農業利益創造研究所

収入・所得

生産コストを分析し、農産物の適性な価格形成について考えてみた!

個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

近年、農業生産資材や飼料、燃料等のコストが高騰していますが、その上昇分をカバーできるだけの農産物の販売価格が上がっていない、という問題があります。

2024年度に、農業政策の大方針を規定する「食料・農業・農村基本法」が改正されますが、この中での1つの論点が、上昇した生産コスト分を農産物価格に転嫁する「適正な価格形成に向けた仕組みの構築」をどのように入れるかという議論です。

それでは、現在の農産物はどれくらいコストが増加しているのか、そして持続可能な農業を行えるだけの所得は得られているのか、2021年と2022年の農業簿記ユーザーのデータを分析し、各営農類型ごとのコストと所得を分析してみました。

農業資材と農産物価格の推移

近年、農業資材はどれくらい高騰してきたのでしょうか。農林水産省の農業物価統計調査の資料から、2020年を100とした資材の価格をグラフにしてみました。

2021年から価格が上昇し始め、2022年にはかなり上昇し、2023年には肥料と飼料はなんと1.4倍、光熱動力費は1.3倍に上がっています。

畜産では売上に対する飼料費の割合は4割という農家もいますので、もし売上5千万円なら飼料費2千万円であり、それが1.4倍になるということは、2,800万円ですから、800万円のコストアップ、つまり農業所得が吹っ飛んでしまうくらいの飼料費のアップなのです。

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それでは、農産物の販売価格はどのように推移しているのでしょうか。花の価格は多少上がっていますが、野菜や果実、生乳はあまり変化はなく、米の価格は下落しています。

鶏卵が2023年に大きく上がっているのは、鳥インフルエンザによる品薄による価格高騰であり、生産コストを反映したものではありません。これを見ると農産物の生産コスト上昇が価格転嫁されていない状況がわかると思います。

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2022年はどれくらいコストが上がったのか

農業簿記ユーザーのデータを営農類型別に分けて、2021年と2022年の費用合計の差を算出しました。普通作農家の肥料費は21万円、動力光熱費は12万円のアップです。野菜農家の経営費計は28万円のアップ。果樹経営はあまり増えていなくて14万円でした。

酪農と肉用牛の飼料費のアップが尋常でないほど上がっています。酪農は447万円ですから本当に赤字農家が多数いると思われます。

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経営継続に必要な所得は確保できているか

専業農家であれば、毎年日本の平均給与並みの所得がなければ経営を継続していくことはできません。農産物売上だけで所得を維持できれば問題無いのですが、経営継続できるだけの所得を確保できているのは、実は共済金や補助金のおかげである、という農家も少なくありません。

もし、これら共済金や補助金がもらえなかったとしたら、現在のコストアップしている経営の本当の利益はどれくらいになるのでしょうか。収入金額から共済・補助金を引いた額から、経営費計を引いた生産利益額をグラフにしてみました。

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普通作は少し赤字、酪農と肉用牛は大幅な赤字、野菜と果樹は黒字だが十分な所得額では無い、という結果でした。

共済・補助金の額はこれくらい

それでは、各営農類型ごとに共済・補助金はどれくらいもらっているのでしょう。下のグラフのように、一戸当たり平均額で、普通作は555万円という高額、酪農も527万円、肉用牛は333万円です。

収入金額に対する補助金の率は、普通作でなんと26%です。如何に米や麦・大豆に補助金をつけているかわかります。

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稲作や畜産は、十分な所得を得られないということもありますが、国の政治的な理由によるところもあり、昔から様々な補助金・交付金が支給されてきたのです。

そういう意味では、農家の所得を確保するには、コストに見合う価格形成なのか、補助金による所得補償なのか、議論が分かれるところです。

まとめ

今回は、営農類型別にコスト計算をしましたが、実際に適正な価格形成を議論するには、作目ごとに正確な生産コストを知る必要があります。(調査は容易ではありませんが)

農産物の価格は需要と供給によって市場価格として決定されます。よって、価格が上がると需要が減ることになり農家は結局販売数量が減ってしまい収入が減るリスクもあります。

さらに、流通・小売事業者は、国内産の価格が高いと輸入農産物を選択し、結局それが日本の食料自給率の低下を招いてしまうかもしれません。

農産物の生産コストに見合った価格転嫁という方法により消費者の生活が困ってしまうほうが良いのか、それとも農家の所得が減った分だけ所得補償という政策をとった方が良いのか、悩ましい所です。

そして、価格転嫁は農家だけに限らず、卸売や小売業者も電力燃料、輸送費、人件費の高騰により価格を上げざるを得ません。食料安保に欠かせない持続可能な農業生産には、消費者理解と国の後押しによる適正な価格形成の実現は必要ですが、慎重な検討が求められます。

関連リンク

農林水産省「農産物・食品の価格形成をめぐる事情
農林水産省 農業物価統計調査

南石名誉教授のコメント

今回の分析から、農畜産物の生産コストや販売価格の動向が、営農類型によってかなり異なることが、明らかになりました。このことからも、一口に農業といっても、作物の種類や畜種によって経営の実態は実に多様であることが再確認できます。

さらに、同じ作物や畜種であっても、実は、経営の実態が全くことなることもあります。例えば、今回の分析では、酪農の飼料費の高騰が顕著にみられました。これは、歴史的な円安の影響もあり、輸入飼料の価格が高騰していることが背景にあります。

輸入飼料を購入している酪農家が多いのは事実ですが、牧草地や山地での放牧を主体としている酪農家では、輸入飼料の価格高騰の直接的影響は受けません。

農畜産物の生産に必要な投入資材やエネルギーの価格変動は、経営を取り巻く経営環境の主要なリスクの一つです。こうした経営環境変化のリスクをどのように予見し、事前の対応策を練っておくかは、経営者の重要な役割といえそうです。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。