農業利益創造研究所

収入・所得

3Kだった時代はもう昔話?農家はサラリーマンより高所得

個人情報を除いた2019年度の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:稲作専業農家1,700人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

最近、日本のどこの産業でも「人手不足」が言われるようになりましたが、農業は随分前から慢性的な担い手不足に悩まされています。

それは農業には3K(キツイ・キタナイ・キュウリョウヤスイ)の代表的な産業とのイメージがあるからと思われ、実際、肉体的にキツイことが多いですし、泥やホコリまみれになるのも普通です。

しかしキュウリョウの方(儲かるか)はどうなのでしょうか?
誰もが関心を持つこの疑問に答えるため、今回は2019年の稲作を中心に作付けを行っている全国の専業農家の業況を調査してみました。

全国の専業農家の業況

まずこちらのデータのとおり、平均収入金額は24,209千円で中央値が20,681千円であることがわかりました。この収入金額とは作物の売上だけでなく補助金などの雑収入も入った金額ですが、それにしても大した額です。

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しかし、サラリーマンと違い自営業者は収入金額よりもそこから諸経費を引いた所得の方が重要です。したがってその所得の状況を調査してみたところ、こののような結果になりました。世帯農業所得(青色申告特別控除前所得+専従者給与)の平均値が597万6000円、中央値が520万5000円です。

世帯農業所得額所得率
平均値5,976,94727.9%
中央値5,205,63927.5%

これを、サラリーマンの年収などと比較できるように年代別に分けます。さらに、当期の減価償却費の額を加算した現金ベースの世帯農業所得に置き換えると、こちらの通りとなります。

 世帯農業所得
減価償却費
現金ベースの
世帯農業所得
①+②
サラリーマン
年収※1
30歳未満3,2292,9206,1493,285
30代6,8433,43410,2774,398
40代7,2933,28810,5815,219
50代6,0792,9919,0695,737
60歳以上5,1362,6427,7783,805
全年齢平均5,9772,8708,8474,643

※1…サラリーマン年収は「令和元年賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)の、従業員規模10人以上の全産業、全世代の男女合計の賞与を含む年間の平均賃金。年代平均は各年代の調査数から加重平均して算出。(単位:千円)


これによると、全世代でも各年代でも農家の所得は、サラリーマンの平均を大きく上回ることになります。

まとめ

今回の分析対象となった基礎データは、経営状況の良い農家が多いと思われますが、それを差し引いて考えても、これらのデータからは農業は3Kのうち“キュウリョウヤスイ”だけはどうも当てはまらないように思えます。

それどころか、見方によっては通勤電車に毎日何時間もゆられる必要もなく、嫌な上司にパワハラされる心配も無い、高収入の“とってもイケてる仕事♡”、と言えなくもないかもしれません。世間に流布されているイメージとは随分違うものです。

もちろん、全ての農家がそうだというわけではなく、また成功する農家は必ず一定以上の努力はしています。サラリーマンとは違う能力や労力を求められることも確かです(何せキツイ・キタナイですから(笑))。

さらにこれは農家に限らず自営業者全般に共通することなのですが“安定”がありません。何かの拍子で一気に経営が悪化するというリスクと常に背中合わせであることは、昨今のコロナ禍でも明らかです。

ですから例えば上記の所得にしても、全額を自分や家族の生活や趣味のために使えるかと言えばそうではなく、一部を事業資金の蓄えとしなければなりません。もちろん事業資金の返済もここから行います。

さらには自営業者である農家には退職金が無いうえに、公的年金も薄いので、生活面の備えもこの所得金額からしなければなりません。これらのことを考慮すると、“イケてる”が決して“楽勝!”という仕事ではないでしょう。

それでもこれらのデータからは、農業は自由に自分の可能性を試すことができて、やり方次第では充分豊かな生活ができる魅力のある選択肢、とみることもできます。
生き方の多様性が問われる昨今、世間の農業への理解ももっともっと進むといいですね。

南石教授のコメント

『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』という本があります。

この本は、我々の思い込みや時代の変化で、専門家も含めて多くの勘違いをしていることを警告しています。

農業や農家についても、実に多くの思い込みがあります。

また、20~30年昔の現実を反映している統計データも、今の時代には当てはまらないものも多くなっています。

多くの優秀な若者が農業に関心を持ち、多くの一般企業が農業に参入する時代が到来しています。

農業の将来が楽しみな時代です。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所