農業利益創造研究所

インタビュー

JAから新規就農へ。西尾でいちごを育む20代夫婦の挑戦【農業王2024:久野農園】

「農業王2024」受賞者インタビュー 愛知県西尾市の久野 未槻さん・百華さん

ソリマチ株式会社と農業利益創造研究所は、日本農業に無くてはならない個人事業農家を応援するために、優れた経営内容で持続可能な優良経営を実践している農業者を表彰する「農業王 アグリエーション・アワード 2024」を実施しました。

今年で三年目となる本アワードでは、約10万件の農業会計データと関わるソリマチ株式会社が、青色申告決算書をもとに経営の収益性・安定性を審査して、最終的に北海道から九州までの9ブロックから、普通作(米+麦・大豆)部門、野菜部門、果樹部門、畜産部門、花き部門の「農業王」を選出いたしました。

農業王には、収益性、安全性、経営力、地域貢献、持続可能性に優れた「SDGs農業賞」15名、収益性、安全性に優れた「優良経営賞」70名の二つの賞があります。

今回は、野菜部門で「SDGs農業賞」を受賞した愛知県西尾市の久野 未槻(くの みづき)さん・百華(ももか)さん夫妻からお話をお聞きし、その経営についてご紹介します

花市場とJAを経て、新規就農へ

自動車産業など工業のイメージが強い愛知県ですが、実は温暖な気候と豊富な水資源に恵まれ、農業も盛んです。中でも三河湾に接している西尾市は抹茶や花き、さらにいちごの産地としても知られています。

今回インタビューした久野夫妻は、この西尾市で4年前にいちご農家となりました。現在28歳と、今年の農業王受賞者の中では最年少で、20aのハウスで静岡いちごの品種「章姫(あきひめ)」を栽培しています。

奥様の百華さんのご実家は農家ですが、現在のいちご栽培は親から継いだものではなく、新規就農にあたります。お二人とも農業高校から農業大学へ進学し、花市場に勤めました。その後、未槻さんはJA職員となり、いちごを担当することになります。

「もともと農業が好きでしたし、JAで知識を学んでいたので、自分もいちご栽培でやっていきたい、と考えていました。そういった思いがある中で、いちご農家を辞める方がハウスの譲り先を探しているというお話があって、それをきっかけに就農を決心しました」

規模にもよりますが、ハウスを建設するには約1千万円かかりますから、その初期投資が抑えられれば経営的にも有利です。百華さんも未槻さんの熱意に賛同し、ハウスを譲り受け、ご結婚されて家族経営でいちご栽培を始めました。

苗を育てる間は、農家とJAを兼任

新規就農の課題の一つに、「始めのうちは売上がない」ことが挙げられます。作物を栽培して出荷するという特性上、農業では事業を開始してすぐに売上を立てることは困難です。

いちご栽培を始めた最初の半年、未槻さんはJA勤務を継続していました。昼はJA職員として働き、朝と夜に苗を育てる忙しい日々。初めて取り組む苗の栽培にも四苦八苦していました。「いちご栽培について学んでいても、それまで実際の現場で働いた経験はありませんでした。だから、つながりのあるいちご農家さんに教えてもらいながら試行錯誤しました」と当時を振り返ります。

そうやってお二人の頑張りは身を結び、初年度から売上を得ることができたそうです。徐々に経験を積んで苗の管理のコツをつかみ、収量も順調に伸びていきました。

先人の知恵に倣って、基本に忠実に

ここで久野農園の経営を数字から見てみますと、世帯農業所得率は51.5%と非常に高い数字です。いちごのような果実的野菜は世帯農業所得率が高くなりやすい傾向にありますが、それを差し引いても素晴らしい経営です。

そこで栽培の工夫について聞いてみますと、「特に変わったことはせず、基本に忠実に取り組んでいます」というお返事が返ってきました。

「様々な農家さんの経験に基づいて確立された栽培方法を忠実に行う、それだけです。一つ一つにミスをしないよう、丁寧に取り組んでいます。特に苗づくりは難しいので、神経を使っていますね」

