農業利益創造研究所

収入・所得

2021年の農家の経営に変化があったのか? 前年比較で振り返る

個人情報を除いた2021年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家13,300人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。

2021年の決算データが出そろったので、前年と比較して2021年の農家の経営がどうであったかを見てみたいと思います。

全国13,273世帯(前年12,276世帯)の経営概要は以下の通りです。

2021年 青色申告者全体(13,273件)
平均前年比
収入金額合計23,679101.9%
販売金額18,43898.1%
世帯農業所得5,76299.6%
世帯農業所得率24.3%97.8%

※金額の単位は千円。

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上記のグラフは右が増加幅、左が減少幅を示しています(以下同様)。2021年は前年と比較して、補助金や給付金などにより収入は増加したものの、販売金額も下がったため、最終的に世帯農業所得や所得率が減少したと思われます。

とはいっても、減少幅は大きいとは言えず2021年も農家全体の経営にとっては、コロナの影響は限定的だったと言えそうです

2021年は普通作経営が落ち込む

次に経営類型ごとの対前年比の経営概要は以下の通りです。

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これを見ると、普通作経営と酪農経営で世帯農業所得と所得率の減少(前年比10%以上の減)が見られます。

肉用牛や花卉の各経営では所得の増加も見られますが、世帯数が少ないので全体に与える影響は小さく、経営体数の多い普通作経営の結果が、青色申告農家全体の所得額と所得率の微減という結果に影響していると思われます。

なお、果樹や肉用牛、花卉はどちらかというと嗜好品のような作物で、それらを主に生産している農家の経営が伸びているのは興味深い傾向だと思われます。

普通作のウェイトが大きい地域に落ち込みが目立つ

以下は地域別の経営概要になります。

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東北地域と北陸地域の減少は、両地域に普通作農家の割合が多いため、その影響を大きく受けた結果と思われます。

以下は東北と北陸の普通作経営の大きな増減があった損益科目です。両地域とも雑収入(補助金や給付金)が増えたものの、それが米の販売高の低下を埋め合わせるまでには至らず、さらに燃料費が増加したことで、所得金額と所得率が下がったということでしょう。

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なお、2021年の米の作況指数は全国で101、東北地域で102、北陸地域で98でした。今更ながらですが作況、つまり豊作であるかどうかと普通作農家の個々の経営は、あまり関連性が無いのかもしれません。

普通作から園芸作物へのシフト

2021年の販売品目はどのように変化したでしょうか。青色申告者全体の販売金額の内訳は以下の通りとなりました。

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野菜が販売金額の35.8%と最も多く、前年比でもわずかに増加しています。次いで普通作の20.2%ですが、前年と比較して約3%減少しています。果樹や花卉も前年比で増加していることから、経営作目が普通作から園芸作物へ緩やかにシフトしていることが、ここからでもうかがえます。

所得金額や所得率を見ても園芸経営は普通作経営よりも高いため、この動きはこの先もまだまだ続くと思われます。

動力光熱費が大きく上昇

青色申告者全体の主要生産費の対前年比は以下のようになりました。

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農薬衛生費が若干下回っているものの、動力光熱費の8.4%増を筆頭にほとんどの費用が増加しました。収入金額合計が増加しながら所得金額が減少したのは、ひとえにこれらの費用の増加が原因といえます。

そのなかで減価償却費の増加が僅かであることは、コロナ禍や原油高騰のなかで農業経営者が新規投資に慎重になっている姿勢がうかがえます

まとめ

2021年も国内経済はコロナの影響を大きく受けましたが、青色申告者全体ではあまり大きな変化は見られませんでした。しかしその中でも、燃料費等の高騰が確実に経営にマイナスの影響を与えており、普通作経営等を大きく落ち込ませました。

コロナ前から確認されていた、普通作経営から園芸経営へのシフトはこの間にも認められ、普通作経営の割合が多い東北地域や北陸地域は、今後農家の経営がどのような方向に進んでいくのか注視していきたいところです。

南石教授のコメント

飲食業、観光業、運輸業等と比較すると、新型コロナウイルス感染拡大の農業への影響は相対的に小さいと言われてきましたが、今回の分析は、これを財務的に裏付ける証拠といえます。

作目別の売上高の分析では、栽培作目が普通作から野菜、果樹、花き等へ緩やかにシフトしている傾向もみられました。動力光熱費の増加にこうした作目の変化が影響している可能性もありますが、エネルギー供給が国際的に不安定になっている影響が既に現れていると言えそうです。

今年に入ってから、さらにこの傾向が強まっているので、来年の決算では、今回以上に動力光熱費が増加すると思われます。

 この記事を作ったのは 木下 徹(農業経営支援研究所)

神奈川県生まれ。茨城県のJA中央会に入会し、農業経営支援事業を立ち上げる。

より農家と農業現場に近い立場を求め、全国のJAと農家に農業経営に関する支援を進めるため独立開業に至る。(農業経営支援研究所