0名 雇人1名
販売金額収入金額合計控除前所得
普通作14,70820,9022,862
野菜11,13813,3792,083
果樹9,64911,1922,417
酪農32,73838,3024,786
肉牛13,30416,7742,179
花き10,74018,4226,521

※金額の単位は千円。

専従者1名の経営体÷雇人1名の経営体
販売金額収入金額合計控除前所得
普通作0.610.740.92
野菜0.880.911.24
果樹0.730.710.91
酪農1.021.000.82
肉牛1.911.781.64
花き0.700.520.34

青色申告全体で見ると、専従者1名と雇人1名の経営体はあまり大きな違いはありませんでしたが、経営類型ごとに見ると、両者には随分差があります。

労働力プラス1名の規模では概して雇人のみの経営体の方が優位であり、専従者のみの経営体は畜産経営で成績が良いようです。慣れた家族の方が牛は安心するからでしょうか?(笑)。ここら辺を深堀すると、面白結果が出るかもしれません。

繰り返すようですが、今回のデータからでは雇人の正確な人数が解らず、あくまで推定値です。また雇人のみの経営体は、データが少なく統計上の妥当性にも課題があります。そのうえで今回のデータを見て思うことは、個人経営でも家族労働を基本に考える必要はなく、かえって外部の労働力を入れた方が効果的な場合もあるということです。

昔の「農家の嫁」は、労働力としても“期待”されていた存在でしたが、現在それは経営的にみても必ずしも正解ではない、と言うことなのかもしれません。

もしそうであるならば、農村部においても個人(多くは女性)がより自由になれるということで、それはそれで非常に好ましいことではないでしょうか。事業主(多くは男性)も気楽だそうですし(笑)。

南石名誉教授のコメント

生き物(家畜や作物)を育てるには、家族労働力が適しており雇用労働力は不向き、という定説?が、農業界には以前ありました。実際には、家族労働力を前提とする個人経営(農家)が減少し、雇用労働力を前提とする法人経営(農業会社)が増加しています。

家族(専従者)にせよ、社員(雇人)にせよ、その人の熱意や能力が重要ということでしょう。熱意や能力がある社員(雇人)であれば、それが劣る家族(専従者)よりも、家畜の飼育や作物の栽培に優れているというだと思われます。

こうした視点からみれば、今回の分析結果はとても興味深いものです。専従者1名の経営体と雇人1名の経営体の比較からは、家族(専従者)と雇人の熱意や能力が作目によって異なっている、とも読めます。例えば、肉牛経営では専従者の方が熱意や能力が優れており、花卉経営では雇人の方が熱意や能力が優れている傾向があることになります。こうした仮説の検証には、もっと深堀りした分析が必要になります。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所