農業利益創造研究所

インタビュー

“三方よし”の堅実経営で利益を拡大するぶどう農家「望月果樹園」

レジェンド農家 インタビュー「望月果樹園(望月 勝さん)」

「農業は儲からない」なんて考えはもう古い!
農業だって、やり方次第で儲かるということを実践している農家が、山梨県にいました。

山梨県山梨市でぶどうを栽培している「望月勝」(もちづきまさる)さんの経営をご紹介します。

儲かる秘密1:リスク分散しつつ、規模拡大で収益もアップ

親の代からぶどう農家を務める望月さんは、13~15品種のぶどうを育てているそうです。品種が多いのは利益効率のためですか?とお聞きすると、いやいや、品種を絞った方が効率は良いですよ、とのこと。新しい品種を試したいだとか、今も買いたいお客様がいるとか、そのような理由で品種が増えていったそうです。

「利益だけを考えれば、シャインマスカット一本に絞った方が圧倒的に効率は良いですよ。非常に値段が高いですから。ただ、今のブームが過ぎた時に値段は下がります。そのリスクを考えると、シャインマスカットだけに絞るのは危険ですね。ぶどうは野菜と違って、植え替えも簡単ではありませんから」

望月さんは利益よりリスク重視という経営方針を取りつつも、およそ3,000万円の売上をあげています。1/3がビニールハウス、2/3が露地栽培で、ビニールハウスは特に値段が上がる4~5月頃に出荷します。出荷先は9割がJAで、残り1割は知人への直接販売。直売所やECサイトなど、不特定多数の消費者に向けた販売チャネルでは、特に販売していないそうです。

ほ場の規模は1町2反(1.2ha)。高齢化でぶどうづくりが続けられなくなった農家さんからの、「農地を借りてくれないか」という頼みを引き受けていたら、自然と規模が拡大していきました。

「ぶどう農園に囲まれた土地でぶどう以外の作物を作ると、色々な問題が生じます。それなら、自分が借りてぶどうを作ろう、と思いました。利益のためというより、みんなが困っているから、という理由でしたね」と語る望月さん。

規模が拡大したおかげで家族だけでは手が回らなくなり、短期でパートさんを雇うようになったそうですが、全体的に利益も増えたそうです。他人を助けることで自分も益するという理想的な展開ですね。

儲かる秘密2:地域や農業全体に貢献する「三方よし」の経営

ビジネスにおいて「三方よし」という有名な言葉があります。「売り手良し」「買い手良し」「世間良し」の三つの「よし」を指し、売り手と買い手が満足するだけでなく、社会貢献も行うことが商売の理想であるという意味です。

農業も経営の一つである以上、この「三方よし」の哲学が当てはまるでしょう。先ほどの規模拡大についてのエピソードだけではなく、望月さんは地域や農業界全体に貢献しようと積極的に動かれる方でした。

たとえば、農作物を作ることはできても、体力が要る出荷作業は厳しい高齢の農業者向けに、農作物をほ場まで取りに行くサービスを始めては?と地元のJAフルーツ山梨に提案したそうです。農業法人はそういったサービスを提供してくれるところも多いから、これからもJAが選ばれるためにはそういう改善が必要だ、と望月さんは考えているそうです。

実際にサービスが始まると決まったわけではありませんが、JAも望月さんの提案の実現に向けて、色々と動いてくれているそうです。JAは私の意見を聞いてくれるから不満はありませんね、とのコメントも印象的でした。JA側の農家の意見を取り入れて柔軟に対応する姿勢も、これからの農業に必要なものの一つでしょう。

また、望月さんは果樹園の栽培ノウハウを掲載する機関誌「山梨の園芸」(発行・山梨県果樹園芸会)の編集委員を務めて四年になります。果樹栽培の課題と、それに対する対策が具体的に書かれている雑誌で、JAや果樹試験場などが主に執筆しており、日本全国で広く読まれて五千部を発行しているそうです。

望月さんの仕事は、掲載内容を決める月一回の編集会議。具体的には、記事内容の検討と反省やこれからの構成などについてです。忙しい中で大変ではないですか?と尋ねると、大変ですが、果樹農家さんに頼りにされている雑誌ですから情熱を持ってやっています、とのお返事でした。

このように自身の利益だけではなく、地域全体や農業界全体のことを考えて行動する「三方よし」の精神。これこそが、望月さんの利益創造を支えている秘訣なのかもしれません、とお話をお聞きして思わされました。

ぶどう栽培の展望と課題

ぶどう栽培は機械化が難しい分野のため、望月さんの農場でも機械化している作業はほとんどありません。ただし先日、望月さんはぶどうの摘粒(房の形がきれいになるように、ぶどうの粒を一部取り除く作業)の最適な場所を教えてくれる農業機械の発表会に行ってきたそうです。この機械は現在のぶどうの映像を映すことで、AI分析によって摘粒すべき粒を割り出してくれます。

この機械があれば、未経験のパートさんにとって摘粒が簡単になり、作業もより効率化できます。将来的に実用化されたら、コスト面で問題がなければ導入したい、と望月さんは語っていました。

最後に、新規就農の方は多いですか?と尋ねると、シャインマスカットブームのおかげでぶどうは儲かるというイメージがあるみたいで、自分の若い頃よりはずっと多いよ、とのことでした。ただし必要な水を確保するのが難しいなどの問題もあり、残念ながら就農して数年で辞めてしまう方も少なくないそうです。ブームを持ってしても、新規就農の方が末永く続けていくのは、そう簡単にはいかないようです。

望月さんは一時的なブームに流されず、地に足のついた経営を心掛けているという印象でした。さらに「三方よし」の精神で農業経営に取り組んでいます。他人のため、社会のために尽くすことが、農業においても巡り巡って利益創造につながっていくのではないでしょうか。

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。