農業利益創造研究所

収入・所得

品目ごとの経費率から自分の経営のコストを考える

個人情報を除いた2022年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,500人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

経営を考えるときまず初めに考えることは、どうしたら売上をアップできるかだと思います。これは農業に限らず一般的な事業体も同じでしょう。しかしこれが難しい。というのは、売上は買ってくれる相手がいて初めて成立するものですから、売手側、つまり経営側の都合だけではどうにもならないことが多いからです。

しかし費用はそうでもありません。もちろん、単価などは相手の意思が入りますが、その資材の購入量などは、生産方式を変えるなり代替資材を使うなりで、経営側の判断で決められます。ですから経営的には、売上(収益)よりも費用の方がコントロールしやすいと言われます。費用管理というと地味で、ややもすると後ろ向きなイメージがありますが、経営改善を現実的に考えると、実は売上アップよりも効果が出やすい分野だったりします。

今回はそんな費用面での経営改善の参考にと、品目ごとの主な費用の状況を見ていきたいと思います。

データは2022年のソリマチ農業簿記ユーザのうち、以下の39の対象品目となります(類型平均含む)。品目は各経営体の第一主幹品目毎に分類していますので、当該品目単作のデータではありません。

第一主幹品目経営体数
野菜平均4,452
普通作3,124
果樹平均 1,953
花き平均601
カンキツ類559
トマト554
イチゴ458
ブドウ421
リンゴ349
肉牛286
酪農277
キュウリ254
日本ナシ240
ネギ239
ジャガイモ215
タマネギ214
185
ミニトマト172
ナス145
スイカ131
ブロッコリー123
119
メロン119
アスパラガス113
レタス108
ピーマン98
キャベツ93
甜菜87
ホウレン草83
タバコ80
キク78
ニンジン77
キノコ73
ニラ66
小松菜65
57
34
サクランボ33
バラ33

肥料費率

まず肥料費です。以下は経営品目別に各経営体の肥料費を収入金額合計で割った割合(肥料費÷収入金額合計×100)を表示しています(以下、全ての費用も同様)。農家の方がこの比率を使う場合、まず自分の“収入金額合計”の値にこの割合をかけて基準値を算出します。そしてその基準値が自分の経営の各費用と比べて多いのか少ないのかを確認してください。

(例)普通作経営。収入金額合計20,000千円、肥料費1,900千円のケース。
・基準値=20,000千円×8.7%=1,740千円
・肥料費は、1,900千円>1,740千円 なのでやや過大傾向にある。

第一主幹品目肥料費率
13.6%
甜菜11.2%
ジャガイモ10.3%
キャベツ8.8%
普通作8.7%
ブロッコリー8.5%
ニンジン7.5%
タバコ7.5%
タマネギ7.2%
アスパラガス7.0%
レタス6.7%
野菜平均6.4%
ネギ6.0%
ナス5.5%
ニラ5.4%
キュウリ5.0%
ピーマン4.8%
トマト4.7%
ミニトマト4.6%
メロン4.6%
ホウレン草4.3%
カンキツ類4.2%
4.1%
小松菜4.0%
イチゴ4.0%
バラ3.8%
日本ナシ3.7%
キク3.5%
スイカ3.5%
3.3%
果樹平均3.1%
花き平均3.0%
サクランボ2.8%
2.3%
ブドウ2.3%
リンゴ2.0%
キノコ2.0%
酪農1.3%
肉牛1.1%

肥料費は土地利用型の作物、つまり一定規模以上の耕作面積が必要な露地作物経営や普通作経営で多くなる傾向が確認されます。しかしその中でもお茶経営が最も肥料費の割合が多いというのは少々意外でした。

花き経営と果樹経営では肥料費は少なくなる傾向があります。これは作付け面積が小さいというよりも品目の特徴ではないでしょうか。

農薬衛生費率

経営品目毎の農薬衛生費の比率は以下の通りです。

やはり果樹のリンゴ経営やミカン(カンキツ類)経営が高くなりました。しかし、全ての果樹経営で農薬の割合が高いわけではなく、桃経営、柿経営、梅経営は中位で、ブドウ経営に至ってはやや下位に位置しています。

第一主幹品目農薬・衛生費率
リンゴ8.1%
カンキツ類6.9%
甜菜6.7%
ジャガイモ6.3%
普通作6.0%
キャベツ5.9%
5.8%
果樹平均5.7%
タバコ5.6%
キク5.5%
日本ナシ5.5%
ニンジン5.2%
レタス5.1%
タマネギ5.0%
ブロッコリー4.9%
サクランボ4.8%
4.5%
4.4%
ネギ4.4%
4.3%
野菜平均4.2%
ホウレン草3.9%
スイカ3.7%
アスパラガス3.5%
イチゴ3.5%
ブドウ3.3%
バラ3.3%
ナス3.1%
酪農3.1%
メロン3.0%
ニラ3.0%
キュウリ2.9%
花き平均2.8%
肉牛2.6%
ピーマン2.5%
トマト2.3%
ミニトマト2.0%
小松菜1.9%
キノコ1.4%

上述のリンゴやミカン経営を除けば、概して農薬衛生費も肥料費と同じように土地利用型の作物で多くなる傾向が見て取れます。その一方でピーマン経営、トマト経営、ミニトマト経営、小松菜経営などの野菜経営では、肥料費と比べて農薬衛生費はかなり少なくなっています。トマトなど、消費者から“見た目が問われる”作物だと思うので、この農薬費の少なさは意外でした(あくまで金額ベースですが)。