久野農園では、ハウスの状態をモニターするセンサーは取り付けていますが、機械による自動化は行わずに、手作業で水管理を行っています。根の生え方などを見ながら、丁寧な調整を行います。非常に手がかかる工程ですが、これは質の良いいちごを作るのに欠かせない作業だと言います。

また、夏場は夜間のうち冷蔵庫に苗をしまい、花芽分化を起こして促成栽培を行い、もっとも単価が高くなるクリスマスシーズンに収穫時期を合わせています。また、このところの猛暑対策として、ハウスの遮光材を遮熱機能を備えたものに取り換えたり、カルシウムを与えて暑さに強い丈夫な苗を作る、という工夫も行っています。

「初めのうちは本当に何もわからなくて、色んな農家さんに教えていただきました。けれど、最近は苗の管理も上達してきたので、私の栽培方法について聞きに来る方もいます。お互いにノウハウを教え合えるような、お役に立てる立場になれたのだと、嬉しく感じています」

夜中まで作業をすることも…

久野農園では費用も抑えられており、特に肥料費・雇人費・減価償却費は低くなっています。「いちごはもともと肥料が少ない作目で、機械を使うこともなく、ハウスは譲り受けたものなので減価償却費が低いのだと思います。私たち二人だけで雇用している方もいませんから、雇用費もかかりません」

いちごは高単価での取引が可能な反面、収穫やパック詰めに手がかかります。後工程のために収穫を2時頃までに切り上げる必要があるので、時間内に収穫が終わらなかった場合は夜中に再び収穫することがあるそうです。

「夜はこのライトを使って作業するんですよ」と言いながら、百華さんは夜間収穫用の首にかけるライトを見せてくれました。ただ、お二人は笑顔で終始話されており、作業中はラジオを楽しんでいるとも話してくれました。

「作業中にテレビは見られませんけれど、ラジオを聞くことはできます。世間に置いていかれないよう、ニュースはしっかりチェックしています」

雇用を行わない家族経営では、繁忙期に大変忙しくなりますが、久野さん夫妻はまだ二十代。忙しい時期も二人で力を合わせてポジティブに乗り越えている、そんな印象でした。

JAと農家、両軸の経験を活かして

久野農園の販売先は8~9割がJA出荷、残りはJAの直売所・ファーマーズマーケットです。いちごの単価は右肩上がりで伸びていて、特に去年は1シーズン通して高く、特にクリスマスシーズンは売上が伸びた、と未槻さんは振り返ります。

いちごのような果実的野菜は直接販売しやすい作目といえますが、未槻さんは特に直接販売に注力してはいません。「インスタグラム経由で近所の方が買いに来てくれることもありますが、そこで直接販売につなげようというわけではなく、あくまでも個人で楽しんで運営しているアカウントですね」と自然体です。

また、JA職員と農家両方の経験を持つ貴重な存在として、未槻さんは現在、青年部の部長を務めており、様々な活動にも取り組んでいます。たとえばJA西三河では、西尾市でのいちご栽培での新規就農を目指す方を対象とした「いちごスクール」という制度を展開しており、その制度で新規就農される方に向けて、勉強会や交流会も積極的に展開しています。

「最近、孫が農家の後継者になるケースをいくつか見てきているんです。一世代前は会社に入って勤め人になることがステータスでしたけれど、私たちの世代では会社勤めが絶対的なものではなくなってきて、仕事を自分で作りたい、いわゆる自営をしたい方も多い。そういう動きの中で、新規就農が増えているのかもしれません」

時代の流れの中で、個人事業主やフリーランスという生き方が一般的になりつつあります。久野さん夫妻は農業を愛し、地域のコミュニティでも活躍していますが、決して特別な気負いはなく、若い感性を生かしながら自然体で農業を営んでいるという印象でした。

これから「農業」という選択肢が、若い世代に選ばれる可能性は大きく広がっているのかもしれません。楽しそうにこれまでの歩みやいちごの栽培について語るお二人を見て、そう思わされました。
農業王の受賞、おめでとうございます。

関連リンク

JA西三河「いちご新規就農支援プロジェクト「いちごスクール」」
ソリマチ株式売社「「農業王2024」受賞者決定!」
ソリマチ株式会社「農業王SDGs」

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。