
個人情報を除いた2023年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家11,655人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
2023年の農林水産省の新規就農者調査によると、49歳以下の新規参入者は年間2,600人であり、全体としては少ない数ですが、日本の食料生産にはかけがえのない農業者です。
農地や設備や地域の気候に左右される農業経営に新規参入するには思い切った決断が必要であり、当初は手伝ってくれる家族もおらず1人で挑戦するケースがあるかと思われます。
今回は、1人で新規就農参入する経営者の参考にしていただくため、単身営農の野菜経営で高所得を得ている経営の特徴を、2023年の簿記データを分析して探ってみたいと思います。
単身営農と専従者がいる経営の比較
ソリマチ農業簿記ユーザの全国11,655件のデータを集計すると、単身営農の割合は26%です。営農類型別にみると普通作と肉用牛が32%越えで多くなっています。
普通作は兼業農家や定年後の就農というケースが多いと思われますし、肉用牛は小規模経営が多いからだと思われます。
今回の分析では、若い新規就農者の参考になるために、全国49歳以下の野菜経営を分析してみました。
全国49歳以下野菜経営の専従者人数別の経営概況を以下の表にまとめました。
| 単身営農 | 専従者1人 | 専従者2人 | |
|---|---|---|---|
| 経営体数 | 540 | 549 | 326 |
| 収入金額 | 10,958 | 18,728 | 32,189 |
| 農業所得 | 2,298 | 3,346 | 5,140 |
| 農業所得率 | 21.0% | 17.9% | 16.0% |
| 雇人費 | 1,082 | 1,277 | 1,401 |
| 収入金額対雇人費率 | 9.9% | 6.8% | 4.4% |
| 建物構築物 資産額 | 2,732 | 4,752 | 6,679 |
| 農機具 資産額 | 2,376 | 4,071 | 5,996 |
| 借入金 残高 | 4,765 | 7,104 | 7,229 |
| 収入金額対借入金率 | 43.5% | 37.9% | 22.5% |
※金額の単位は千円。
収入金額平均は単身営農が1,095万円と経営規模は小さく、農業所得も229万円と少ないです。しかし注目したいところは、単身営農では農業所得率が21%と一番高いことです。
所得率が高いということはすなわち経営効率が高いことですから、無駄を省き工夫しながら経営していることがうかがえます。
しかし、所得率が高くても収入金額が大きくなければ所得は増えません。単身営農は、さほど規模は大きくない状況の中で雇用を雇わざるを得ず(雇用比率は9.9%と高い)、そして設備投資を行い借入金率も多く(43.5%と高い)なっています。
結局、単身営農における高所得経営の条件の一つは、売上と設備と雇用のバランスを見ながら、経営規模をどこまで拡大するかということが重要となります。
どれくらいの経営規模なら良いのか
全国49歳以下の単身野菜経営を収入金額規模別に集計してみました。
収入金額が3,000万円未満では、農業所得は350万円以下ですから、一般的な労働者の年収を稼ぐとなるとやはり3,000万円以上の規模は必要だと思われます。
しかし、経営の効率性としての指標である農業所得率を見ると、2~3,000万円と5,000万円以上の規模は所得率が低く、3~5,000万円の規模は高くなっています。
これらの階層の主な費用構成を分析すると、2~3,000万円と5,000万円以上は、減価償却費が高くなっているということと、5,000万円以上は雇人費が高いことがわかりました。
設備投資に対して2~3,000万円規模は規模が小さすぎる、そして5,000万円は逆に規模以上の高い投資になっている、ということが予想できます。
この分析から、単身営農者の目指すべき第1段階の収入金額は、概ね3~5,000万円規模の経営だと思われます。設備投資と雇用労働を経営規模に合わせてバランスをとることが所得向上につながるのです。
規模別にどのような主幹作目が多いのか
次に、49歳以下の単身営農経営はどのような作目を作付けていて、経営規模別に違いはあるのか、以下の表のようにまとめました。
| 5,000万円以上 | ブロッコリー、トマト、イチゴ、レタス |
|---|---|
| 3~5,000万円 | イチゴ、トマト、ネギ、ジャガイモ、スイカ |
| 2~3,000万円 | イチゴ、ネギ、キュウリ、トマト |
| 1~2,000万円 | トマト、イチゴ、キュウリ、ブロッコリー |
全体的にイチゴとトマトという果樹的野菜が多いのは一目瞭然であり、他にブロッコリー、ネギ、キュウリがありました。
先のグラフで、3~5,000万円の階層の農業所得率が高くなっていましたが、この階層での作目で特徴的な高所得率作目はスイカでした。また、すべての階層で単一の作目をメインで栽培しており、複数野菜の作付けは無いようです。
単身営農において、あまり労働力をかけずに1年じゅう切れ目なく作業して収入を得るために、イチゴやトマトは好都合なのだろうと思われます。
新規就農3年以内経営は
新規参入した49歳以下の就農者は、国から認定されると「農業次世代人材投資資金」が年150万円ずつ3年間交付されます。
この交付金をもらっている経営体は107件であり、49歳以下の単身営農全体の20%ですので、新規就農者は単身営農が多いということがわかります。
これらの平均を集計すると、収入金額869万円、農業所得216万円、所得率25%、建物資産額200万円、農機具231万円、借入金500万円です。まだ経営規模が小さく農業所得も少ないので、国からの交付金は無くてはならないものである、と言えます。
まとめ
以上のことから、単身営農の農業所得率は高いが、経営規模が小さいため所得額は十分ではないという傾向があります。単身営農における高所得経営は、売上と設備と雇用のバランスを見ながら、経営規模をどこまで拡大するか(概ね3~5,000万円)ということが重要です。
そして栽培作目は、あまり労働力をかけずに1年じゅう切れ目なく作業して収入を得るためにイチゴやトマトが最適です。
地域の農家やJAなどに相談して、単身での新規就農に挑戦する人が増えることを期待します。
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南石名誉教授のコメント
今回の分析では、49歳以下の経営主が営農している野菜経営を分析し、興味深い点がいろいろと明らかになりました。単身経営で700万円以上の農業所得を得るためには、3~5,000万円の売上規模が必要になることも明らかになりました。
新規就農では、初期投資が比較的少ない露地野菜が多いと言われていますが、単身経営で上記の売上規模を実現するには、農地、雇用、農作業機械、栽培技術、販路などいろいろなハードルがあります。
新規就農で目指す暮らしや仕事が何か、サラリーマン世帯と同程度の所得を得ることを優先するのか、農的な暮らしを楽しむことを目指しているのかなど、農業に求めることをあらためてしっかり見極めることが重要になりそうです。それが、最適な作目の選定や営農の形態を見つける早道になりそうです。
