
JAインタビュー「青森県農業協同組合中央会・農協電算センター」
今回は、青森県農業協同組合中央会様にインタビューさせて頂き、「農業経営管理支援事業の取組み」による農家の所得向上に貢献する事例を紹介していきます。全国のJA関係者の方はもちろんのこと、農家の方にも参考にして頂きたいと思います。
※「農業経営管理支援事業」とは、JAが農家の取引を記帳代行で簿記入力し、確定申告の支援を行い、簿記や販売データを元に経営診断や経営指導を行う取り組みのことです。
青森県の農業は
今回は、青森県農協中央会の「工藤 有香」さんと、農協電算センターの「棟方 渉」さんにお話をお聞きしました。
青森県の経営管理支援事業は以前から棟方さんが中心となって取り組んできましたが、現在は電算センターでシステム的な面からこの事業の取組みを行っているとのことです。

青森県は令和2年の農業産出額が東北第1位であり、なんといってもリンゴの産地です。夏の冷涼な気候を生かして様々な品種を作付けていて、青森県の人はたくさんあるリンゴの品種を見ただけで答えられるとか答えられないとか。

他にはナガイモ、ニンニク、ゴボウ、ダイコン、ニンジンの根菜類の生産量が高く、リンゴも含めて長期保存ができる農産物が多いことが特徴。昔から寒さの厳しい青森は貯蔵できる農産物をたくさん作付けてきたそうです。
他に青森県では、公衆浴場の人口当りの数が日本一だそうです。棟方さんは常に車の中にお風呂セットを積んでいるとのことで、これも寒さに対応してきたお国柄なのでしょう。
青森県農業の課題は何でしょうか?と尋ねたところ、何と言っても農家数の減少と高齢化、それから、貯蔵できる農産物が多いので年間一定量を全国に出荷できるのは良いのだが、貯蔵費用と出荷費用が高くなってしまっている、とのことでした。
青森県内の農業簿記ユーザーの経営実態
ここで、青森県の農家の経営についても見てみましょう。青森県内のソリマチ農業簿記ユーザーの、普通作(米+麦・大豆)農家65件の平均と全国平均3,100件、それから果樹農家178件と全国1,800件を比べた差額を示したグラフは以下のようになりました。
普通作は収入金額が低く世帯農業所得(農業所得+専従者給与)も低くなっていますが、経費は低コスト化されています。普通作の収入ダウンは青森県の昨年の米価が著しく低下した影響と思われますが、通常の米価であれば全国平均より上を行く経営なのではないかと思われます。
果樹は全国より収入金額が高くなっていますが、経費が高くて世帯農業所得も低いです。経費の中でも荷造運賃手数料が高くなっていますので、前述したように貯蔵経費と輸送費の負担が高いのでしょう。現在JAではこれらの経費を削減するための対策を進めているとのことでした。
農家の所得増大の取組みとして、野菜のブランド化の推進や、リンゴの高密植栽培の普及、JAとベンチャー企業との連携によるリンゴ収穫マシンの開発、農家の肥料や農薬の事前予約を早めにとって(予約者には抽選で軽トラックプレゼントなど行って)、大量購入して価格を下げる努力をしているそうです。
他にも、「青森県農業労働力求人マッチングサイト」にて農業労働者を増やす取組みや、人材派遣会社との連携、第三者承継の推進などに力を入れています。
経営管理支援事業の取り組み
青森県での記帳代行の取り組みは2014年からスタートし、ソリマチの記帳業務支援システムを使って青色申告書作成支援、消費税申告書の作成支援、所得税確定申告書の作成支援、専従者給与の源泉徴収、年末調整の支援、経営分析、を行っているそうです。
農業簿記の入力を行って青色申告決算書作成支援を行っている農家数は1,819人、確定申告まで行っている農家さんは2,167人です。この数は全国のJAの中でトップクラスの人数です。
たとえばJA十和田おいらせでは職員1人、パート4人の計5人で約800人の記帳代行を行っているそうで、この数は驚異的です。効率的な運営の秘訣を棟方さんに聞いてみました。
「まず、農家さんの人数がそろわないとJA側の体制も組めないので、JA側の加入促進担当者と記帳代行入力者を分けて農家数を増やしていきました。そして、4月から12月まで毎月必ず農家さんから領収書や帳面を持ってきてもらい毎月入力しています。そして過去に記帳代行していて特に問題の無い農家さんとは決算前の面談は必要がある時しか行いません。このように長年やっていく中で効率的運営方法を確立しました」とおっしゃっていました。

さらにお話を聞いていく中で、皆さんのコミュニケーションがすばらしいことがわかりました。まず、各JAが定期的に集まって記帳代行等の情報交換を行い、みんなで相談し知恵を出しながら課題解決しているそうです。また、お酒を飲むことが大好きな棟方さんが中心となって、各JAの記帳代行担当者の方と飲みニケーションや研修視察旅行など、スキルアップとチーム力強化を行い、申告前の繁忙期をみんなで乗り切っているそうです。(ここ2年はコロナ禍で実行できていないそうですが...)
さらに、すばらしいのは、担当者のスキルアップを目的とした研修会の多さです。システムの操作研修会は勿論のこと、税理士先生を呼んでの簿記講座など、年に7回ほど研修会を開催しているそうです。この熱心な取り組みが実を結び、効率的な運営を実現しているのです。
今後の課題
農家の記帳代行や申告支援の取り組みは、農家の方からとても喜ばれていますが、その一方で課題も当然あるそうです。
まず近年、記帳代行の農家数が横ばいであり、担当者の増員が難しくて農家数を増やしたいけれど増やせない、でも増えないから体制強化できない、というジレンマを抱えています。
それから、申告支援は行えていても、そのデータを十分生かせてないそうです。データ活用の課題は2つあり、①農家の所得増大や農家のJA系統利用の増大を目指しているのだが、その成果が数字で正確に把握できていない、②簿記や確定申告、経営分析などの各種データをデータベース化して様々な切り口から集計し、経営分析・経営指導が十分できていない、とのことです。
これらは全国どこのJAも抱えている課題であり、さらに踏み込んだ農業経営支援がおこなえる「JA農業経営コンサルタント」の育成が急務となっています。
まとめ
ここ2年間はコロナ対策をしながらの取組みであり、農家との面談に非常に気を使い、もし担当者の自分が感染したらみんなに迷惑をかけてしまう、という精神的負担が大きくて大変だったとのことです。
たくさんの農家の記帳代行を行っている青森県の経営管理支援事業は、「多くの研修会によるJA職員の個人スキルアップ活動+JAどうし職員どうしの情報交換やチーム力による取組み」が特徴的であり、農家の経営を支援しようというチーム目標達成意識が高いところがすばらしいです。
2023年にはインボイス制度が始まります。いっそう記帳代行の手間が増えることが予想できますが、きっとチーム力で乗り切っていくのではないかと思います。

JAグループ青森は、「10年後も元気な農業と地域」の達成を目指し、「持続可能な農業と地域の実現」を実現しようとしています。その目標達成には、経営管理支援事業の取組みによる農業者の所得増大が重要です。
青森県人の気質である「じょっぱり」と言われる頑固さで、今後も先を見通した農業を実践していくのでしょう。青森の農業の今後に期待が膨らむ、非常に有意義なインタビューでした。
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