全体的に見て農薬衛生費率は、肥料費率など主要生産費の中では低めです。これは昨今、“減農薬”が付加価値として認められ、浸透しつつある流れと重なっているのかもしれません。もっともそれ以前に農家としては、農薬は使わないで済むなら使いたくないものです。理由は“高いから”です(笑)。

動力光熱費率

動力光熱費の比率は、バラやキクなどの花き経営と、ピーマンやキュウリなどの施設園芸の経営体が上位にきています。施設経営は、暖房器や除湿器、電照設備などを使用することから、動力光熱費率は肥料費率や農薬衛生費率を大きく超えます。その中でもバラ経営の動力光熱費率は突出して高くなっています。バラは高価なわけですね(笑)。

第一主幹品目動力光熱費率
バラ20.9%
ピーマン13.4%
キノコ12.4%
キク11.2%
キュウリ10.5%
10.4%
花き平均10.1%
ナス9.7%
ミニトマト9.2%
トマト8.1%
イチゴ7.9%
サクランボ7.2%
タバコ7.1%
ブドウ5.9%
カンキツ類5.5%
野菜平均5.3%
ネギ5.2%
メロン5.1%
5.0%
果樹平均4.9%
普通作4.8%
アスパラガス4.5%
ニラ4.3%
酪農4.2%
レタス3.9%
ホウレン草3.9%
ブロッコリー3.9%
3.9%
リンゴ3.7%
小松菜3.6%
日本ナシ3.6%
3.5%
キャベツ3.4%
ニンジン3.0%
ジャガイモ2.9%
肉牛2.9%
スイカ2.9%
甜菜2.8%
タマネギ2.2%

また、肥料費や農薬衛生費がほとんどかからないキノコ経営が、動力光熱費率では上位にきています。温度と湿度を保って長期間出荷するには年間相当の燃料を必要とするのでしょう。

一方で土地利用型の露地野菜経営は概して低位です。それでも普通作経営は機械作業が多いことと、乾燥機などの施設もあることから露地経営よりは動力光熱費がかかっています。

しかしこれらを見ると日本の農業も、多くのエネルギーによって支えられていることが、あらためて分かります。これでは仮に日本の食料自給率が高くなっても、全く安心とは言えないでしょう。

減価償却費率

減価償却費率が最も高いのは普通作経営でした。直接生産に結びつく乳牛や、母牛を減価償却資産に計上している酪農経営や肉用牛(繁殖牛)経営よりも大きくなっています。それだけ普通作経営は機械設備に頼る経営ということであり、経営のポイントは如何にその設備を使いこなして、多くの売り上げを上げるかという所にあるということでしょう。

花き経営や機械化が進んでいない果樹経営などは、低めになりますが、トップと最下位の差は(比率のバラツキ)、上述した肥料費率、農薬衛生費率、動力光熱費率の中で最も小さくなっています。つまり品目にかかわらず農業経営には、一定以上の設備が必要ということです。そのうえ、上述した各生産費比率の平均値は減価償却費率が最も高くなっていますので、農業は多くの設備投資が必要な産業であるとあらためて実感させられます。資金面からも個人で大規模経営をやり続けるのは現実的ではないかもしれません。

第一主幹品目減価償却費率
普通作13.5%
酪農12.2%
肉牛10.5%
タバコ10.3%
アスパラガス9.9%
ジャガイモ9.2%
キュウリ8.9%
イチゴ8.9%
ミニトマト8.5%
8.4%
ブロッコリー8.4%
小松菜8.3%
8.3%
キノコ8.2%
野菜平均8.2%
キク8.1%
ネギ8.0%
キャベツ8.0%
ニンジン7.9%
トマト7.8%
日本ナシ7.8%
ニラ7.8%
タマネギ7.7%
甜菜7.7%
ブドウ7.7%
リンゴ7.6%
メロン7.5%
ホウレン草7.4%
ナス7.3%
バラ7.3%
サクランボ7.2%
7.2%
果樹平均7.1%
ピーマン7.1%
レタス7.1%
7.0%
花き平均6.8%
スイカ6.1%
カンキツ類5.7%

以上、2022年の第一主幹品目ごとの経営体の主な費用比率を見てきました。上記39品目を第一主幹品目にしている経営者の方は、是非これらの比率を参考に自己の費用水準を確認してみてください。そこから自分の経営の特徴を把握したり、削減目標を設定したりすることができます。

南石名誉教授のコメント

今回の分析では、作目別の生産コストの実態が明らかになりました。新規就農し易い作目としては露地野菜、逆に新規参入が難しい作目として水稲が、しばしば取り上げられます。

これは初期投資の大小が関係しますが、今回の分析では、減価償却費率が最も高いのは水稲などの普通作物です。その一方で、露地栽培が主体の野菜は、減価償却費率が比較的小さくなっており、初期投資が少なくて済むことを示しています。

また、農薬衛生費率が最も高いのはリンゴです。これは、通常のリンゴの栽培では、病害虫を防除する農薬の散布が必須であることを示しています。以前、農薬や肥料を使わない「奇跡のリンゴ」が社会的にも大きな話題になった背景も、今回の分析から見えてきます。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所