
個人情報を除いた2020年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家16,590人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
コロナ禍で多くの事業者が大打撃を受ける中、政府は新型コロナ関連の補助金・助成金を複数設けました。農業経営者が受け取ったそれらの補助金・助成金は、どのような傾向だったのでしょうか。簿記データから探ってみたいと思います。
農家の持続化給付金受給率は低め?
農業利益創造研究所は、経営継続補助金・持続化給付金・その他「コロナ」と明記された補助金をコロナ関連の雑収入(補助金・助成金)としてデータ全体を分析しました。
「持続化給付金」とは、新型コロナの感染症拡大によって影響を受けた事業者に対して支給される給付金で、中小法人等は200万円、個人事業者等は100万円を受け取ることができます。主な支給要件は、新型コロナウイルス感染症の影響により、ひと月の売上が前年同月比で50%以上減少していることです。
一方の「経営継続補助金」は、農林漁業者の経営継続や感性拡大防止対策の取り組みに関する経費を補助するものです。
具体的には、国内外の販路の回復・開拓、事業の継続・回復のための生産・販売方式の確立・転換、円滑な合意形成の促進等に要する経費として補助上限額100万円、感染拡大防止の取組に要する経費として補助上限額50万円(最大150万円)を支給します。
まず、コロナ関連の雑収入があったのは3,908件 (全体の23.6%)です。
日本の中小企業・小規模事業者の数は357.8万者で、持続化給付金の支給件数は約424万件です。持続化給付金を複数回受け取っている事業者がいるので、ここから受給率を割り出すことはできません。
しかし、この全業種の事業者についての数字と比較すると、農業者の「23.6%」は低いと言えるのではないでしょうか。しかも、この23.6%は持続化給付金以外の雑収入も含んだ数字ですから、持続化給付金を受給した農家はさらに少なくなるでしょう。
他のコラムでも論じたためここでは深入りしませんが、人間が常に必要とする「食」を支える農業経営には、コロナ禍での影響は比較的少ないものでした。そのため、持続化給付金を必要とする農家も少なかったものと思われます。
新型コロナ関連の雑収入は、ぴったり100万円!?
他に目につく面白い特徴は、「100万円を受け取った農家が大変に多い」ことです。
受給金額 | 受給件数 |
---|---|
50万円未満 | 320 |
50〜100万円未満 | 93 |
100〜150万円未満 | 3,355 |
150〜200万円未満 | 50 |
200〜250万円未満 | 68 |
250〜300万円未満 | 4 |
300〜350万円未満 | 9 |
350〜400万円未満 | 1 |
400〜450万円未満 | 2 |
こちらは新型コロナ関連の雑収入の金額をグラフ化したものですが、100万円~150万円に集中しています。100万円以上150万円未満は全体の85.8%、100万円ちょうどが全体の73.2%です。
なお、コロナ関連の補助金は、持続化給付金が3,176件、経営継続補助金が184件、それ以外のコロナ関連補助金が247件でした。この数字からすると、やはり持続化給付金のみを受給している農家が多いことが、その満額である100万円ぴったりの受給額が多くなった原因のようです。
また、その他の新型コロナ関連の雑収入についてもいくつかデータ分析を行いましたが、持続化給付金、経営継続補助金に比べると利用件数が非常に少なくなっていました。こちらは対象者が少なかったり、単純に知名度が低いことが理由かもしれません。
地域別・営農類型別のデータは?
それでは、地域別・営農類型ごとに、新型コロナ関連の雑収入の特徴はあるのでしょうか。改めて分析データを検討してみましょう。
地域 | 受給件数 | 受給率 | 平均受給金額 |
---|---|---|---|
北海道 | 825 | 33.7% | 1,047,942 |
東北 | 653 | 23.2% | 937,170 |
北陸 | 149 | 12.2% | 988,081 |
関東・東山 | 446 | 15.3% | 993,364 |
東海 | 275 | 24.5% | 1,050,670 |
近畿 | 238 | 31.6% | 1,034,373 |
中国 | 230 | 15.8% | 942,587 |
四国 | 340 | 28.6% | 1,003,442 |
九州 | 593 | 32.3% | 916,773 |
沖縄 | 21 | 41.2% | 1,004,761 |
こちらは、コロナ関連雑収入の地域ごとの受給件数・受給率・平均受給金額の表です。こうしてみると、受給金額はほとんど地域差がありません。
関東・東山・北陸・中国は受給率が低くなっている一方で、北海道が33.7%、沖縄が41.2%と特に数字が大きくなっています。件数が少ないため必ずしも有意性があるとは言えませんが、コロナ禍によって観光業が大きくダメージを受けましたので、観光業で潤っている県は受給率が高いのかもしれません。
営農類型 | 受給件数 | 受給率 | 平均受給金額 |
---|---|---|---|
普通作 | 645 | 18.3% | 985,687 |
果樹 | 347 | 21.7% | 984,020 |
野菜 | 1720 | 30.9% | 1,016,666 |
特殊施設 | 278 | 27.1% | 955,620 |
酪農 | 51 | 11.9% | 352,860 |
肉用牛 | 235 | 46.0% | 1,019,025 |
次に、営農類型ごとの受給件数・受給率・平均受給金額を見てみます。肉用牛が46.0%と圧倒的に高くなっています。
コロナ禍にて需要に大きな打撃を受けた食べ物の一つに、高級和牛が挙げられます。高級和牛は高級店や観光地など「特別な時」に食べる消費者が多く、特に日本を訪れる外国人観光客へのインバウンド需要が高かったため、コロナ禍にて消費のニーズが落ち込んでしまったと考えられています。肉用牛の受給率が高いのも、それだけ経営が苦しかったことの表れではないでしょうか。
対照的に、肉用牛と同じく牧場にて行う酪農は11.9%ともっとも低い数字です。牛乳も外食需要が落ち込んでいる他、休校によって給食用の牛乳が余ったりと、危機にさらされていなかったわけではありません。しかし、生乳をチーズやバターなどの加工用に転用することにより、生乳の大幅な廃棄は免れました。
加工乳は生乳よりも低単価のため、この対処によって酪農経営が苦しくなるのではないかという懸念も生まれています。ですが、この簿記データの数字から、そのような政府や乳牛メーカーの努力により、酪農経営への影響は最小限に食い止められたのではないか、と考えられます。
コロナ関連雑収入のデータからは、このように様々な推論を導き出すことができます。引き続き、様々な面から有益な分析結果をお届けできれば幸いです。
関連リンク
経済産業省「持続化給付金に関するお知らせ」
経営継続補助金事務局「経営継続補助金」
中小企業庁「中小企業・小規模事業者の数(2016年6月時点)の集計結果を公表します」
経済産業省「持続化給付金の申請と給付について」