農業利益創造研究所

インタビュー

経産牛だから高利益!新しい可能性を発見【農業王 2022:穐永牧場】

「農業王2022」受賞者インタビュー 宮崎県都城市の穐永 忠夫さん

ソリマチ株式会社と農業利益創造研究所は、日本農業に無くてはならない個人事業農家を応援するために、優れた経営内容で持続可能な優良経営を実践している農業者を表彰する「農業王 アグリエーション・アワード 2022」を実施しました。

13,000件の青色申告決算書をもとに経営の収益性・安定性を審査して全国108人を選考し、その経営者へのヒアリング調査により経営力や持続可能性についてさらに選考を行い、北海道から九州までの9ブロックの中で、普通作(米+麦・大豆)部門、野菜部門、果樹部門、畜産部門ごとに計16人の「農業王」を選出しました。

今回は、宮崎県都城市の畜産部門の農業王である穐永 忠夫(あきなが ただお)さんからお話をお聞きし、優良経営の極意をご紹介します。

利益率に着目し、経産牛を専門に扱う

宮崎県は肉用牛の生産で知られ、地域ブランドの宮﨑牛は全国区でも高く評価されています。そんな宮崎県の都城市に位置する穐永牧場では、和牛84頭の肥育と水稲栽培を行っています。水稲の作付面積は6.5haで、品種はヒノヒカリ。専従者は奥様1名と、他に常時雇用を1名雇っています。

穐永牧場の最大の特徴は、出産を経験した「経産牛」を専門に取り扱っていることです。和牛においては去勢した雄牛や未経産牛(出産を経験したことのない雌牛)の価値が高く、経産牛は肉質が劣るというイメージが従来はありました。しかし、経産牛も適切な再肥育を行うことで上質な美味しい肉に変わるという新しい見方が、近年広がりつつあります。

穐永さんが経産牛を扱うようになったのは、脱サラして地元に戻った時です。穐永さんの父親は兼業農家として子牛の繁殖経営を行っていましたが、穐永さんはその事業を直接継ぐのではなく、肥育経営を新しく始めました。全酪連に勤めている奥様のお父様から、「経産牛は肥育の期間が短いから回転率が良い」という話を聞いたことがきっかけです。

「子牛の肥育は20か月かかりますが、経産牛の肥育は6か月で終わります。肥育期間が短ければ、それだけたくさん出荷できて売上も上がります。肥育を始めた当初はF1牛(交雑種)と経産牛が半々でしたが、今では利益率が良いという理由で経産牛だけを扱っています」

経産牛の再肥育は一般的に難しいと言われていますが、「私の感覚では、子牛より簡単だと思いますね」という頼もしいお返事でした。それでは、なぜ経産牛を扱う畜産農家が少ないのでしょうか?とお聞きしてみました。

「導入と出荷の負担が大きいからではないでしょうか。私は年間170頭ほど出荷と導入を行っていますが、それだけの牛が出入りすると、管理も大変ですし負担も大きい。それよりも、じっくり育てたいと感じる方も多いのかもしれません」

ライバルが少ないブルーオーシャンを見つけ出すのは、ビジネスで成功するための戦略の一つです。取り組む人が少ない経産牛に着目して結果を出している穐永さんは、さすがの経営手腕と言えるでしょう。

親子それぞれが独立した経営

現在、穐永さんはお父様と別々に経営を行っていて、お二人とも個人事業主です。農家では家を継ぐ場合、親元で専従者として働いて、しばらくして経営移譲を行うことが大半ですから、珍しい形態です。経営を分けている理由としては、その方がお互いやりやすいし節税にもなるから、とのお話でした。

たとえば穐永さんは素牛の値段が高い時、安い妊娠牛を購入し、お父様の牛舎を使って繁殖を行うことがあるそうです。それだけではなく、最近は繁殖の牛舎を建て増しし、お父様から牛を預かって面倒をみることもあるとか。もちろん、その際の費用はお互いにしっかり払っているそうです。

穐永さんのケースでは、二つの経営がお互いに相乗効果を発揮しています。「親の経営を継ぐもの」という固定概念から解放された、一つの経営工夫と言えるかもしれません。

水稲と畜産を両立させてコスト削減

収入を100とした時の費用の割合を見てみますと、穐永牧場は飼料費の割合が低く、全国平均29%に比べてわずか18%です。稲わらを水稲のほ場から集めているので購入する必要がなく、それで飼料費が低いのでしょう、とのご説明でした。

以前の水稲のほ場は50aほどでしたが、穐永さんが専業農家になってから、コンバインも導入して、現在の面積まで増やしていきました。高齢化の影響で水田を借りてほしいという方が多いので、借地を増やすのは難しくなかったそうです。

このように牛の飼料になる稲わらを水田から確保し、牛舎から出る堆肥は水田に還元しています。こうした自然の循環はSDGsの観点でも素晴らしいですし、コスト削減という点で経営上もプラスに働いています。

ただ、穐永牧場でも配合飼料は購入しているので、その高騰で今年は厳しくなる見通しだそうです。体感としては、飼料の値段は去年の5~6割増しになっているとのことで、深刻な飼料高騰は畜産農家様の共通の悩みのようです。

ちなみに穐永牧場の肉用牛の出荷先は屠畜場ですが、お米は7割がJAで3割が個人へ販売を行っているとのことでした。オンラインショップ等を使っているわけではなく、紹介を通じた知人への販売が中心です。一般的に直接販売の方が利益率が良いですから、これも利益向上につながっているのでしょう。

新しい技術導入で業務効率化

穐永牧場では、新しい技術の導入も適宜行っています。たとえば、牛の様子を見守るための監視カメラです。JAの研修で紹介されたのがきっかけで、費用はカメラ4台で15~20万円、通信費もさほど高くなく、コスト面の負担も小さいそうです。

「深夜に直接牛舎へ出向いて見回りをする必要がなくなって、助かっています。スマートフォンを使って手元ですぐに確認できますし、このおかげで、転倒事故を未然に防げたこともありますね」

他には、水稲栽培において、密苗の導入が非常に効率化に繋がったとのことです。密苗とは、通常よりも二倍程度の高密度で種籾を播種することで、育苗箱の数を1/2~1/3に抑える水稲の栽培方法です。

収量や品質が従来の方法とほぼ変わらず、さらに育苗箱が減るなどの理由で省力化を実現できるので、近年着目されています。穐永さんも「苗の量が約半分で済むので、だいぶ楽ですね。全然違いますよ」と語っていました。

さいごに

穐永さんはこのように様々な経営上の工夫を行っていますが、その中でも経産牛を専門に扱っている点が印象的で、ご自身でも「ニッチな経産牛を扱っている点が最大の特徴かもしれません」とおっしゃっていました。

経産牛の評判が悪かった時代は、過去のものになりつつあります。穐永さんのような先見の明のある畜産農家が増えれば、美味しい経産牛が市場にたくさん出回るようになり、経産牛の人気が今まで以上に上がっていくかもしれません。他の方が気づかない部分に着目し、新しい可能性を引き出して利益を上げている穐永さんは、立派な農業経営者でした。
農業王の受賞、おめでとうございます。

関連リンク

ソリマチ株式会社「「農業王2022」 受賞者決定!
農林水産省「水稲の「密苗」移植栽培技術

 この記事を作ったのは 農業利益創造研究所 編集部

農業者の簿記データとリサーチデータをデータサイエンスで統計分析・研究した結果を、当サイトを中心に様々なメディアを通じて情報発信することで、農業経営利益の向上に寄与することを目標としています。