
JAインタビュー「JA茨城県中央会 県域営農支援センター 農業経営支援室」
農業利益創造研究所では、優良な農家さんにインタビューして優れた経営手法を紹介しています。
今回はそのインタビュー企画の延長として、JAさんの「農業経営管理支援の取り組み」により、農家さんの所得が上がる事例を紹介していきます。JAという存在が、農業の利益創造に大きく貢献した具体的事例を取り上げますので、全国のJA関係者の方にはもちろんのこと、農業を営む方にも参考にして頂きたいと思います。
※「農業経営管理支援」とは、JAが農家の取引を記帳代行で簿記入力し、確定申告の支援を行い、簿記や販売データを元に経営診断や経営指導を行う取り組みのことです。
茨城県の農業は
JA茨城県中央会の県域営農支援センター・農業経営支援室に所属する「渡辺 宰」(つかさ)さんにお話をお聞きしました。

茨城県は、JA数は17JA、令和元年における農業産出額は全国3位という農業県です。県内の農産物で産出額全国第1位の農産物は、かんしょ、メロン、レンコン、ほしいも、みずな、などです(H30年データ)。
「茨城県は、温和な気候と広大で平坦な大地、そして首都圏に隣接していることなどの有利な条件を生かして、どんな農産物でも生産できるのが特徴です。しかし、何でも作れますが、「茨城県ならこれっ!」という、全国の消費者が思い出してくれるような特産品が無いことが課題なんですよね」と渡辺さんは語ります。
オールマイティに何でもこなせるからこそ特徴がない、というぜいたくなようで難しい悩みです。

茨城県が運営する「茨城をたべよう」というポータルサイトでは、茨城のおいしい食材や加工品、それを使った料理のレシピなどを紹介しています。ここを覗いてみると、茨城の農業がいかに幅広いかが、よくわかるのではないでしょうか。
経営管理支援の取り組み
そんな農業県のJAであるJAグループ茨城は、農業における利益創造においても、様々な工夫をしています。
具体的には、全農が肥料成分配合を工夫した低価格肥料を販売したり、農家さんにクレジット決済のポイントバックによる還元を勧めたり、JAが補助金申請して導入した設備や機械を農家さんに貸し出したりと、地域全体のコスト削減に貢献しています。
記帳代行の取り組みは2006年からスタートし、年々農家数が毎年約100件ずつ増加し、2021年では1,400人となっています。
県下17JAのうち16JAが記帳代行の取組を行っているということで、全国のJAの中でも、経営管理支援にかなり注力していると言えるでしょう。
経営管理支援の具体的な内容は、
・複式簿記による取引記帳代行
・青色申告決算書の作成支援
・消費税申告書の作成支援
・所得税確定申告書の作成支援
・専従者給与の源泉徴収、年末調整の支援
・法人化支援
・法人決算支援
・農業者年金推進、農業労災推進、農作業安全対策
など多岐にわたっています。
これらの記帳代行システムは、農業会計ソフトで全国的に知名度があるソリマチのWeb版農業簿記・確定申告システムを使用しているそうです。税務申告は派遣契約している税理士に依頼して、電子申告しています。
見習いたい特徴3つ
渡辺さんからお話を伺い、JAグループ茨城の経営管理支援で特に優れていると感じる特徴が3つありました。
① 事務集中型による記帳代行
他県での通常の記帳代行は、それぞれのJA内で担当職員を配属し、帳簿の回収、仕訳入力、面談や経営指導を行っている「JA単独型」です。しかし、 JAグループ茨城では、「事務集中型」という形式を採用し、各JAにて帳簿を農家さんから回収したらJA中央会に送付し、中央会にて集中的に仕訳入力を行う方法です。

「事務集中型」により、簿記入力が行える職員を集めて体制を構築できないJAでも、中央会に委託して経営管理支援を遂行できます。茨城で、ほとんどのJAが経営管理支援に取組める理由がここにあるわけです。
② 県全体の統計表
JAグループ茨城では、1,400人の農家のデータを集計し、「農家経営の現況」という統計表を作成しています。
この統計表は、損益計算書、貸借対照表、所得税、の3つのデータを、JA別、主幹作物別、第1第2主幹作物別、年齢構成別などの切り口で集計しています。これにより、どのJA管轄の農家さんが成長しているか、どの作目の利益率が高いか、などが見える化でき、JA職員の気づきにつながるそうです。
農家一人一人の経営診断も重要ですが、鳥の目で全体をとらえ、地域として所得増大するにはどうすべきか考えることも、とても重要です。

