
個人情報を除いた2019年度の簿記データ(ソリマチ農業簿記ユーザー:稲作専業農家1,700人)を統計分析しました。統計基準や用語の解説は「統計分析に使用している用語の説明」をご参照ください。
「売上はたくさん上がっているのに、経費が高くて利益が出ない……」ということにはなりたくないものです。
同じくらいの売上を上げているのに、最終的な所得で大差がついてしまうのは、なぜでしょう? 高所得を実現している農家は、どのような費用の使い方をしているのでしょうか。
今回は、稲作専業の高所得農家と低所得農家の費用について徹底比較を行い、利益創造のヒントを探っていきたいと思います。販売金額が1,500万円以上3,000万円未満の農家を対象にし、その中で「世帯農業所得」の上位100件(高所得農家)と下位100件(低所得農家)のデータを比較しました。
農家の所得差はどこから生まれるのか
まず、低所得農家と高所得農家の「販売金額」「控除前所得」「世帯農業所得」を見てみましょう。
※販売金額が1,500万円以上3,000万円未満の農家のうち、世帯農業所得の下位100件(低所得農家)と上位100件(高所得農家)を集計
高所得農家の「世帯農業所得」は平均で1,463万円、低所得農家は237万円で、その金額差は約1,200万円と非常に大きくなっています。
また、高所得農家の「販売金額」は平均で2,406万円、低所得農家は1,965万円で、販売金額自体にも450万円程度の差があります。
しかし、この差は「世帯農業所得」の金額差をずいぶんと下回っています。つまり、「世帯農業所得」の大きな金額差は、販売金額の差以外のところから来ているのではないか、という推論がなりたちます。
販売金額以外の所得に関係する要素は、費用と雑収入です。費用が大きければ所得は低くなりますし、雑収入が大きければもちろん所得は大きくなります。
費用構成比の比較
まずは、この二つのグループの費用構成比を比べてみます。
下図は、「高所得農家」と「低所得農家」の販売金額に対する各費用の比率の平均を表したものです。
※販売金額が1,500万円以上3,000万円未満の農家のうち、世帯農業所得の下位100件(低所得農家)と上位100件(高所得農家)を集計
各数値は各費用項目の販売金額に占める割合を表す
高所得農家で材料費が24.9%というのは、高所得農家100件を平均した時、販売金額のうち24.9%を材料費が占めているという意味です。
全ての費用の割合を合計して100%を下回っていれば、作物の売上が費用の合計を上回って利益が出ている、100%を上回っていれば売上が費用の合計を下回っていて赤字ということです。
まず、両者を比較してすぐにわかる違いは、高所得農家は作物の販売で利益を出して黒字になっていて、対照的に低所得農家は作物の販売で赤字になっているということです。
ただし、実際にはここに交付金などの雑収入が加わるため、低所得農家も最終的な利益は出ています。
それでは、作物の販売で利益が出るか出ないかの違いがどこから生まれているのかを探るため、費用構成の違いを詳しく見てみましょう。
個別の費用構成で違いが際立っているのは、労務費、減価償却費、その他経費(動力光熱費や農具費、通信費など)です。全て高所得農家の方が、割合が低くなっている事から
- 労務費が低い→雇用人数が少ない
- 減価償却費が低い→機械を有効に活用している
- その他経費が低い→動力光熱費などの細かい経費も節約している
という結果が読み取れます。
材料費の割合も高所得農家の方が低いので、種子や苗、農薬、肥料などの買い方・使い方にも節約の工夫があるのかもしれません。
これらの費用は、高所得農家が節約に成功し、利益を出している項目ですから、自分の費用の使い方で特に見直すべき項目です。
逆に、地代・賃借料と販売費はほとんど差が見られません。この二つは利益を出すためには影響しない項目、と言えるかもしれません。
雑収入の比較
これまで作物販売の金額、費用の構成要素を比較してきましたが、もう一つ重要な所得の決定要因が雑収入の差です。
先ほども書いた通り、作物販売が赤字になっている低所得農家も、雑収入を加えることで最終的な利益を出しています。
それでは、低所得農家と高所得農家は、具体的にそれぞれどれくらいの雑収入を得ているのでしょうか。
※販売金額が1,500万円以上3,000万円未満の農家のうち、世帯農業所得の下位100件(低所得農家)と上位100件(高所得農家)を集計
こちらのグラフは、低所得農家と高所得農家の雑収入のうち、「交付金」と「その他」の金額を比較したものです。
雑収入の総計を比べても、高所得農家の方が低所得農家よりも明らかに高くなっています。高所得農家は雑収入を900万超得ていて、低所得農家のおよそ2倍です。
高所得農家では、特に「経営所得安定対策交付金」をはじめとする交付金の割合が大きくなっています。
経営所得安定対策交付金を得るには、市町村等に農業経営改善計画を提出して「認定農業者」になる必要があります(農林水産省「認定農業者制度について」)。
手間はかかりますが、農業経営改善計画の作成は経営を見直す意味でもプラスになりますし、交付金の給付を受けられるという点でも、手がけて損はありません。
まだ認定農業者になっていないのであれば、認定農業者を目指すのも、利益を上げる上で有効な対策の一つです。
まとめ
高所得を得ている農家は、費用の削減と交付金などの雑収入のアップ、いずれにおいても成果を出していることがわかりました。
特に費用面では、労務費、減価償却費、その他経費について大きな差が見られました。
この機会に、削減できる費用はないか、有効的な交付金活用ができないかなど、経営を見直してみてはいかがでしょうか。さらなる利益アップが可能かもしれません。
関連リンク
農林水産省「認定農業者制度について」
南石教授のコメント
売上高が同じでも所得に大きな差がでるというのは、多くの農家にとって、とても参考になる結果です。
特に、減価償却費で差が大きいのは、機械化貧乏という言葉を思い出します。
その他経費(動力光熱費や農具費、通信費など)や労務費で差がついているのは、作業の段取りや仕事の進め方に差がありそうです。
交付金収入の差が大きいことは、政策支援を最大限活用する知恵や工夫の重要性を示しています。