農業利益創造研究所

収入・所得

JAは農家から米を買い叩いている? JA出荷の稲作農家の経営を見る

個人情報を除いた2024年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家15,780人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

2024年(R6年)産米は、近年まれにみる高単価でした。この高単価の原因は、今でこそ米の絶対量の不足にあったことが分かりましたが、当初は流通の目詰まりが問題視されていました。中には「米の卸売業者が米の流通を意図的に止めて、価格を釣り上げている」という“陰謀論”まで出る始末です。折しも大河ドラマの「べらぼう」では、ちょうど天明の大飢饉が描かれ、米問屋や株仲間が価格操作をしているような描写もありました。その影響でもないのでしょうが、何かと米の卸売に風当たりが強かったものです。

この手の陰謀論や都市伝説と非常に相性がいいのがJAです(笑)。今回の米騒動でもご多聞にもれず、一部から「米価高騰の黒幕」に指定されました。毎度の“お約束の展開”です。さらには「JAは農家に対しては米を買い叩いているので、農家は米価高騰の恩恵は全く受けていない」との“農家虐めの罪”も加えられてしまいました。

よく勘違いされていますが、JAは純然とした民間組織です。米に限らず農作物の集荷・販売は、JAが独占しているわけではなく、JAを含む多くの集荷業者が各地で競争して行われています。作物や地域ごとで異なりますが、概ねJAの流通シェアは全国平均で3~4割程度と言われています。したがってJAが他の業者に競争で負けることはあっても、価格を吊り上げたり買い叩いたりするのは原理的に不可能です。

さて、そうはいってもSNS全盛期の現在、陰謀論が組織の存続どころか人の命まで奪う時代です。そしてかく言う私は、現在もJAグループにお世話になっている身です。ここはひとつ、米価と米農家の経営データ等を通じて、JAが農家から米を買い叩いたという「濡れ衣」を晴らすお手伝いをしてみたいと思います。

米価と稲作農家の経営は相関する

まず全体の状況を確認します。以下は米価と、全国のソリマチ農業簿記のユーザーのうち米を第一に販売している経営体の経営概要の推移です。

この通り、2024年産米の価格は前年同月比156%の大幅増加となり、それは稲作農家の米の販売金額(144%)、世帯農業所得(172%)、世帯農業所得率(145%)等の大幅増加につながっています。つまり、2024年米価の高騰により、全国の稲作農家の経営状況は大きく向上したということです。

2021年2022年2023年2024年前年比
米価(円/60㎏)13,03313,88015,24723,715156%
経営件数2,755 2,9082,9404,254145%
販売金額12,31512,50813,59818,649137%
うち主食米9,6189,65810,62515,306144%
収入金額合計19,06919,62021,01924,969119%
世帯農業所得4,4534,6994,9138,468172%
所得率23.4%23.9%23.4%33.9%145%

※「米の相対取引価格・数量」(農水省)の玄米60㎏あたりの価格(税込み)で、出回り(9月)から12月までの全国平均値

尚、上記の4年間の米価と米農家の経営数値の相関係数は以下の通りです。相関係数とは“1”から“-1”の値でデータの相関関係を示すもので、“1”が完全相関、“0”が相関無し、“-1”が負の完全相関を表します。

これによると、米価に対する販売金額から所得率までの経営数値の相関係数は0.98~1.00となり、少なくともこの4年間は米価と米農家の経営はほぼ完全相関にあると言えます。つまり米価が上がれば、その分稲作農家の売上はもちろんのこと、所得も上がることは間違いがないということです。

米価
販売金額1.00
 うち主食米1.00
収入金額合計0.99
世帯農業所得1.00
所得率0.98

以上により、米価と稲作経営は非常に密接に結びついており、この度の米価高騰で一般の稲作農家は確実に所得が増えました。ではJAに出荷している稲作農家はどうだったのでしょうか。JAに買い叩かれているのなら、2024年の売上や所得はあまり上がっていないはずです。

新潟のJA出荷者のデータを確認する

以下は、政府が公開している新潟県の主要品種の11月までの平均価格です。新潟県は言わずと知れた日本一の米の産地です。ここでも前年より33~40%の価格上昇が確認できます。

2023年産米2024年産米米価増加率
コシヒカリ(一般)16,99622,540133%
こしいぶき14,68820,489140%

※「米の相対取引価格・数量」(農水省)。出回り(9月)から11月までの新潟県産米の平均値

では、2024年にJAが農家に支払った米の価格はどうなったのでしょうか。以下は新潟県のある大規模JAが、約6千人の管内の生産者に支払った2024年産米の概算金(仮渡金)の増加率です。

JA米価増加率
コシヒカリ171%
こしいぶき145%

※「仮渡金÷検査数量」から2023年産米と2024年産米の単価を算出して、2024年産米単価÷2023年産米単価の割合を算出したもの

このとおり、買い叩くどころか政府の統計値よりも増加率は高くなっています。つまりJAはJAなりに、2024年の米価の高騰に応じて(もしくはそれ以上に)買取価格も上げているということです。

では、このJAに米を出荷した農家の経営はどうなっているでしょうか。以下は当該JAで会計の記帳代行サービスを利用している個人経営体の経営概要です。これらの農家は米を第一に作っており、JAへの米の出荷率が2023年と2024年共に8割を越えている経営体です。

2023年2024年前年比
経営件数5050100%
販売金額6,406,8819,398,632147%
 うち主食米5,771,9208,691,420151%
収入金額合計10,245,15213,089,542128%
世帯農業所得1,846,1074,444,180241%
所得率18.0%%34.0%188%

これによると、経営規模(収入金額合計)は13,089千円と冒頭の全国の農業簿記ユーザー平均の半分程度ですが、所得率34.0%とはほぼ同率です。そして2023年からの増加率は全ての項目で上回っています。

つまり、このJAに米を出荷した稲作農家の2024年の経営は、JA以外の集荷業者も使っている全国の米農家よりも大きく改善したことになります。そして所得率の高さから、単価的にも決して低くないことも予想されます。JAに“買いたたか”れていたら、こうはなりませんね。

以下はこの50名のJAに出荷した2024年産米の価格上昇率です。この中には、今回の米価高騰に影響を受けず、価格が据え置かれたままの加工米や飼料用米の価格も含まれていますが、それでも冒頭に示した全国の上昇率156%と遜色有りません。

JA米価増加率
JA出荷者153%

今回は新潟県の大規模JAのデータを参考にしました。もちろん地域によって米価水準やJAの対応に多少の違いはあるでしょうが、このJAの農家への支払いが特殊ということは考えにくいです。なぜなら、全国どこの地域であってもJAがあまりに不当な価格を提示したら、他の集荷業者にシェアを奪われてしまうからです。つまりJAも競争にさらされている以上、買い叩きなどできるわけもなく、また全国的にみてもJAに出荷した農家も他の農家同様に所得が上がった可能性が高いということです。

尚JAは、仮渡金に加えてその後、追加払いや精算払いなどもしますので、出来秋の時点で他の集荷業者より安くとも、最終的にはそれほど安く無かったりする場合もあります。

以上、米価と経営データから、“JAの冤罪”を明らかにしてみました。JAにはいろいろ問題もありますが、見当違いな批判も多くみられます。そのような批判に対してJAは、JAを利用する農家やJAで働く職員のためにも、豊富な内部データ等使って世間の誤解を解く努力がもっと必要だと、元JAグループの職員としては思うわけです。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所