また、販売や肥料農薬の資材購入を、JA系統でどれくらい農家さんが利用しているかも分析しています(損益計算書で経営全体の売上や資材購入額を把握し、JAとの取引額を集計すれば率の計算は可能です)。
③ 農家への個別面談経営指導
記帳代行や申告の支援は、それ自体農家さんから喜んでもらえる取組みですが、これだけでは終わりません。JAグループ茨城では、JAと農家さんの個別面談方式で、出力された経営診断書をもとに、経営支援を行っているそうです。
「翌年5~7月にかけて、説明会の開催や個別面談の実施、農家個々の自宅に出向いて経営診断書を説明しています。診断表は3種類あって、損益計算書3か年対比表、損益月次推移表、農産物JA出荷データ分析表、です。今年度から、A4裏表程度のわかりやすい簡易版分析表も使っています」
渡辺さんはこの経営支援について、自分と同じ作目を作付けしている他の農家さんの肥料費や農薬費などの平均金額や、売上に対する構成比率が、自分の経営と比較分析できるので、自分の経営を知るよいきっかけになり、農家の方からとても喜んでもらっている、とおっしゃっていました。

経営管理支援 取組みの成果
経営管理支援を行った農家さんの2019年と2020年の収入金額や所得を見ると、少しですが額が増えています。少なくとも、減退していないだけでも成果があると言えるのではないでしょうか。
農業簿記ユーザーの全国平均金額と比較しても、茨城県の農家さんは優れた経営をしています。さすが全国3位の生産額を誇る県です。
単位:千円 | 茨城県2019年 | 茨城県2020年 | 全国平均 |
---|---|---|---|
記帳代行 農家数 | 1,200 | 1,305 | 14,895 |
販売金額 | 21,308 | 22,011 | 16,245 |
収入金額 計 | 23,992 | 24,837 | 20,128 |
専従者給与 | 3,221 | 3,273 | 1,951 |
世帯農業所得 | 5,805 | 6,293 | 4,937 |
世帯農業所得率 | 24.2% | 25.3% | 24.5% |
※農業世帯所得とは、控除前農業所得+専従者給与のこと
販売、肥料、農薬の経営全体に対するJA利用率は以下の通りです。これは他県のJAとの比較検討ができませんが、JAとしては重要な数字です。
2018年 | 2019年 | 2020年 | |
---|---|---|---|
販売 | 78.9% | 79.8% | 79.9% |
肥料 | 63.5% | 64.6% | 63.2% |
農薬 | 63.6% | 65.3% | 63.7% |
渡辺さんは、経営支援していく中で、資材の提案、共済の提案、など行いながら、記帳代行をしている農家さんのJA貯金残高は確実に増えているし、間違いなくJAと農家さんとの信頼関係は高まっている、と誇らしそうにおっしゃってました。
今後の展望
今後取り組みたいことについては、渡辺さんは、こうおっしゃっていました。
「農家の規模が大きくなって農業法人になる方が増えてきています。そういった法人の方にも引き続きJAとお付き合いして頂けるよう、支援を続けていくノウハウや体制をもっと作っていきたいですね。それから、農家の経営状態に合った経営改善提案の引き出しをたくさん用意して、農家の方に提案していくために、我々のスキルをもっと高めていきたいです」
まとめ
経営管理支援の取り組みは、全国のJAさんで多数行われています。JAとしても、多くの農家の経営改善を支援し、地域全体として、そして日本農業全体として農業を発展させていきたいという思いを持っています。
農業利益創造研究所では、これからも他のJAさんの取り組みをインタビューしながら、良い事例を紹介していきたいと思います。これをお読みの農家さんも、地域のJAのサービスに、経営改善や利益創造に生かせるものがないかどうか、今一度確認してみてはいかがでしょうか。
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