
個人情報を除いた2021年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家13,300人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
農業簿記ユーザーのデータから、農産物販売以外の雑収入について分析していたところ、ちょっと気になるものを見つけました。それは、太陽光発電による売電収入と、畜産農家による堆肥収入です。
また、地球温暖化対策として炭素を削減する取組みを行った場合、カーボンクレジットを販売して収入になるということも最近話題になっています。
これらは、まさにSDGsの取組みであり、地球にやさしいことを行いながら収入が増えるという、一石二鳥の取組みについて分析してみたいと思います。
農業分野でのカーボンクレジット
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量・除去量を全体でゼロにすることです。その取り組みにおいて重要な要素は、もちろん温室効果ガスの削減です。
それらの取り組みを行う中で、「CO2など温室効果ガスの排出削減量を、主に企業間で売買可能にする仕組み」をカーボンクレジットと言い、それらの売買において、クレジットとして国が認証する制度を「J-クレジット制度」と言います。
農家が温室効果ガス削減の取組みを行い、J-クレジット制度に登録して認証されれば、それに対するクレジットを大企業等へ売却して収入を得ることができます。
今まで農家がJ-クレジット制度の取組みを行うのはハードルが高いと思われていましたが、2023年3月に農林水産省から、「水稲栽培による中干し期間の延長がJ-クレジットとして承認された」というニュースが出て、注目されるようになりました。
水稲の水田から発生するメタンは、土壌に含まれる有機物や、肥料として与えられた有機物から、嫌気性菌であるメタン生成菌の働きにより生成されます。6月~7月頃の落水期間(中干し)を7日間延長することにより、メタン発生量を3割削減できるそうです。
ただし、J-クレジットが承認されて売買に至るまでは少し複雑な手続きが必要です。
まず、「プロジェクト計画書」を作成し、登録申請を行い、審査を受け承認されなければなりません。承認後は、プロジェクト計画に基づき、実際の温室効果ガスの排出削減・吸収量を算定するためのモニタリング(削減量等の計測)を行います。
地球にやさしくかつ収入が増える制度なので何とか実行できると良いのですが、農家一人で行うのは難しいので、JAなども絡んで農家グループで行うと良いかもしれません。

太陽光発電の売電収入
太陽光発電もCO2排出量が減り地球にやさしく、売電収入が得られる取組みです。農林水産省では、 営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)を推進しています。
営農型太陽光発電は、農地に支柱を立てて上部にソーラーパネルを設置するもので、作物の販売収入と売電収入により、安定的な農業経営が期待できる取組みです。農地に営農型太陽光発電設備を設置するには、農地法に基づく一時転用の許可が必要となります。
全国の農業簿記ユーザーの中で、太陽光発電の売電収入を得ている農家はどれくらいいるのか、都道府県別と営農類型別に売電農家の比率を集計してみました。売電収入がある農家は全国で170農家存在し、一農家当り数十万円の農家もあれば、最高で900万円の農家がありました。
都道府県別に見ると、一番多いのは山梨県、次は千葉県、静岡県、長野県、熊本県、愛知県、福島県、と続きます。
実は、太陽光パネルは熱に弱いという特性があるのだそうです。その為、一番日差しが良い夏場よりも春先頃の方が発電量は良くなるとのことで、九州のような温かい所より、山梨県や長野県のような地域の方が暑すぎず、そして標高が高くて太陽に近い分、発電効率が良いとのことです。
次に営農類型別に見ると、第1位は工芸作物、次に花き、酪農、果樹、肉用牛、野菜、普通作、と続きます。
工芸作物の農家をさらに調べると静岡県や鹿児島県のお茶農家が多いです。お茶は、昔から被覆栽培という遮光ネットを張って栽培する方法があるとのことで、ソーラーパネルにより強い日差しを避け、また、春先の霜を防ぐことができるそうです。
果樹は、比較的日陰でも影響が少ないとみられるブルーベリーとキウイフルーツが適しているようで、作物の特性や栽培方法を考慮して営農型太陽光発電を行うことが大事なのだとわかります。
堆肥販売も環境に優しい
近年の肥料資材価格の高騰により、家畜の糞による堆肥が見直されています。この堆肥も化学製品を使わないということで地球温暖化対策につながりますし、ひいては販売などを行うことで畜産農家の収入増加をもたらします 。
畜産農家の青色申告書雑収入の内訳から、堆肥販売している農家を調べたところ、43農家あり、販売金額は数十万円から最高で500万円の農家がいました。これは十分に農業所得を高めてくれる雑収入であると言えます。
まとめ
農業経営におけるちょっと意外で地球にやさしい雑収入である、J-クレジット制度、営農型太陽光発電、堆肥販売について考察しました。
これらの取組みが、農産物生産の効率化につながり、雑収入として農業所得も増え、地球にもやさしい、ということですから言うことなしの制度です。
50年以上前は、温室効果ガス排出削減を売り、農地に太陽光パネルを設置して売電するなど想像もしなかったことでしょう。自然や環境に貢献している農業経営が、さらに地球にやさしい取組みを行うことで、SDGsが実践される世の中になって欲しいですね。
関連リンク
農林水産省「カーボン・オフセット」
農林水産省「「水稲栽培による中干し期間の延長」がJ-クレジットとして承認」
農林水産省「営農型太陽光発電について」
J-クレジット制度
南石名誉教授のコメント
今回の分析では、農業経営における「地球にやさしい雑収入」として、カーボンクレジット(削減量取引、排出権取引など)、太陽光発電、堆肥製造販売を取り上げました。この中で、多くの農家が取り組み易いのは太陽光発電でしょう。
農地、空き地、農舎屋根など農家には太陽光発電パネルを設置できる場所が多くあります。制度上、太陽光発電システムの容量(出力)が10kW未満は住宅用、10kW以上は産業用と区分され、10kW未満の太陽光発電は売電単価も高く手続きも簡単です。蓄電池も設置すれば夜間でも発電した電気が使えますので、地球に優しい上に、リスクマネジメントにも有益といえます。
ちなみに、住宅用(10kW未満、買取期間10年間):売電単価(kWh)は16円(税込)。産業用(買取期間20年間):売電単価(kWh)は10kW以上50kW未満10円(税抜)、50kW以上250kW未満9.5円(税抜)です。
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