
個人情報を除いた2021年の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:青色申告個人農家13,300人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
農業簿記ユーザーの稲作農家3,000件のデータを分析しているとおもしろいことに気づきました。
一般的に稲作経営は土地利用型農業ですから、経営規模が大きければスケールメリットが出て効率性が増し、所得が増えます。しかし、お米の販売金額が300万円ほどしかない小規模経営なのに、農業所得が200万円という高所得率の経営がいくつか存在していました。
稲作農家の方であれば、きっとあれだね、とその理由はわかるかと思いますが、新規就農を目指す方であれば不思議ですね。一緒にその謎を探ってみましょう。
小規模・高所得率 稲作農家とは
販売金額500万円以下の小規模経営で、世帯農業所得率が30%以上の稲作農家36件を分析しました。
全国稲作農家の平均と比べて、農産物販売金額は4分の1、世帯農業所得(控除前農業所得+専従者給与)は約半分の250万円という小規模経営ですが、世帯農業所得率は39%という高さです。
なぜそんなに所得率が高いのか? それは雑収入が収入金額の半分を占めているからです。表を見てみますと、稲作農家の雑収入率平均34.6%に対して51%という驚異的な数字です(野菜経営の雑収入率は19%、果樹経営は9%)。これが高所得率の原因と見て間違いないでしょう。
稲作農家平均 | 高所得率農家 | |
---|---|---|
収入金額 | 19,080 | 6,525 |
農産物販売金額 | 12,297 | 3,083 |
雑収入 | 6,601 | 3,326 |
雑収入率 | 34.6% | 51.0% |
世帯農業所得 | 4,448 | 2,502 |
世帯農業所得率 | 23.3% | 39.1% |
※雑収入率=雑収入÷収入金額
雑収入の内容
それでは、雑収入の中身は具体的に何なのでしょうか。税務署が出している「青色申告決算書の書き方」の手引きを見ると雑収入欄には、「受取共済金、出荷奨励金、野菜・鶏卵などの価格差補塡金、農作業受託料、事業分量分配金などの名称と金額を記入します」と書かれています。
高所得率稲作農家の雑収入の内訳を調べてみると、以下のように5つの分類に分けることができます。それぞれの分類の中の農家1件当たりの平均金額も計算しました。
1.交付金、補助金
水田活用の直接支払い交付金、中山間地域等直接支払交付金、水田リノベーション事業、農業次世代人材投資資金
平均金額: 300万円
2.収入保険や収入減少の補填金
収入保険、収入減少影響緩和交付金(ナラシ)、共済金
平均金額:50万円
3.コロナ関連の補助金
経営継続補助金
平均金額:100万円
4.作業受託
農作業を請け負って得た収入
平均金額:130万円
5.従事分量配当金
農事組合法人の事業への従事量に応じた剰余金の分配金
平均金額:370万円
以上のことから雑収入は、飼料用米、麦、大豆などの作付けを増やしてお米の供給過剰を防いだり自給率を高める国の政策や、農業の生産が不利な山間地を支援する政策、新規就農者を増やすための支援などの交付金の額が多いことがわかりました。
また、小規模稲作農家は農事組合法人に従事している人が多く、だからこそ自分の経営は小規模経営として申告しているのだと思われます。
まとめ
農業経営は農産物の販売による所得向上だけでなく、雑収入を最大限活用して経営を継続していくことも経営者として大事な判断です。様々な交付金や補助金が国や地方自治体からの支援で用意されていますので、これらの情報をアンテナ立てて入手するようにしましょう。
確定申告の側面から、雑収入の範囲は非常に複雑で、たとえば以下のようなことに注意する必要があります。
・農協からの出資配当金は配当所得
・小作料収入は不動産所得になるケースもある
・ほ場に立てられた送電線鉄塔の敷地料は不動産所得
・農業機械を売却した時の利益は譲渡所得
青色申告決算書の雑収入記入欄は3行しか書くことができません。経営の多様化が進む中で、経営者が雑収入の種類と金額を正確に把握する意味でも行数をもっと増やした方が良いかと思います。国税庁の方はぜひご検討願います。
関連リンク
農林水産省「逆引き事典」
南石名誉教授のコメント
農業に限らず様々な産業の発展や保護に政策支援がなされています。特に農業には食料安定供給や環境保全といった社会的使命が期待されており、様々な交付金・補助金が整備されています。
事業面から見ても、所有する農地・林地・倉庫等から得られる敷地料、地代、賃貸料、太陽光発電に伴う売電収入などなど、農産物の販売以外の様々な雑収入が想定できます。
どのような産業の経営においても、時代と共に需要や経営環境が変化すれば、それに応じて事業多角化や事業転換を図ることが必要になります。その際重要な視点は、経営の強みは何かということです。保有する経営資源の特徴や量も重要な要素となります。
小規模経営の場合には、現有の経営資源の有効活用という視点が重要になるので、その結果、収入源が多様化する場合もあります。これにより、経費を掛けずに収入を得ることができ、所得額はそれほど多くなくても、所得率が高くなることがあるのです。